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IWC · SERIES

Portugieser

ポルトギーゼ

懐中時計の精度を腕に。1939年、ポルトガル商人の依頼から生まれた、大型機械式時計の系譜の祖。

40.4 mm – 44.2 mm
01 — 概要 / SUMMARY

1939年、ポルトガルの卸売商が「マリンクロノメーターと同等の精度を持つ腕時計」をIWCに依頼したことから生まれた、大型機械式腕時計の原点である。当時としては破格の径42mm前後のスチールケースに、ポケットウォッチ用ムーブメントを収めるという独創で応えた。発表後40年余りはほぼ無名のまま少量生産が続き、1993年の創業125周年記念モデルで本格的に復活。現在はAutomatic、Chronograph、Perpetual Calendar、Yacht Club、Eternal Calendarへと枝分かれし、IWCを代表する顔の一つとなっている。

02 — STORY · 物語

Portugieser(ポルトギーゼ)、これまでの軌跡

The story of this series
01

1939年、海洋国家からの依頼

時計史において、ポルトギーゼほど一つの依頼から生まれた腕時計はない。1930年代、ポルトガルの卸売商ロドリゲスとアントニオ・テイシェイラの二人が、SchaffhausenのIWCに対し、マリンクロノメーターと同等の精度を持つ大型腕時計を要望したと伝わる。海洋国家の商人らしい注文であった。

当時の腕時計は径30mm前後の小型が主流であり、Art Décoの感性に沿った繊細さが時代の美意識であった。IWCはこの要求に対し、最も薄く精度の高い懐中時計用ムーブメントCal. 74を、径41.5mmのスチールケースに収めることで応えた。アプライドのアラビア数字、リーフ(feuille)ハンド、6時位置のスモールセコンド、レイルウェイ・ミニッツトラック。すべてが視認性に奉仕した構成であった。

社内ではこの個体はケース番号Mod. 228で管理され、リファレンス番号は持たなかった。後に便宜上Ref. 325と呼ばれるが、当時のカタログには一度も掲載されなかったとされる。最初の出荷は、皮肉にもポルトガルではなかった。1939年2月22日、ウクライナのオデッサにある卸売商L. Schwarczへ発送されたのが記録上の第1号である。ポルトガル本国に届くのは3年後、1942年2月のことであった。

02

半世紀の沈黙と、Jubileeによる復活

Ref. 325は商業的に成功しなかった。1939年から1981年までの42年間で、IWCのアーカイブが確認する生産数はわずか690本である。大戦の混乱、戦後の小型化志向、Quartz Crisisと、時代はこの大型機械式腕時計に冷淡であった。

転機は1993年に訪れる。IWC創業125周年を記念し、Ref. 325を忠実に復刻したRef. 5441が発表された。径42mm、シルバー文字盤、リーフハンド、6時位置のスモールセコンドという、原型をほぼ踏襲した設計である。搭載されたCal. 9828はポケットウォッチ用Cal. 982を改修したもので、毎時18,000振動 (2.5Hz)、約54時間のパワーリザーブを備えた。1,750本(ステンレス1,000本、ローズゴールド500本、プラチナ250本)の限定生産であり、ここで初めて「Portugieser」がコレクション名として公式に与えられた。長く無名であったRef. 325が、ようやくシリーズの起点として位置付けられたのである。

03

キャリバー5000とPellatonの再生

2000年、IWCは記念碑的な一本を発表する。Portugieser Automatic 2000、Ref. 5000である。径42.3mmのケースに収められたのは、新開発の自社製キャリバー5000。自動巻きとして史上最長の7日間(168時間)パワーリザーブを実現した、IWCの本格的な自社製ムーブメントへの回帰を告げる作品であった。

心臓部にあったのが、Pellatonワインディング機構である。1950年代、IWCの技術部長であったアルベール・ペラトン(Albert Pellaton)が考案した両方向巻き上げ機構を、現代の素材と工作技術で再構築したものだ。9時にスモールセコンド、3時にパワーリザーブインジケーターという水平対称のサブダイヤル配置がここで確立された。後継のCal. 51011、2015年以降のCal. 52000系列では、Pellaton機構の爪部分がセラミック化され、摩耗の少ない設計へと進化している。

04

Kurt Klausの永久カレンダー、そしてクロノグラフ

2003年、IWCはRef. 5021、Portugieser Perpetual Calendarを発表した。径44.2mmのケースに、伝説的時計師Kurt Klausが1985年のDa Vinciで考案した永久カレンダーモジュールを、5000系ムーブメント用に再設計して搭載したものである。

特筆すべきはダブルムーン表示である。北半球と南半球それぞれの月相を同時に表示するこの機構は、月相のズレが577.5年に1日という、当時の腕時計として最高クラスの精度を持つ。

