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BRAND · CH · EST. 1868

IWCアイ・ダブリュー・シー

Country
CH
Founded
1868
Headquarters
スイス シャフハウゼン
Group
リシュモン・グループ
Founders
フローレンタイン・アリオスト・ジョーンズ
Web
www.iwc.com ↗

アメリカ人時計師が1868年にスイス北端シャフハウゼンに築いた、技術系時計の系譜を継ぐマニュファクチュール

01 — 概要 / OVERVIEW

IWC(International Watch Co.)は、1868年にアメリカの時計師フローレンタイン・アリオスト・ジョーンズがスイス北部のシャフハウゼンで創業した時計製造会社である。スイスの熟練手工とアメリカ式機械工程の融合を起点とし、20世紀には軍用パイロットウォッチや高精度クロノメーターで名を成した。1985年のダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダーで機械式高級複雑時計の復権を牽引し、2000年にリシュモン傘下入り。現在はパイロットウォッチを中心に、ポルトギーゼ、インヂュニアといった主要ファミリーを擁する技術系ブランドとして知られる。

02 — Philosophy

設計思想

What this house values

IWCの設計思想は、創業者ジョーンズが掲げた「スイスの手工とアメリカの機械工程を組み合わせる」という命題に源流をたどることができる。シャフハウゼンというスイス時計産業の中心から離れた立地、ライン川の水力を引き込んだ早期の機械化、量産化と高精度の両立 ── これらの選択は、いずれも合理性と機能を優先する技術系ブランドの輪郭を作った。

工房の合言葉として知られる「Probus Scafusia(シャフハウゼンの確かな技)」は、過剰な装飾よりも信頼性と実用に価値を置く姿勢を示している。1940年のBig Pilot's Watch 52 T.S.C.、1948年に英国空軍向けに納入されたMark XI、1985年のクルト・クラウス(Kurt Klaus)によるパーペチュアル・カレンダー ── 代表作はいずれも、特定の用途や課題に対する技術的な解として生まれている。

意匠面でも、IWCは派手な装飾よりも視認性と機能美を優先してきた。パイロットウォッチの大型アラビア数字、シンプルな剣型針、コニカル(円錐型)リューズといった要素は、すべて読み取りやすさと操作性のために選ばれた語彙である。一方で、1939年の初代ポルトギーゼでは懐中時計用ムーブメントを腕時計ケースに収めるという発想の転換を行い、1976年のジェラルド・ジェンタによるインヂュニアSLでは一体型ブレスレットを採用した。装飾は控えめでも、構造的な大胆さを併せ持つ点に特徴がある。

商業哲学としては、競合のパテック フィリップが伝統と高度な複雑機構の継承を、ロレックスが堅牢性と汎用性を一貫して追求するのに対し、IWCは「技術系の解決」を中心軸に据える。チタンや色付きセラミック、自社開発のセラタニウム(Ceratanium)といった素材革新を早期に取り入れてきたのも、その表れである。

03 — Story

物語

A narrative of the house

1. アメリカ人時計師が選んだスイスの辺境

1868年、アメリカ・ボストン近郊のE・ハワード社で経験を積んだフローレンタイン・アリオスト・ジョーンズ(Florentine Ariosto Jones)は、スイスのシャフハウゼンに渡り、International Watch Company を設立する。当時28歳前後。彼の構想は単純明快であった。スイスにはまだ家内制の熟練手工が残り、賃金水準も比較的低い。そこにアメリカ式の機械化された量産工程を持ち込めば、米国市場向けに高品質な時計を競争力ある価格で供給できる、というものである。

ジュネーブやラ・ショー=ド=フォンといった既存の時計産地ではなく、ドイツ国境に近いスイス北端のシャフハウゼンを選んだ理由は、ライン川の水力にあったと伝わる。地元工場主ヨハン・ハインリヒ・モーザー(Johann Heinrich Moser)が築いた水力発電設備の存在が、ジョーンズの判断を後押ししたのである。1888年にはIWCの工場が早期に電化されたことも、この立地の延長線上にある。

しかし、ジョーンズの事業は順調には進まなかった。普仏戦争(1870-1871)後の不況、米国市場の低迷、為替の変動が重なり、1875年に経営は破綻に至る。1876年にジョーンズは帰国し、1880年、地元実業家のヨハネス・ラウシェンバッハ=フォーゲル(Johannes Rauschenbach-Vogel)が会社を引き継ぐ。以後IWCは、ラウシェンバッハ家、続いてホンベルガー(Homberger)家の所有のもとで、20世紀半ばまで歩むことになる。

