ヘリテージ
自社の過去の名作を参照元に掲げ、その意匠を現代の機械と素材で甦らせた腕時計の系譜
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- 収録モデル
- 8
- ブランド
- 2008–2026
- 収録モデルの発表年
概要
ヘリテージウォッチ(Heritage Watch)は、自社の過去のモデルを参照元として明示した腕時計の総称である。その意匠を、現代の機械と素材で再現または再解釈する。ISO規格のような定義は存在しない。ただしGPHGは、歴史的モデルの復刻や再解釈を対象とする「Revival Prize(復刻賞)」を設けている。1990年代に自社のアーカイブから原型を選ぶ試みが現れた。2010年代以降は、周年記念を機に当時の図面から起こす忠実な復刻まで広がっている。用途ではなく出自で括られるため、ダイバーズやクロノグラフといった機能別のカテゴリとも重なり合う。
歴史
01アーカイブへの回帰
クォーツショックを経て機械式時計が再び市場を得はじめた1990年代、いくつかのブランドは自社の過去作に目を向けた。ジラール・ペルゴでは、1992年に社長に就いたルイジ・マカルーソが旧作の復刻を企画した。その成果が、1945年製の角型時計を原型として1995年に登場した「ヴィンテージ1945」である。マカルーソは後年、アールデコの意匠がかえって新しく受け取られると直感したと語っている。同社の博物館が買い戻した原型の実物が、再現の手がかりになったと伝わる。
02周年記念と再解釈
2008年、IWCは創業140周年を記念して「ヴィンテージ・コレクション」を発表した。自社の主要な系譜の原型を、現代の寸法で再構成した企画である。2012年にはチューダーが「ヘリテージ ブラックベイ」を発表する。1954年の初代サブマリーナ Ref.7922 から輪郭とドーム型風防を受け継ぎ、歴代モデルの意匠を一本にまとめた。同じ2012年、オメガは「ファースト オメガ イン スペース」を加えた。範としたのは、1962年の宇宙飛行で着用されたスピードマスター CK2998 である。
業界もこの潮流を一つの分野として扱いはじめる。2013年のGPHGには、歴史的モデルの復刻や再解釈を対象とする「Revival Prize」が設けられた。その年の受賞作はブラックベイである。専門メディアは当時、復刻モデルの増加を背景とする新設と受け止めている。
03原図面からの再現と「リマスター」
2019年、ゼニスはエル・プリメロの誕生50周年を機にリバイバルシリーズを始めた。1969年の原型を部品単位でデジタル化し、当時の図面をもとにケースまで再現する。この手法は、復刻の精度を一段引き上げた。対照的なのが、2020年のオーデマ ピゲ「(re)Master01」である。1943年のクロノグラフを題材としながら、同社はこれを歴史的な復刻ではなく現代の「リマスター」だと説明した。
2022年にはヴァシュロン・コンスタンタンが、1977年の「222」をイストリック コレクションで甦らせた。翌2023年はカレラの60周年にあたる。タグ・ホイヤーはこれを機に、ドーム型風防の「グラスボックス」ケースを主力のクロノグラフに採用した。忠実な再現と大胆な再解釈が並び立つ現在の構図は、この10年ほどで定まったものである。
特徴
01出自によって定義される
ヘリテージウォッチを定義するのは、防水性能や搭載機構のような機能要件ではなく出自である。中心にあるのは、ブランド自身が特定の過去モデルを参照元として名指ししていることである。ジラール・ペルゴ「ヴィンテージ1945」のように、名称に原型の製造年を冠する例も多い。単に古風な装いをまとうだけで参照元を示さないモデルは、本サイトではこのカテゴリに含めない。
02再現の度合い
過去との距離は、モデルごとに大きく異なる。おおむね三つの段階に分けて捉えられる。第一は忠実な復刻(リエディション)である。ゼニスのリバイバルは原型の寸法と意匠を保ち、現代化を最小限にとどめる。第二は再解釈である。オーデマ ピゲの(re)Master01は、原型の36mmケースを40mmへ広げ、自社製の自動巻きクロノグラフを収めた。第三は意匠の統合である。ブラックベイは特定の1本を写さず、歴代サブマリーナの要素を組み合わせて新たな1本とした。GPHGの復刻賞も「復刻または再解釈」を対象とし、これらを同じ分野として扱っている。
03共有される意匠言語
多くのヘリテージウォッチは、ドーム型の風防、原型に近い控えめなケース径、当時の書体やロゴの再現といった要素を共有する。(re)Master01の文字盤には「Audemars Piguet & Co Genève」の銘が記された。同社がジュネーヴに工房を構えていた時代の表記である。カレラ グラスボックスは、高く盛り上がったサファイア風防の下に目盛りを立ち上げた。1960年代の原型を想起させる奥行きは、この構造から生まれる。その一方で、ムーブメントや風防の素材、防水性能は現代の水準に置き換えられることが多い。外観は過去に、中身は現在にという二重性が、このカテゴリの性格を形づくっている。
