アヴァンギャルド
文字盤と針という腕時計の文法を離れ、時刻の示し方と機械の構造そのものを造形し直した時計
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- 収録モデル
- 2
- ブランド
- 2015–2022
- 収録モデルの発表年
概要
歴史
01独立時計師の実験
1997年4月、フェリックス・バウムガルトナーとマルティン・フライはウルベルクを発表した。舞台は、バーゼルワールドに出展した独立時計師アカデミー(AHCI)のブースである。初作のUR-101とUR-102は、時の数字そのものが分の目盛りの上を移動するワンダリングアワー表示を採った。17世紀ローマの夜時計に着想を得たとも伝わる。6年に及ぶ苦闘を経て、2003年のUR-103でこの表示は衛星状に回る「サテライト」へと発展した。以後、サテライト表示はブランドの代名詞となる。
022001年前後の転機
2001年、ユリス・ナルダンは「フリーク」を発表した。文字盤も針もリューズも持たず、1時間で一回転するムーブメント自体が分針の役目を果たす時計である。ガンギ車にシリコンを用いた最初期の機械式時計でもあり、この素材はのちに業界へ広く普及した。同じ2001年、ハリー・ウィンストンは独立時計師と共同制作する「オーパス」シリーズを始めた。主導したのは当時の責任者マキシミリアン・ブッサーとされ、初作はフランソワ=ポール・ジュルヌとの協業である。2005年のオーパス5では、ウルベルクのバウムガルトナーが衛星表示を持ち込んだ。専門メディアは、このシリーズが参加した時計師の名を収集家の外にまで広めたと評している。
伝統的なメゾンにも、実験の場を設ける動きが現れる。ロイヤル オークの誕生から30年にあたる2002年、オーデマ ピゲは初のコンセプトウォッチを発表した。ケースには、コバルト系の合金アラクライトが用いられた。この作品は、のちのロイヤル オーク コンセプトの系譜の起点となった。
03コンセプト・ラボとしてのブランド
2005年、ブッサーは自らのブランドMB&Fを設立した。2007年には、最初のホロロジカル・マシン「HM1」を発表する。それまでの腕時計の文法から大きく離れた、立体的な構成の作品であった。2011年のレガシー・マシン LM1は、大径のテンプを文字盤の上に浮かべた。ブッサーは、19世紀に生まれていたら作ったであろう時計を構想の出発点にしたと語っている。未来志向と古典志向という二つの極を一つのブランドが並行して追う構図は、このカテゴリの幅を示している。2021年には、より手の届きやすい姉妹レーベルM.A.D.エディションズが始まり、その表現はより広い層へ届くようになった。
特徴
01時刻表示の再発明
このカテゴリでまず目を引くのは、時刻の示し方である。ウルベルクのサテライト表示では、時の数字を載せた衛星が回りながら分の目盛りの上を進み、一つの表示で時と分を伝える。MB&FのHMXはジャンピングアワーと分のディスクをムーブメントの上に置き、プリズムで反射・拡大して前方へ映す。HM10では、左右二つのドームの回転で時と分を読ませる。M.A.D.1は時刻をケースの側面に移し、二つの回転する円筒で示す。いずれも、中心の針で時を指すという前提そのものを置き換えている。
02構造を見せる設計
時刻表示と並ぶもう一つの軸が、ムーブメントの構成である。フリークは機械全体を回転させ、それを分針として使った。レガシー・マシンは、通常はケースの裏側に隠れるテンプを文字盤の上へ吊り上げた。M.A.D.1は既製のムーブメントを上下逆に載せ、回転錘を表側で回す。機構の数は必ずしも多くない。HMXの機能は時と分の表示に限られる。重視されるのは機構の複雑さではなく、機械をどう配置し、どう見せるかである。ケースもこれに合わせて造形され、自動車や動物といった主題から形が起こされる例も多い。
素材の選択も、意匠の一部として扱われる。初代ロイヤル オーク コンセプトは、コバルト系の合金アラクライトをケースに用いた。M.A.D.1の三枚羽根の回転錘はチタンとタングステンで作られ、表側で高速に回る姿そのものが見せ場になっている。HMXのムーブメントは、自社開発のジャンピングアワーと分表示のモジュールを、汎用の輪列の上に組み合わせて成り立つ。既製の機械を出発点にしつつ、表示と見せ方で独自性を生む手法も、このカテゴリでは珍しくない。
03隣接カテゴリとの違い
アヴァンギャルドと最も混同されやすいのはスケルトンである。スケルトンは、既存の構成から地板や文字盤を削り、内部を透かして見せる手法を指す。これに対してアヴァンギャルドは、表示と構造の配置を最初から組み替える。結果として内部が見えることはあるが、それは目的ではなく帰結である。複雑機構を主題とする時計とも異なり、括りの基準は機構の多さではなく発想の新しさにある。担い手は独立系に多いものの、大手メゾンのコンセプトウォッチも含まれる。本サイトでは、慣習から根本的に離れたモデルをこのカテゴリとする。基準は、時刻表示、ムーブメントの構成、ケースの造形の三点のうち少なくとも一つである。大きさや色の奇抜さだけでは、この分類には入らない。
代表的なモデル
このカテゴリの源流に位置づけられるのが、ウルベルクのUR-103である。2003年の登場以来、サテライト表示はブランドの代名詞となり、後続の多くのモデルの基礎となった。ユリス・ナルダンのフリークは2001年、文字盤も針もリューズも持たない構成で登場した。その後も同社の技術開発の場として改良が重ねられている。