2. 懐中時計から空のための時計へ

ラウシェンバッハ家とその後継者たちのもとで、IWCは堅実な歩みを続ける。1885年にはヨゼフ・パルウェーバー(Josef Pallweber)の特許に基づき、ジャンピング・ナンバーで時分を表示する懐中時計を製造した。1936年、当時のオーナーであるエルンスト・ヤコブ・ホンベルガー(Ernst Jakob Homberger)の二人の息子(ハンス・エルンストとルドルフ)が、いずれも操縦士の資格を持つことから企画を発案し、初のパイロットウォッチ「Special Pilot's Watch」(Ref. 436、通称Mark IX)が誕生する。

1940年には、ドイツ空軍向けの観測時計(Beobachtungsuhr、B-Uhr)仕様に応じて「Big Pilot's Watch 52 T.S.C.」(Ref. 431)が約1,000本製造された。直径55ミリ、革手袋を着けたまま操作できる巨大な円錐型リューズ、剣型針、視認性に特化したダイヤル ── これらは現代の Big Pilot に至る設計言語の原型となっている。第二次大戦末期の1944年4月、米軍機の誤爆で工場が一部損壊したが、戦後すみやかに復旧した。1948年には英国空軍の仕様6B/346に基づく「Mark XI」を納入、Cal. 89の高精度と軟鉄インナーケースによる耐磁性で、英国軍では1981年まで現役で用いられたと記録される。

3. クォーツ危機とブリュムラインの再建

1955年、新オーナーのハンス・エルンスト・ホンベルガーがIWCを引き継いだ年に、技術部長アルベール・ペラトン(Albert Pellaton)が手掛けた初代インヂュニアが登場する。1950年に特許化された両方向自動巻機構「ペラトン巻き上げ」を備え、軟鉄インナーケースで強磁界環境下での精度を担保した。1967年には水中の安全を期した内部回転ベゼル付きの初代アクアタイマー、1969年にはベータ22ムーブメントを採用したクォーツ式のダ・ヴィンチを発表 ── 機械式の伝統に固執せず、新技術を取り入れる姿勢を見せた。

1970年代後半、クォーツショックがスイス時計産業を直撃する。1978年、ドイツのVDOシンドリング(VDO Schindling)がIWCとジャガー・ルクルトを傘下に収め、1981年前後にギュンター・ブリュムライン(Günter Blümlein)がIWC経営の中核に入る。彼が主導したのは、機械式時計を「実用品」ではなく「文化的な工芸」として再定義することであった。1985年に発表されたダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー(Ref. 3750)は、技師長クルト・クラウスが81個の部品で2499年まで補正不要のカレンダー機構を実現したもので、リューズひとつで全表示を同期する革新性により、IWCを高級複雑時計の名門に押し上げた。1993年の創業125周年には、1930年代のRef. 325を蘇らせた「ポルトギーゼ・ジュビリー」(Ref. 5441)が現行ポルトギーゼの起点となった。

4. リシュモン時代と素材の探求

1991年、ブリュムラインはIWC、ジャガー・ルクルト、A. ランゲ&ゾーネを束ねる持株会社レ・マニュファクチュール・オルロジェール(LMH)を設立。2000年7月、リシュモン・グループがLMHをCHF約28億で買収し、IWCはリシュモン傘下入りした。2002年にBig Pilotが再生産され、2003年にスピットファイア、2006年にサン=テグジュペリ財団との協業、2007年にTop Gunシリーズが立ち上がる。並行して素材面では、1980年に時計業界で先駆けてチタンを採用、近年ではチタン合金を焼成して得る独自素材セラタニウムなどへと展開している。

2017年4月にクリストフ・グレンガー=ハー(Christoph Grainger-Herr)がCEOに就任。2026年のWatches and Wondersでは、民間宇宙ステーションHaven-1向けに開発されたパイロット・ヴェンチュラー・ヴァーティカル・ドライブ、5特許に守られた前後双方向調整可能な新パーペチュアル・カレンダー「IWC-ProSet」、ル・プティ・プランス20周年新コレクションを発表 ── 創業以来の「技術系時計の系譜」を、宇宙という新たな現場に拡張しつつある。

04 — History

歴史

A factual chronology

1868年、アメリカ・ボストン近郊のE・ハワード社で経験を積んだフローレンタイン・アリオスト・ジョーンズが、スイス北部のシャフハウゼンにInternational Watch Companyを設立した。アメリカ式機械工程とスイスの熟練手工を組み合わせた量産体制を構想したが、1875年に経営が破綻し、1880年に地元実業家ヨハネス・ラウシェンバッハ=フォーゲルが会社を引き継いだ。1885年には、ヨゼフ・パルウェーバーの特許に基づくジャンピング・ナンバー懐中時計を製造。1888年に工場が早期に電化された記録が残る。

20世紀に入ると、創業家から経営権を継いだホンベルガー家のもとで、空の時代に対応する時計が生まれる。1936年、エルンスト・ヤコブ・ホンベルガーの息子で操縦士でもあったハンス・エルンストとルドルフが企画した初のパイロットウォッチ「Special Pilot's Watch」(Mark IX)を発表。1939年には、ポルトガル人商人2人の発注で、懐中時計用Cal. 74を腕時計に搭載した「ポルトギーゼ」(Ref. 325)が誕生する。1940年、ドイツ空軍向けの観測時計「Big Pilot's Watch 52 T.S.C.」(Ref. 431)を約1,000本製造。1944年4月には米軍機の誤爆で工場が一部損壊するが、戦後復旧した。

