設計思想
1. 70周年に選ばれた原点
シーマスターの名は、今日ではダイバーズウォッチの印象が強い。しかし1948年の初代は、防水性を備えた日常用のドレスウォッチとして生まれた。第二次世界大戦中、オメガは英国国防省に11万本を超える時計を納入したとされ、その経験を戦後に民生品へ還元したのが始まりである。
2018年の70周年にあたり、オメガが記念モデルの題材に選んだのは、ダイバーズではなくこの原点の姿であった。前年には1957年誕生の3モデルを復刻する「1957 トリロジー」を発表しており、アーカイブを現代の工業水準で再構築する流れの中に本Refは位置づけられる。
2. 2011年の「1948」から何が変わったか
「シーマスター 1948」の名を冠した復刻は、本Refが最初ではない。2012年のロンドン五輪に向けては、Ref. 522.23.39.20.02.001が同じ1,948本の限定で作られている。1948年は前回のロンドン五輪の年でもあり、この先行モデルは五輪との結びつきを主題としていた。
両者はオパーリンのシルバー文字盤、6時位置のスモールセコンド、18Kホワイトゴールドのアプライドインデックスという骨格を共有する。変わったのは中身と主題である。先行モデルは39mmケースにCal.2202を収め、裏蓋はイエローゴールドの五輪メダリオンを嵌めた閉鎖型で、防水は120mであったとされる。本Refはケースを38mmに縮め、ムーブメントを最新世代のマスター クロノメーターに置き換え、裏蓋をシースルーとした。防水は60mに下がったが、これは初代の仕様に合わせた結果とされる。五輪の記念品から、シーマスター自身の生誕を祝う時計へと主題が移ったことが、仕様の選択にも表れている。
3. 対をなす2本の中での位置
本Refは、センターセコンド仕様のRef. 511.13.38.20.02.001と同時に発表された。両者は初期シーマスターに存在した2つの顔を、それぞれ引き受けている。ドフィーヌ針と中央秒針のセンターセコンド仕様が実用寄りの表情であるのに対し、本Refはリーフ針とスモールセコンドで、より古典的なドレスウォッチの姿を担う。
この構成は、8800系を基にしたマスター クロノメーターが、ダイバーズやアクアテラに限らずドレスケースにも収まることを示す役割も果たした。同年には、同じ意匠を950プラチナで仕立てたRef. 511.93.38.20.99.001が70本限定で続いたとされる。本Refは、この一連の70周年記念モデルの基準となるステンレス版である。
意匠分析
ケースはステンレススティール製の38mm径で、ロンドン五輪向けの先行限定Ref. 522.23.39.20.02.001から1mm縮小された。ベゼルとラグは鏡面に磨かれ、まっすぐに伸びるラグが初期シーマスターの輪郭を再現する。ラグ幅は19mmで、全長は45.80mmに収まる。38mmという径に対して見た目以上の量感があるのは、厚みのある鏡面ベゼルと直線的なラグの組み合わせによるものである。リューズにはヴィンテージ書体のΩが浮き彫りにされる。
文字盤はドーム状に反ったオパーリンのシルバーである。オパーリンとは、細かな粒子感を持つ乳白色の仕上げを指す。インデックスとヴィンテージロゴは18Kホワイトゴールドのアプライドで、アラビア数字とバーインデックスが混在する。色数を抑えた単色の構成は、初期モデルの簡素さに忠実である。
針は本Refと、同時発表のセンターセコンド仕様を分ける最大の要素である。本Refは時針と分針にリーフ型を採用し、分針はドーム状に曲げられている。いずれもダイヤモンドポリッシュの18Kホワイトゴールドで、夜光は持たない。センターセコンド仕様がドフィーヌ針を用いるのに対し、本Refは装飾性と原型への忠実さを優先したと読める。秒針は6時位置のスモールセコンドに置かれる。
裏蓋は、刻印の向きを常に正位置に揃えるオメガの特許機構「ナイアード・ロック」を採用するとされる。サファイアの窓には70周年ロゴ、クリス・クラフト社のボート、英国空軍初のジェット機グロスター・ミーティアがレーザー彫刻され、手作業で彩色されている。戦時中にオメガを使った飛行士と船乗りへの献辞である。
ムーブメントは自社製のCal.8804である。8800系をスモールセコンド用に改めた派生で、2018年に本機とともに登場した。コーアクシャル脱進機(摩擦を減らし長期の精度安定を狙うオメガ独自の脱進機構)と、シリコン製ヒゲゼンマイSi14を備える。振動数は毎時25,200振動(3.5Hz)。スイス連邦計量・認定局(METAS)によるマスター クロノメーター認定を受け、15,000ガウスの耐磁性を持つ。ロジウムめっきのブリッジとローターには、アラベスク状のジュネーブ・ウェーブ装飾が施される。
系譜と歴史
2018年3月、スイス・バーゼルで開かれたバーゼルワールド2018において、シーマスター誕生70周年を記念する限定モデルとして発表された。同時に発表されたセンターセコンド仕様のRef. 511.13.38.20.02.001と対をなし、限定数はいずれも1,948本である。数字はシーマスターが誕生した年にちなむ。
同じ2018年には、950プラチナケースの兄弟機Ref. 511.93.38.20.99.001が70本限定で加わった。こちらはムーブメントがCal.8805となり、文字盤は950プラチナ製、針とインデックスは18Kイエローゴールドに置き換えられたとされる。
納品時の構成は、装着済みのブラウンレザーストラップに加え、予備のレザーストラップ、「アドミラルティ・グレー」と呼ばれる灰色のNATOストラップ、ストラップ交換工具とされる。これらはブラウンレザー製のコレクターズボックスに収められ、時計は磁石の床によって立てた状態で保持される。予備レザーストラップの色は、流通個体の記述では青系とされるが、公式資料での確認は取れていない。
生産期間中の仕様変更は、公式発表の範囲では確認できない。一方でWatchBaseには、2022年に追加された枝番違いのRef. 511.12.38.20.02.002が登録されている。オメガ公式サイトにも同番号のページがあり、記載内容は本Refとほぼ同一である。両者の差異について公式の説明は見当たらない。
限定数はすでに完売したとされる。
出典
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