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IWC · SERIES

Vintage Collection

ヴィンテージ・コレクション

創業140周年を機に編まれた、現行六ファミリーの原型を現代寸法で再解釈したIWCの記念アンソロジー

01 — 概要 / SUMMARY

Vintage Collectionは、IWCシャフハウゼンが創業140周年の2008年に発表した六本一組の特別集成である。Pilot's Watch、Portuguese、Ingenieur、Aquatimer、Da Vinci、Portofinoという現行主要六ファミリーそれぞれの原型を、現代の寸法と素材で再解釈した。原作の正確な復刻ではなく、原型の本質を現代の文脈で再構成するという編集方針が貫かれる。スチール、プラチナ、ローズゴールド、ホワイトゴールドの四素材で展開され、2008年から2012年までの短期間のみ生産された、IWCのアーカイブを一望できる稀有な企画である。

02 — STORY · 物語

Vintage Collection(ヴィンテージ・コレクション)、これまでの軌跡

The story of this series
01

140周年という編集視点

1868年、米国人時計師フローレンタイン・アリオスト・ジョーンズが、スイス・シャフハウゼンの地にInternational Watch Companyを設立した。それから140年が経った2008年、IWCは「ヴィンテージ・コレクション」と銘打った特別集成を発表する。

節目の重みは150年や100年に劣る。それでもIWCがこの年に過去を振り返ることを選んだのは、これまでの歴史的モデルが時に途切れ、時に意匠を刷新されながら現在に至っているからだろう。140周年というわずかに「ずれた」周年は、過去を整理して提示するための、ちょうど良い距離感だった。

発表は2008年のSIHHで、当時の社長ジョージ・カーンは「新製品はない。歴史的な製品に基づく現代の製品だ」と語った。正確な復刻ではなく、現代の素材とムーブメント、そして現代の手首に合うサイズで、それぞれの原型が持っていた本質を再構成する。これがヴィンテージ・コレクションを貫く編集方針となり、プロジェクトはクリエイティブ・ディレクターのガイ・ボーヴが率いた。

02

六本の原型 —— 現行ファミリーの「最初の一本」

ヴィンテージ・コレクションは六本で構成される。各モデルは、現行IWCの主要六コレクションそれぞれの「最初の一本」に対応する。

最も古い参照点は1936年の「Spezialuhr für Flieger」(Ref. IW436)である。耐磁性を備えた38mmのパイロットウォッチが、Vintage Pilot's Watch Hand-Wound 1936(Ref. IW3254)の原型となった。続く1939年、ポルトガルの卸商人ロドリゲスとテイシェイラの発注で生まれたPortuguese Ref. 325は、懐中時計用の機械を収めた径41.5mmの大型機。当時としては破格に大きく、商業的には成功しなかったと伝わる。これがVintage Portuguese Hand-Wound 1939(Ref. IW5445)の原型である。

戦後、IWCは技術職向けの実用機を投入する。1955年のIngenieur Ref. 666は、アルベルト・ペラトンが手がけた耐磁性の自動巻き機で、Vintage Ingenieur Automatic 1955(Ref. IW3233)の原型となる。1967年のAquatimer Ref. 812(後にRef. 1812)はIWC初の本格的ダイバーズウォッチ。スーパーコンプレッサー型のケースにツインクラウンと内側の回転ベゼルを備え、200m防水を達成し、Vintage Aquatimer Automatic 1967(Ref. IW3231)がこれを継承する。

最も先鋭的な参照は1969年のDa Vinci Ref. 3501である。スイス時計業界が共同開発したクォーツ「Beta 21」を搭載した未来主義的な一本。Vintage Da Vinci Automatic 1969(Ref. IW5461)は、これを41mmのケースと自動巻きCaliber 80111で再解釈する。クォーツを機械式に置き換えるという、コレクション中で最も逆説的な構成である。最後の参照点は1984年のPortofino Ref. 5251。懐中時計の機械を収めた大型の手巻きで、ムーンフェイズを備えていたとされる。これを継ぐのがVintage Portofino Hand-Wound 1984(Ref. IW5448)である。

03

寸法・素材と二系統のムーブメント

ヴィンテージ版に共通するのは、原作より一回り大きい寸法である。たとえばVintage Aquatimerは44mm、Vintage Da Vinciは41mmに設計された。2000年代以降のIWCのオーバーサイズ志向と整合する判断である。

素材展開は四種類。2008年にステンレススチール(黒文字盤)とプラチナ(銀色文字盤)が発表され、プラチナはすべて限定(Vintage Ingenieurのプラチナは500本)で、6本すべてをプラチナで揃えた限定のボックスセットも用意された。のちにローズゴールドとホワイトゴールドが加わり、6モデル×4素材=24本のラインナップとなった。後にブティック限定版やLaureusチャリティ版も加わった。

