設計思想
起点となったRef. 4240
ヴァシュロン・コンスタンタン初のトリプルカレンダー腕時計として1942年に登場したのが、Ref. 4240である。直径35mmのケースに曜日と月の表示窓を12時下に並べ、外周にポインター式デイトを配す典型的な1940年代型のフルカレンダー(クァンティエム・コンプレ)で、搭載されたのはルクルトのエボーシュを基にしたCal. 485であった。涙滴形のラグと、いくつものゴドロン(段)を重ねた独特のケース側面を持ち、スティールの個体も知られる。
1940年代から1950年代にかけて、ヴァシュロン・コンスタンタンは同じトリプルカレンダーの配置を持ちながら、彫刻的なラグの形で描き分けた複数のモデルをカタログに揃えた。1948年には月相表示を加えたRef. 4240L(Lはフランス語のLune、月の意)が登場している。Ref. 4240は、真贋をめぐる長い疑問の時期を経て、今日では同社を代表するヴィンテージの一つとみなされている。
2017年、ヒストリークに加えられた一作
ヒストリーク・コレクションは、ヴァシュロン・コンスタンタンが自社アーカイブから象徴的な過去作を選び、現代の技術と寸法で再構成する場として運用されてきた。トリプルカレンダーについても、1990年代初頭にレ・ヒストリークのRef. 47050が短期間作られ、トレド1952やハーモニー・コンプリートカレンダーといったヴィンテージに着想を得たモデルもあった。2017年の本Ref.は、それらよりも原典に忠実な復刻として位置づけられる。
本機3110V/000A-B426は、同時発表されたピンクゴールド製の1948(月相付き、各色200本限定)とは性格を異にし、スティールケースのレギュラー生産品として企画された。ヒストリークとしては珍しいスティールの採用により、この種の時計としては手の届きやすい価格に収まった点が、発表時から注目を集めた。同時発表のRef. 3110V/000A-B425とは、カレンダー表示の差し色のみを違える対の構成となっており、本機がブルー、3110V/000A-B425が赤を担当する。
意匠分析
本機の意匠的特徴は、まず側面に施された「トリプル・ゴドロン」と呼ばれるケース構成にある。直径40mm、厚さ10.35mmのステンレススティールケースは、横から見ると三段の輪を重ねたような独特の段差を成し、これに細身のベゼルとわずかにドーム状に張り出すボックス型サファイアクリスタル風防が組み合わされる。ラグは原典の意匠を踏襲した「クロウ(鉤爪)」型である。原典のRef. 4240が35mmケースであったのに対し、本機は5mm拡大されているが、細身のベゼル設計により視覚的な大きさは抑えられている。
文字盤は放射状のブラッシュを施したシルバー仕上げで、表記はすべてプリントである。12時下に曜日と月の表示窓、6時位置にスモールセコンドを配し、外周のデイトはポインターで指示する。針はブルースティール製。本機(B426)では、カレンダー表示にブルーの差し色を採る。同時発表のピンクゴールド製1948が18Kピンクゴールドのアプライド・インデックスや金枠の窓で装飾性を高めたのに対し、スティールの1942はプリントの表記で原典の簡潔さに寄せている。
シースルーケースバックからは、手巻きCal. 4400 QCが見える。手巻きCal. 4400をベースとした自社製ムーブメントで、パワーリザーブは約65時間。ジュネーブ・シール(ポワンソン・ド・ジュネーヴ)の基準を満たす。原典のRef. 4240がルクルトのエボーシュを基にしていたのに対し、本機は現代の自社製ムーブメントで同じ表示配置を再現している。
系譜と歴史
本機は2017年10月、姉妹モデルのヒストリーク・トリプルカレンダー1948と同時に発表された。発表時のラインナップは、ステンレススティール製の1942(本機Ref. 3110V/000A-B426および赤の差し色のRef. 3110V/000A-B425)と、ピンクゴールド製の1948(月相付き、各カラー200本限定のRef. 3100V/000R-B359およびRef. 3100V/000R-B422)で構成されていた。
本機はヒストリーク・コレクションのなかでは比較的珍しく、限定生産ではないレギュラー品としてラインに加えられた。スティール素材を採用した点が、ピンクゴールド製の1948との大きな違いである。
発表以降、本Ref.は文字盤や機構の大きな仕様変更を経ずに供給されてきた。
1948の2色はいずれも200本限定で、月相を加えたCal. 4400 QCLを積み、ラグの張り出しを本機より控えめにしている。同じトリプルカレンダーの配置を共有しながら、素材とラグの解釈で2つのモデルが描き分けられている点は、1940年代の同社のカタログ構成をなぞるものでもある。
出典
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