大手メゾンの試みとしては、オーデマ ピゲの初代ロイヤル オーク コンセプトがある。2002年に登場し、伝統的なメゾンが未来志向の造形に踏み込んだ例となった。ハリー・ウィンストンのオーパス・シリーズは、毎回異なる独立時計師と組む形式をとった。ヴィアネイ・ハルターによるオーパス3のように、SF的な造形に踏み込んだ作品も含まれる。
MB&Fの作品群は、このカテゴリの幅を一つのブランドの中で示す。出発点は2007年のHM1である。2015年の10周年記念作HMXは、ジャンピングアワーをプリズムで前方へ映す自動車風の造形をとった。記念作を複雑化させるのではなく、手の届きやすさを優先した点でも異色の存在である。2020年のHM10 ブルドッグは、アルミニウム製のドームで時と分を示し、顎の開閉でパワーリザーブを表す。その上では、径14mmのテンプが宙に浮くように振動する。一方、2011年に始まるレガシー・マシンは、丸いケースに浮遊するテンプを組み合わせた。LM101はその構成を簡潔にまとめたモデルである。
価格帯の裾野を広げたのが、2021年のM.A.D.1である。既製のムーブメントを反転させ、時刻を側面で読ませる構成は、MB&Fの発想をより身近な形で示した。当初はMB&Fの協力者と所有者の会に向けて頒布され、のちに対象を広げている。造形の新しさは高価な複雑機構だけのものではないことを、この時計は示している。
このカテゴリのモデル一覧
MB&F · Horological Machines Horological Machine N°10 HM10 Dark Bulldog Blue
Ref. 100.AL.B
2022 ⌀45
MB&F · M.A.D. Editions M.A.D. 1 BLUE
Ref. M.A.D. 1 BLUE
2021 ⌀42
MB&F · Legacy Machines Legacy Machine LM101 Red Gold / Blue
Ref. 52.RL.BL
2021 ⌀40
MB&F · Legacy Machines Legacy Machine LM101 Steel / Blue
Ref. 52.SL.BL
2021 ⌀40
AUDEMARS PIGUET · Royal Oak Concept Audemars Piguet Royal Oak Concept Frosted Gold Flying Tourbillon White Gold / Blue
Ref. 26630BC.GG.D326CR.01
2020 ⌀38.5
AUDEMARS PIGUET · Royal Oak Concept Audemars Piguet Royal Oak Concept Frosted Gold Flying Tourbillon Pink Gold / Blue
Ref. 26630OR.GG.D326CR.01
2020 ⌀38.5
MB&F · Horological Machines Horological Machine HMX Black Badger Phantom Blue
Ref. 57.STBL.B
2015 ⌀46.8
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 M.A.D. Editions, M.A.D.1 Red
- 02 公式 MB&F, HMX
- 03 公式 Ulysse Nardin, Freak One
- 04 公式 HMX
- 05 公式 Horological Machine N°1
- 06 公式 Horological Machine N°10
- 07 公式 M.A.D.1 RED
- 08 公式 The history of URWERK
- 09 公式 Watches and Wonders 2023 - Freak 2001
- 10 専門メディア Review: It's a Mad, Mad World of the new M.A.D Edition M.A.D 1
- 11 専門メディア Our Favorite New Pet: MB&F Launches the HM10 Bulldog
- 12 専門メディア Hands-On MB&F LMX - 10th Anniversary Legacy Machine (Price)
- 13 専門メディア Introducing the MB&F Legacy Machine 101 - LM101
- 14 専門メディア Retrospective: 1997-2023, The Entire URWERK Collection Explained
- 15 専門メディア Harry Winston's Opus Series: A Complete Overview From Opus 1 Through Opus 13 (Archive)
- 16 専門メディア The 2002 Audemars Piguet Royal Oak Concept Watch Is One Of The First "Superwatches."
- 17 専門メディア IN-DEPTH: Rebellion meets technology in the history of the Audemars Piguet Royal Oak Concept
- 18 専門メディア The Freak: a technical monster
- 19 専門メディア Celebrating 25 Years Of URWERK Watches
- 20 オークション Harry Winston and F.P. Journe - Opus One