1948年、英国空軍向けに高精度の「Mark XI」を納入。1955年、両方向自動巻のペラトン機構を備えた初代インヂュニアを発表。1967年に初代アクアタイマー、1969年にベータ22ムーブメントによるクォーツ式ダ・ヴィンチ、1976年にジェラルド・ジェンタによるインヂュニアSL、1978年にIWCはVDOシンドリング傘下に入る。1980年に時計業界で先駆けてチタンを採用。

1985年、技師長クルト・クラウスが設計した81部品のパーペチュアル・カレンダーを搭載した「ダ・ヴィンチ」(Ref. 3750)を発表 ── 機械式高級時計復興の象徴となった。1991年、ギュンター・ブリュムラインがLMH(レ・マニュファクチュール・オルロジェール)を設立。1993年に創業125周年記念「ポルトギーゼ・ジュビリー」(Ref. 5441)を発表、現行ポルトギーゼの起点となる。

2000年7月、リシュモン・グループがLMHをCHF約28億で買収。2002年にBig Pilotを再生産。2007年にTop Gunコレクション開始。2017年4月にクリストフ・グレンガー=ハーがCEOに就任。2023年にジェンタのインヂュニアSLを起点とした新インヂュニアを発表。2026年には宇宙ステーション向けの「Pilot's Venturer Vertical Drive」、新パーペチュアル・カレンダー「IWC-ProSet」、ル・プティ・プランス20周年コレクションを公開した。

05 — Series overview

シリーズ概観

How the series relate

IWCの現行コレクションは、用途に応じて発展してきた六つのファミリーに整理される。

パイロットウォッチ(Pilot's Watch)は、1936年のMark IX、1940年のBig Pilot、1948年のMark XIを起源とする最大のファミリーである。実用本位の大型アラビア数字とコニカル・リューズ、軟鉄インナーケースによる耐磁性が共通言語となっている。Big PilotMark XXTop Gun(色付きセラミック中心)、ル・プティ・プランス(青ダイヤル)、スピットファイアといった派生がある。

ポルトギーゼ(Portugieser)は、1939年のRef. 325を起源とする。懐中時計用ムーブメントを腕時計に収めた大型ケースと、細いベゼル、アラビア数字、リーフ針が意匠言語となる。現行ではクロノグラフ、パーペチュアル・カレンダー、トゥールビヨンまで広範な複雑機構を擁する。

インヂュニア(Ingenieur)は1955年に強磁界下で働くエンジニア向けに誕生した。1976年にジェラルド・ジェンタが手掛けたインヂュニアSLが、ケースとブレスレットを一体化したラグジュアリースポーツの語彙を確立。2023年にはこのSL系譜を起点とした新世代へと再構築された。

アクアタイマー(Aquatimer)は1967年に登場したIWCのダイバーズシリーズ。外周と内部を組み合わせた回転ベゼルや、SafeDive機構など、潜水時の操作性に焦点を当ててきた。

ポートフィノ(Portofino)は1984年に登場した薄型ドレスファミリーで、現代では機械式タイムオンリー、デイ&ナイト、クロノグラフを擁する。

ダ・ヴィンチ(Da Vinci)は1969年にクォーツ式として登場し、1985年にクラウスのパーペチュアル・カレンダーを得て複雑時計の名門に再定義された。現行ラインからは外れるが、IWCの歴史を象徴するシリーズとして言及される機会が多い。

06 — Series

代表シリーズ

Lineages of one house
シリーズ一覧 →
07 — Calibers

主要キャリバー

Movements of the house
キャリバー一覧 →
08 — Cultural

文化との接点

Where this house meets the wider world

IWCが世界と結びつく接点は、ほぼ「空」を介して立ち上がってきた。1948年に英国空軍に納入されたMark XIは、RAFパイロットの公式装備として1981年まで現役にあった。2007年に発足した「Top Gun」シリーズは、米国海軍戦闘機戦術教官課程(USN SFTI)の通称を冠したコレクションである。

文学との接点では、2006年からサン=テグジュペリ財団との協業が始まり、2013年以降は『星の王子さま』(Le Petit Prince)に着想を得た青ダイヤルの限定版が継続している。20周年を迎えた2026年にはコレクションが全面刷新された。スポーツの領域では、メルセデスAMGペトロナス・フォーミュラ1チームの公式パートナーとして、ドライバー向けの記念モデルを継続している。2026年にはVast社と組み、民間商業宇宙ステーション「Haven-1」向けに、宇宙空間での運用を前提に設計された初の機械式時計を発表した。