04隣接カテゴリとの違い
ヘリテージウォッチは、当時製造された個体そのものであるヴィンテージウォッチとは区別される。前者は、原型を手本として現行品の製造工程で新たに作られた時計である。また、機能別のカテゴリとは排他的ではない。ブラックベイはダイバーズでもあり、スピードマスターの復刻はクロノグラフでもある。ヘリテージは「何のための時計か」ではなく、「どこから来た時計か」を示す横断的な分類である。
代表的なモデル
忠実な復刻の代表としてまず挙がるのが、ゼニスのクロノマスター リバイバルである。2019年のA386とA384に始まり、1969年の原型を部品単位で再現する姿勢を貫いてきた。2021年には「クロノマスター オリジナル」が定番として加わった。同じA386を範としつつ、現行のエル・プリメロ 3600を収めたモデルである。
再解釈の系譜では、オーデマ ピゲの(re)Master01が象徴的である。「1533」の番号で知られる1943年のクロノグラフを題材に、2020年に限定モデルとして登場した。ヴァシュロン・コンスタンタンのイストリック 222も、この系譜に連なる。原型は、1977年に創業222周年を記念して作られたスポーツウォッチである。2022年に金のケースで、のちにスチールのケースで甦った。
より身近な価格帯にも、このカテゴリは広がる。チューダーのブラックベイは2012年の登場以来、1954年の初代サブマリーナを源流とする意匠を受け継いできた。2013年のGPHGでは復刻賞を受けている。オメガのスピードマスター ファースト オメガ イン スペースは2012年に登場した。1962年の宇宙飛行で使われたCK2998を範とし、2024年に第二世代へ刷新されている。タグ・ホイヤーのカレラ グラスボックスは、1963年の初代カレラの精神を現代の比率で描き直したモデルである。
歴史の長い作例としては、ジラール・ペルゴのヴィンテージ1945が挙げられる。1995年の登場から30年にわたり、アールデコの角型の系譜を継いできた。2008年のIWC ヴィンテージ・コレクションは、創業140周年を機に主要な系譜の原型を一望させた企画である。いずれも、ブランドが自らの過去をどう読むかを示す作品群である。
このカテゴリのモデル一覧
TAG HEUER · Carrera Glass Box Carrera Chronograph Glass Box 41 Stainless Steel / Blue
Ref. CBS2113.BA0053
2026 ⌀41
ZENITH · Chronomaster Original Chronomaster Original Stainless Steel / Blue
Ref. 03.3200.3600/52.C910
2025 ⌀38
VACHERON CONSTANTIN · Historiques Historiques 222 Stainless Steel / Blue
Ref. 4200H/222A-B934
2025 ⌀37
OMEGA · Speedmaster First Omega in Space Speedmaster First Omega in Space Master Chronometer Stainless Steel / Blue-Grey / Bracelet
Ref. 310.30.40.50.06.001
2024 ⌀39.7
AUDEMARS PIGUET · (re)Master (re)Master02 Sand Gold / Blue
Ref. 15240SG.OO.A347CR.01
2024 ⌀40
TAG HEUER · Carrera Glass Box Carrera Chronograph Glass Box Stainless Steel / Blue
Ref. CBS2212.FC6535
2023 ⌀39
AUDEMARS PIGUET · (re)Master (re)Master01 Stainless Steel / Pink Gold / Champagne
Ref. 26595SR.OO.A032VE.01
2020 ⌀40
GIRARD-PERREGAUX · Vintage 1945 Vintage 1945 XXL Large Date and Moonphases Pink Gold / Blue Polycrystalline
Ref. 25882-52-1829BB4A
2019 ⌀36.1
TUDOR · Black Bay Heritage Black Bay Black Manufacture / Bracelet
Ref. 79230N-0009
2018 ⌀41
OMEGA · Museum Collection Seamaster 1948 Small Seconds Stainless Steel / Silver / Leather
Ref. 511.12.38.20.02.001
2018 ⌀38
