1939年、海洋国家からの依頼
時計史において、ポルトギーゼほど一つの依頼から生まれた腕時計はない。1930年代、ポルトガルの卸売商ロドリゲスとアントニオ・テイシェイラの二人が、SchaffhausenのIWCに対し、マリンクロノメーターと同等の精度を持つ大型腕時計を要望したと伝わる。海洋国家の商人らしい注文であった。
当時の腕時計は径30mm前後の小型が主流であり、Art Décoの感性に沿った繊細さが時代の美意識であった。IWCはこの要求に対し、最も薄く精度の高い懐中時計用ムーブメントCal. 74を、径41.5mmのスチールケースに収めることで応えた。アプライドのアラビア数字、リーフ(feuille)ハンド、6時位置のスモールセコンド、レイルウェイ・ミニッツトラック。すべてが視認性に奉仕した構成であった。
社内ではこの個体はケース番号Mod. 228で管理され、リファレンス番号は持たなかった。後に便宜上Ref. 325と呼ばれるが、当時のカタログには一度も掲載されなかったとされる。最初の出荷は、皮肉にもポルトガルではなかった。1939年2月22日、ウクライナのオデッサにある卸売商L. Schwarczへ発送されたのが記録上の第1号である。ポルトガル本国に届くのは3年後、1942年2月のことであった。