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CALIBER · IWC

80110

自動巻 Automatic Analog

2005年、復活インヂュニアと共に登場した、ペラトン式自動巻と独自衝撃吸収機構を核とするIWC自社製キャリバー

80110
movement · 80110
図: ムーブメント — WatchBase
OVERVIEW · 概要

IWC Cal. 80110は、2005年に復活したインヂュニア(Ref. IW3227)と共に投入された、IWC自社製の三針自動巻キャリバーである。直径30.0mm、厚さ7.3mm、振動数28,800vph (4Hz)、石数28、パワーリザーブ約44時間。アルバート・ペラトンが1940年代に考案した「ペラトン式自動巻」を中核とし、独自の衝撃吸収機構を統合する。1950年代のCal. 81以来となる小径の自社製機で、ヴァルジュー7750の輪列配置を参照しつつも互換部品を持たない独自設計を採る。インヂュニアやアクアタイマー等の三針モデルに搭載され、2016年まで生産された。

SPECIFICATIONS · 仕様
MakerIWC
Reference80110
TypeAutomatic
DisplayAnalog
Frequency28,800 bph (4 Hz)
Jewels28 石
Power reserve44 h
Movement ⌀30 mm
HandsHours, Minutes, Seconds
DateDate
EDITORIAL · 編纂

系譜と歴史

Genealogy & history

1. 自社製ムーブメント計画の中間点として

IWCが本格的に自社製ムーブメントへ回帰を始めたのは、2000年に発表されたCal. 5000系列に遡る。同キャリバーはペラトン式自動巻を踏襲した7日間パワーリザーブの大型機で、ポルトギーゼ・オートマティック等の上位モデルに搭載された。しかし直径38mm超という寸法と高価格帯への限定は、IWCの中核モデルを支える基幹ムーブメントとしては力不足であった。Cal. 5000系列で「作れる」ことを示した同社にとって、次の課題は「日常使い可能な汎用三針自社製機」の確立であった。

その回答が、2005年に発表されたCal. 80110系列(80000ファミリー)である。直径30.0mm・厚さ7.3mmという穏当な寸法は、1950年代のCal. 81家族以来およそ半世紀ぶりとされる小径の自社製機であり、IWCの中堅価格帯モデルへの自社製化を可能にする戦略的位置を担った。

2. 7750を「参照」した独自設計

Cal. 80110の輪列構成と時間関連部品の配置は、IWCのエンジニアが長年扱ってきたヴァルジュー7750系(特に手巻きベースの7765)に類似すると指摘されてきた。実際、IWCはそれまでクロノグラフのCal. 79系列で7750ベースのモディファイを行っており、設計者にとって最も熟知した産業基盤の一つであった。

ただし、Cal. 80110は7750と互換部品を持たない完全な独自設計であり、構成思想こそ堅牢性・整備性の指向を共有するものの、自動巻機構、ローター方式、地板形状はすべてIWC固有のものに置き換えられている。とりわけ7750系で知られた中心ローターの「揺れ」(wobble)は本機では発生しないと評価されている。

3. 派生と後継

2007年には、ソフトアイアン製耐磁ケースを採用しないシースルーバック仕様向けに、厚さを抑えたCal. 80111が派生展開された。アクアタイマー・オートマティック1967(Ref. 3231)、インヂュニア・オートマティック1955(Ref. 3233)、ダ・ヴィンチ・オートマティック1969(Ref. 5461)などのヴィンテージ・コレクションに搭載されている。

Cal. 80110系列は2016年に生産を終え、後継の82000家族(2017年〜)へとバトンを渡す。後継機ではペラトン機構の摩耗部品(自動巻車、爪、カム)がジルコニア・セラミックに置き換えられ、パワーリザーブも約60時間へ拡大した。