VACHERON CONSTANTIN · Historiques Historiques Triple Calendrier 1942 Stainless Steel / Silver / Blue
Ref. 3110V/000A-B426
2017 ⌀40
TUDOR · Black Bay Heritage Black Bay Blue Manufacture / Bracelet
Ref. 79230B-0001
廃番 2016 ⌀41
TUDOR · Black Bay Black Bay Blue / Bracelet
Ref. 79220B-0001
廃番 2014 ⌀41
TUDOR · Black Bay Black Bay Red / Bracelet
Ref. 79220R-0001
廃番 2012 ⌀41
IWC · Vintage Collection Vintage Ingenieur Automatic 1955 Rose Gold / Black
Ref. IW3233-08
廃番 2009 ⌀42.5
IWC · Vintage Collection Vintage Ingenieur Automatic 1955 Rose Gold / Black / Sincere
Ref. IW3233-07
廃番 2008 ⌀42.5
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Rules 2013
- 02 報道 If You Love Vintage Watches (and Especially Chronographs), You’re Going to Love This
- 03 専門メディア IWC - going back to its roots at 140 years young
- 04 専門メディア Tudor Heritage Black Bay
- 05 専門メディア Audemars Piguet [Re]master01 Selfwinding Chronograph // Review
- 06 専門メディア Hands-On - 2021 Zenith Chronomaster Original 38mm (Live Pics & Price)
- 07 専門メディア Hands-On - The new Zenith Defy Revival A3642 (Live Pics & Price)
- 08 専門メディア Hands-On - Zenith El Primero A384 Revival (Live Pics, Specs & Price)
- 09 専門メディア Hands-On: The 2024 Omega Speedmaster FOiS (Side-by-Side with the Old FOiS)
- 10 専門メディア Tudor Heritage Black Bay ref. 79220R – Specs & price
- 11 専門メディア Hands On: TAG Heuer Carrera Chronograph “Glassbox”
- 12 専門メディア Review: Vacheron Constantin Historiques 222 in Steel
- 13 専門メディア The Grand Prix d’Horlogerie de Genève 2013 – announcing the jury, finalists as well as new categories and prizes
- 14 専門メディア Up Close: Vacheron Constantin Historiques 222
- 15 専門メディア Zenith Chronomaster Revival A384 Tropical | INTRODUCING
- 16 専門メディア The Tudor Heritage Black Bay
- 17 専門メディア IWC Vintage Collection watches
- 18 専門メディア Omega 310.30.40.50.06.001 : Speedmaster First Omega in Space Master Chronometer
- 19 専門メディア Omega 311.32.40.30.01.001 : Speedmaster First Omega in Space
- 20 専門メディア 70th anniversary of the Vintage 1945
- 21 専門メディア TAG Heuer Introduces Carrera Chronograph And Carrera Chronograph Tourbillon Watches With New ‘Glassbox’ Case Design
- 22 専門メディア Exploring the Origin of the Name of the Girard-Perregaux "Vintage 1945"