設計思想
初代の成功と、二年目の選択
ブラックベイの物語は2012年、バーガンディベゼルの79220Rから始まった。1954年のサブマリーナーRef.7922に範を取った意匠は翌2013年のジュネーブ時計グランプリ(GPHG)で「リバイバル」賞を受け、同年には米国市場への再参入も果たす。再生途上にあったチューダーにとって、ブラックベイは看板を背負う存在になりつつあった。
その勢いを受けた2014年、ブランドが選んだ「次の一手」は新型機ではなく、色の追加だった。Baselworld 2014で発表された79220Bは、ケースもムーブメントも初代と共通のまま、ベゼルをミッドナイトブルーに置き換えた一本である。
なぜ青だったのか
この青は単なる流行色ではない。チューダーは1970年代、青い文字盤とベゼルのサブマリーナーを展開しており、その一部はフランス海軍に支給されたことで知られる。つまり青は、バーガンディと同じくブランドのダイバーズ史に根を持つ色である。前年の2013年にはヘリテージ クロノに青仕様(70330B)が追加されており、ヘリテージ路線の青展開は既定の流れでもあった。
ただし79220Bの設計は、色を差し替えただけでは終わっていない。初代の金色のインデックスと針を銀色に改め、文字盤の褐色がかった黒を深いマットブラックに置き換えた。ヴィンテージの擬似的な経年感を演出した79220Rに対し、79220Bは温度を抑えた、どこか道具然とした顔つきを持つ。同じ造形でも印象は大きく異なり、復刻調を好まない層へとブラックベイの間口を広げる役割を果たした。
ETA世代の終幕
79220Bの生産期間は短い。2015年に黒ベゼルの79220Nが加わり、ETA世代は3色体制となったが、翌2016年のBaselworldで自社製Cal.MT5602を積む79230世代が発表されると、ETA搭載機はそろって役目を終えた。後継の79230Bは外観こそ近いものの、文字盤のロゴは薔薇から盾へと改められ、リベット付きブレスレットを採用し、背の高い自社キャリバーを収めるためにケースバックも厚みを増している。
結果として79220Bは、薔薇ロゴと湾曲した文字盤表記、いわゆる「スマイリー」ダイヤルを備えた最後期のブラックベイ ブルーとなった。約2年という生産期間の短さも手伝い、ETA世代の79220系は世代交代後、初期ブラックベイの記憶を留める存在として独自の位置を占めている。
意匠分析
79220Bの設計は「初代の造形を保ったまま、色温度だけを反転させる」という一点に集約される。41mmのスチールケースはポリッシュとサテンを使い分けた仕上げ、面取りされたラグ、ガードを持たない大型のねじ込み式リューズまで79220Rと共通で、寸法上の変更はない。
固有性はまず色にある。逆回転防止ベゼルにはマット仕上げのミッドナイトブルーのディスクが収まり、リューズチューブにも青いアルマイト処理のリングが覗く。ベゼルとリューズ周りの青を呼応させる処理は本機ならではの細部で、薔薇の紋章が刻まれたリューズとともに、この世代の表情を決定づけている。
文字盤は深いマットブラック。初代の金縁インデックスとギルト針を銀色に改め、夜光は白いルミノバとした。1969年に登場した角張った「スノーフレーク」針も銀色で統一され、ドーム型の文字盤と風防が描く柔らかな輪郭の中に、冷たい金属色だけが浮かぶ。6時側に湾曲して並ぶ表記、収集家が「スマイリー」と呼ぶレイアウトと、12時側の薔薇ロゴは、後継世代で失われたこの時期固有の意匠である。
ムーブメントはETA 2824-2をベースとするCal.2824。パワーリザーブは約38時間にとどまるが、機械の全高は約4.7mmと薄く、フラットなケースバックと相まって、約6.5mm厚のMT5602を積む後継79230Bより薄い装着感を保つ。22mm幅のブレスレットはリベット表現のない無垢リンクで、安全装置付きフォールディングクラスプを備える。-0001はこのブレスレット仕様を指し、青いファブリックストラップが付属した。
系譜と歴史
79220Bは2014年3月、Baselworld 2014に合わせて発表された。開幕前夜にチューダーが催した会場で披露されたと伝わり、初代79220Rの登場からちょうど2年後の追加となった。発表時の参考価格はレザーストラップ仕様で2,950スイスフラン、ブレスレット仕様で3,250スイスフランと、初代と同額に据え置かれている。
販売形態は2系統で、スチールブレスレットに青いファブリックストラップが付属する79220B-0001と、エイジング加工の青いレザーストラップにファブリックストラップが付く79220B-0002が用意された。生産期間中に文字盤やベゼルの公式な仕様変更が告知された記録は確認できず、仕様はほぼ一貫していたとみられる。
2015年には黒ベゼル・赤トライアングルの79220Nが加わり、ETA世代はバーガンディ・ブルー・ブラックの3色が並んだ。しかし翌2016年3月のBaselworldで、自社製Cal.MT5602を搭載する79230世代(79230B/79230N/79230R)が発表されると、ETA搭載の79220系はカタログから退く。WatchBaseは本機の生産期間を2014年から2016年までとしており、実働はおよそ2年にとどまった。後継の79230Bは2016年8月から店頭に並んだとされ、これをもって青いブラックベイの主役は自社ムーブメント世代へと引き継がれた。現在、79220Bは生産終了モデルである。