ムーブメントは自動巻きと手巻きの二系統。Ingenieur、Aquatimer、Da Vinciには現代の自動巻きCaliber 80110/80111系。Pilot's Watch、Portuguese、Portofinoには、ポケットウォッチ用ムーブメントを基にした98系手巻きが搭載される。98系は1930年代まで遡るIWCの長寿命キャリバーで、サファイアバックを通じてニッケルシルバー製の3/4プレート、スクリュー式テンプ、「ジョーンズ・アロー」と呼ばれる装飾的な歯車が見える構造となる。

04

短命なコレクションが残したもの

ヴィンテージ・コレクションの生産は、2008年に始まり2012年に終わった。わずか4年で、長く続くコレクションにはならなかった。

しかし、このコレクションがIWCに残した意味は小さくない。歴史的アーカイブを意識的に再編集し、現行コレクションの「源流」として提示する編集姿勢は、その後のIWCにおける周年企画や復刻シリーズの先駆けとなった。過去を参照する現代モデルの設計思想は、ヴィンテージ・コレクションが提示した方法論を引き継いでいる。短期間で姿を消したことで中古市場では各モデルが希少な存在となり、IWCの歴史を一覧できる小さなアーカイブとして独自の位置を保ち続けている。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

ヴィンテージ・コレクションを貫く設計思想は、「コピーではなく再解釈」という一語に集約される。IWCは歴史的な製品に基づく現代の製品と位置づけ、原作の正確な復刻ではなく、原型が持っていた本質を現代の文脈で再構成することを選んだ。

この方針は、いくつかの具体的な判断として現れる。

第一に、寸法の現代化。原作のPortuguese 325は41.5mm、Pilot's Watch 436は38mmだった。これらは現代の標準的な手首には小ぶりすぎる。ヴィンテージ版はすべて41mmから46mmへとサイズアップされ、現代のオーバーサイズ志向に合わせて再設計された。プロポーションは原作の意匠言語に忠実だが、寸法だけは現代に翻訳されている。

第二に、文字盤と針の意匠継承。リーフ針のPortuguese、棒針のDa Vinciなど、それぞれの原作が持っていた針形状は、ほぼそのまま受け継がれている。インデックスも同様で、アラビア数字、スティック・アンド・ドット、ローマン数字といった原作の選択が踏襲される。各ファミリーの「顔」を決定づける視覚的要素は変えない、というのが基本姿勢である。

第三に、機械の透視化。原作の多くは無垢のスチール製ケースバックを持っていた。Ingenieur 666の軟鉄ケージは、ムーブメントの保護と耐磁性のためにこそ存在した。しかしヴィンテージ版では全六本がサファイアバックを採用し、ムーブメントを開示する。これは原作の機能性とは異なる、現代の鑑賞行為への配慮であり、特に98系手巻きの装飾(3/4プレート、ジョーンズ・アロー、スワンネック緩急針など)を見せることに意図がある。

第四に、ムーブメントの使い分け。自動巻きの伝統を持つIngenieur、Aquatimer、Da Vinciには現代の80110/80111系を、手巻きの精神に近いPilot's Watch、Portuguese、Portofinoにはポケットウォッチ系譜の98系手巻きを充てる。原作の機構と必ずしも一致しないが、各ファミリーの性格に最も近い駆動系が選ばれている。

そして第五に、自己編集としての構成。ヴィンテージ・コレクションは「シリーズ」というより「アーカイブの企画展」に近い。六本がそれぞれ独立した出自を持ち、相互に統一されたデザイン言語を共有するわけではない。それでも六本を並べた時に立ち上がるのは、IWCというマニュファクチュールの自己提示である。何を残し、何を更新し、何を起源とするか。六本のヴィンテージは、その問いに対するIWC自身の回答として読むことができる。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
2008-2012
Cal. 80110 / 80111
現代の自動巻き、ペラトン機構を継承。
2008-2012
Cal. 98295 / 98300
ポケットウォッチ由来の98系手巻き。
2008-2012
Cal. 98800
98系手巻きにムーンフェイズを追加。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
2008-2012

ヴィンテージ・パイロットウォッチ 1936

IW3254
1936年のRef. 436を原型とする、手巻きのパイロット系。
2008-2012

ヴィンテージ・ポルトギーゼ 1939

IW5445
1939年Ref. 325を原型とする、98系手巻きの大型機。
2008-2012

ヴィンテージ・インヂュニア 1955

IW3233
1955年Ref. 666を原型とする、自動巻きの耐磁三針。
2008-2012

ヴィンテージ・アクアタイマー 1967

IW3231
1967年Ref. 812を原型とする、44mmのダイバーズ。
2008-2012

ヴィンテージ・ダ・ヴィンチ 1969

IW5461
1969年Ref. 3501を原型とする、41mmの自動巻き。
2008-2012

ヴィンテージ・ポートフィノ 1984

IW5448
1984年Ref. 5251を原型とする、手巻きの月相機。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

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06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 2 モデル

2 references in archive