設計思想
4年ぶりに動いた[RE]マスター
[RE]マスターは、オーデマ ピゲが自社アーカイブの個性的な時計を現代の技術で「リマスター」するシリーズである。第1作の[RE]マスター01(Ref. 26595SR.OO.A032VE.01)は2020年、ル・ブラッシュのミュゼ・アトリエ開館に合わせて発表された。1943年製クロノグラフを着想源とする500本限定で、復刻ではなく再解釈という姿勢を明確にした。その後シリーズは沈黙し、第2作の登場は2024年。4年の間隔は、このシリーズが定期的な商品ラインではなく、アーカイブから語るべき題材が見つかったときにだけ動く企画であることを示している。
原点としてのModel 5159BA
[RE]マスター02が参照したのは、1960年に製作された非対称ウォッチModel 5159BAである。オーデマ ピゲは1959年から1963年頃にかけて、左右非対称の造形を持つ時計を少数製作しており、5159BAはわずか7本のみが作られたと伝わる。粗い素材感と幾何学的な量塊を特徴とするブルータリズム建築に通じる意匠で、ラウンドケースが支配的だった時代には極めて異質な存在だった。第1作がクロノグラフという「機能」の再解釈だったのに対し、第2作は時分表示のみの2針。題材の選択そのものが、造形を主役に据えるという宣言になっている。
サンドゴールドという現代の素材
オリジナルの5159BAはイエローゴールド製だが、[RE]マスター02はこれをなぞらず、2024年に同社が導入した18Kの新合金「サンドゴールド」を選んだ。ピンクゴールドとホワイトゴールドの中間に位置する色調で、光の加減により表情を変える。この合金は2024年初頭のロイヤル オーク自動巻き フライング トゥールビヨン オープンワークで初めて採用され、本作はその初期の展開例にあたる。過去の意匠に新素材を重ねる構成は、複製ではなく再解釈というシリーズの定義を素材面から裏づけるものだ。
ロイヤル オーク中心のカタログにおける意味
現行のオーデマ ピゲはロイヤル オーク系とCODE 11.59が柱であり、フォームウォッチ的な造形はカタログにほぼ存在しない。[RE]マスター02は、ブランドが1972年以前に持っていた造形の自由さを示す数少ない窓である。2024年はイラリア・レスタがCEOに就任した最初の年でもあり、本作はロイヤル オーク ミニの復活と同時に発表された。アーカイブの再評価という文脈の中で、250本という生産数以上の役割を担ったリファレンスといえる。
意匠分析
ケースは幅41mm、厚さ9.7mmの非対称形。上下で幅の異なる台形的な輪郭を持ち、右側面が大きく張り出す。オリジナルの5159BAは27.5mm程度と伝わる小ぶりな時計であり、寸法の現代化が再解釈の第一の選択である。外装はほぼ全面がサテン仕上げで、ダイヤル外周の見切りのみをポリッシュとし、エッジの鋭さを際立たせている。
最も製造難度が高いのは風防だろう。サファイアクリスタルは右側に15.8度の傾斜面を持ち、ケースの非対称性をガラス自体が引き継ぐ。防水性と品質基準を満たすため、この風防の開発には2年を要したとされる。防水は30m。ねじ込み式リューズは持たない。
ダイヤルは「Bleu Nuit, Nuage 50」と名付けられた濃紺で、1972年の初代ロイヤル オークの文字盤色と同系統の色名を引き継ぐ。面は12の三角形セグメントに分割され、各面にPVDによる着色と方向の異なるリニアサテン仕上げが施される。セグメント間はサンドゴールドの仕切りで区切られ、光が当たるたびにモザイクのように明暗が移ろう。針はサンドゴールドのスティック型2針で、秒針も日付も持たない。
ムーブメントは自動巻きCal.7129。2022年にロイヤル オーク ジャンボ エクストラシンへ導入されたCal.7121から日付機構を省いた派生で、厚さは3.2mmから2.8mmへ薄くなった。毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブ約52時間。22Kゴールド製ローターはケースの非対称形に呼応した切り欠きを持ち、サンドゴールド調に仕上げられる。矩形のケースに円形ムーブメントを収める構成のため、リューズの巻き真は長く、シースルーバックからはその空隙も見て取れる。ストラップはマット仕上げのブルーアリゲーターで、サンドゴールド製ピンバックルが付属する。
系譜と歴史
サンドゴールドの物語は本作の少し前に始まる。2024年1月、オーデマ ピゲはこの新合金をロイヤル オーク自動巻き フライング トゥールビヨン オープンワークで初めて発表した。[RE]マスター02はその数カ月後、2024年5月末に公開された同年第2弾の新作群の1本である。発表はロイヤル オーク ミニの復活と同時で、2020年の[RE]マスター01から4年ぶりにシリーズが更新された。
生産は世界限定250本。単一仕様で、文字盤色やストラップの派生は設定されていない。発表時の参考定価は41,100スイスフランと報じられた。限定生産のため、以後の仕様変更や年次改良は確認されていない。一方、本作が早期に採用したサンドゴールドはその後ブランド全体へ展開され、2024年から2025年にかけてロイヤル オークやCODE 11.59の複数モデルに広がった。素材史の観点では、本作はこの合金の普及初期を記録するリファレンスでもある。
2025年にブランドは創業150周年を迎えたが、記念モデルの中心はロイヤル オークとCODE 11.59であり、[RE]マスターの第3作は2026年6月時点で発表されていない。シリーズは2020年の01と2024年の02の2作構成のまま推移しており、15240SG.OO.A347CR.01は[RE]マスター02を名乗る唯一のリファレンスである。