4. 同世代の自社製機との位置

Cal. 80110が登場した2005年前後は、スイス時計産業全体が自社製ムーブメント化に向かう転換期であった。ロレックスは既にCal. 3135で堅牢な三針自動巻の基準を確立しており、ジャガー・ルクルトはCal. 972/975系を、オメガはコーアクシャル脱進機を載せたCal. 8500を2007年に投入する。Cal. 80110はそれらと並走しながら、ペラトン式自動巻という1950年代由来の設計思想を21世紀の生産技術で再構築する系譜に属する。脱進機の革新ではなく、自動巻機構と耐衝撃性の最適化に重心を置いた点に、IWCの工学的アイデンティティが現れている。

MECHANISM · 機構と仕様

技術解説

Technical breakdown

1. ペラトン式自動巻機構

Cal. 80110の機構的核心は、アルバート・ペラトン(1898-1976)が1946年に出願、1950年に完成形を確立した自動巻機構の継承にある。一般的な切替車を介する両方向巻上げ機構とは異なり、ローター中心にハート型のカム(偏心輪)を配置し、その回転を揺動アーム(rocking bar)の往復運動に変換する。アームの両端には2つの爪(ラチェット)が設けられ、ローターがいずれの方向へ回転しても、一方の爪が自動巻車を引き、他方は滑って戻るという交互動作を繰り返す。

この方式の利点は、ローターの双方向回転を無駄なく巻上げに変換する効率の高さと、構成部品の少なさに由来する信頼性にある。Cal. 80110ではカム表面に2つのルビーローラーを配し、爪との接触を硬度と低摩擦の双方で支える設計が採られる。

2. 衝撃吸収機構

ペラトン式自動巻はその構造上、ローター軸と爪機構が衝撃を受けやすい弱点を抱える。Cal. 80110ではこの課題に対し、独自の「衝撃吸収システム」を統合した。具体的には、S字型に成形されたローター橋(rotor bridge)が衝撃を分散・吸収する機能を担い、IWC公式は「自動巻機構として最も効果的な衝撃保護」を実現したと表現している。Cal. 5000系列で得られた知見を、より小型のキャリバーに最適化した形と位置づけられる。

3. テンプ・ヒゲゼンマイと脱進機

調速機構はオーソドックスな構成で、グルシダー製テンプ(Glucydur balance)とニヴァロックス製フラットヒゲ(Nivarox flat hairspring)、スイス・レバー脱進機を採用する。フリースプラング機構ではなく緩急針による調整方式で、トリオビス(Triovis)製のマイクロメーター式微調整機構を備える。振動数は28,800vph(4Hz)で、4Hzは現代汎用機の標準値であり、精度と耐衝撃性のバランスを取った設定として広く採用される領域である。

4. 仕上げと装飾

地板およびブリッジは斜面取り(beveled)が施され、円形コートドジュネーブ(circular Côtes de Genève)による条線が刻まれる。スチール部品はブラッシュド仕上げと面取りの組み合わせ、ネジ頭は鏡面磨き上げ。ローターは部分的にスケルトナイズドされ、機構の一部を視認できる。装飾の質はシースルーバック仕様のCal. 80111搭載モデルで特に強調される一方、ソフトアイアン製インナーケースを備えるインヂュニア3227系のように裏蓋がソリッドの構成では、外からの視認を前提としない内部仕上げに止まる。

5. 耐磁性能はモデル側で担保

Cal. 80110自体は強い耐磁機構を内蔵しない。搭載モデルの構造側で耐磁性能を確保する設計が採られる。代表例はインヂュニア・オートマティック(Ref. 3227)で、ムーブメントを軟鉄製のインナーケースで包み込み、最大80,000A/m(約1,000ガウス)の磁場耐性を実現した。これはIWCがインヂュニアラインで1950年代から継承してきた手法であり、ムーブメント単体ではなく「機構+ケース構造」で耐磁性を達成する伝統に立脚する。一方、80111系列を搭載するシースルーバック仕様のモデルでは、この軟鉄ケージは省略される。

04 — CARRIERS · 搭載モデル一覧

このキャリバーを搭載する 2 本のリファレンス

This caliber appears in 2 references