クロノグラフもシリーズの定番として確立されていく。1998年のRef. 3714は、Valjoux 7750を改修したCal. 79240/79350を搭載し、12時に30分積算計、6時にスモールセコンドという縦並びの対称構成を持つ。約20年にわたりほぼ変更されずに生産が続き、2018年の創業150周年を機にRef. 3716として自社製Cal. 69355へ更新された。デザインはほぼ不変のまま、内部のみが本格的に進化したのである。

05

2020年代の再設計と、永遠への射程

2020年、IWCはPortugieserコレクション全体を見直した。新作Automatic 40(Ref. IW3584)は、1939年の原型に最も近いプロポーションを取り戻した径40.4mmのモデルである。クロノグラフは自社Cal. 69355を標準搭載とし、Perpetual Calendar 42やYacht Club Moon & Tideといった派生も整備された。

2024年にはさらに更新が加えられた。Automatic 42、Automatic 40ともに薄型化されたケースとダブル・ボックス・グラスサファイアクリスタルが採用され、文字盤には15層の透明ラッカー塗布による独自の光沢が与えられた。新色Horizon Blue、Obsidian、Dune、Silver Moonは、いずれも昼夜の循環を象徴する色彩である。

同年発表のPortugieser Eternal Calendar(Ref. IW505701)は、IWC初の世俗永久カレンダーである。3999年までグレゴリオ暦の閏年規則の例外を自動処理する400年ギアを備え、月相のズレは4500万年に1日にまで抑えられている。1939年に「マリンクロノメーターの精度を腕に」と始まった依頼は、85年を経て、人類の寿命とは無関係な時間スケールにまで届いたのである。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

ポルトギーゼの設計思想を一言で表せば、「ポケットウォッチの慎ましさを、腕時計の大きさで」となる。これは1939年の原型から現在まで、一貫して守られてきた設計上の規範である。

まず構造面において、径42mm前後という当時の腕時計としては大型のケースは、内部に懐中時計用ムーブメントを収めるための要請から生まれた。しかし大型化はそのまま、文字盤面積の拡大という別の効果を生んだ。極めて薄いベゼル、広く取られた文字盤、6時位置に深く彫り込まれたスモールセコンド。これらは「文字を読むため」の設計であり、装飾のための余白ではない。

意匠言語の核は三点に集約される。第一にアプライドのアラビア数字。荘重なローマ数字でも、装飾的なバトンインデックスでもなく、最も中立で読みやすい書体を選んだ。第二にフィユ(feuille、リーフ)型の針である。先端が細く絞られたこの形状は、Calatravaのドーフィン針やSubmarinerのメルセデス針とは異なる、繊細さと視認性の両立を狙ったものだ。第三に、文字盤外周を走るレイルウェイ・ミニッツトラック。鉄道時計の正確性を象徴するこの意匠は、シリーズの計時精度への意思表示でもある。

サブダイヤル配置にも一貫した美意識がある。Chronographでは12時と6時の縦並び二眼、AutomaticではPower Reserveを3時、スモールセコンドを9時に置く水平対称。日付窓を意識的に排した個体が多く、対称性が文字盤の中心構造として優先される。

同時代の競合と比べたとき、ポルトギーゼの輪郭はより鮮明になる。Rolex Daytonaが速度計算尺を、Omega Seamasterが防水性能を文字盤に語らせるなら、ポルトギーゼは「何も語らないこと」を選んだ。マリンクロノメーターの直系として、ただ正確であること、そして読みやすいこと。70年以上を経てなお一目でそれと分かる「ポルトギーゼらしさ」は、流行への迎合を拒んだ自制から生まれている。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1939-1981
Cal. 74
懐中時計用手巻き、原型を支えた。
1993-1997
Cal. 9828
Cal. 982改修、Jubilee専用の手巻き。
1998-2020
Cal. 79240 / 79350
Valjoux 7750改修、定番クロノの心臓。
2000-現在
Cal. 5000 / 52000系
自社製7日間PR、Pellaton復活と進化。
2018-現在
Cal. 69355
自社製クロノグラフ、Ref. 3716へ。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1939-1981

原型期 (Mod. 228)

325 Mod. 228
Cal. 74搭載の大型懐中時計ベース、シリーズの祖。
1993

Jubilee復刻

5441
創業125周年の限定復刻、シリーズ名が公式化。
1998-2020

クロノグラフ定番化

3714
Valjoux 7750ベースで20年余り続いた定番モデル。
2000-2015

Automatic 7-Day

5000 5001
自社Cal. 5000搭載、Pellaton復活と7日間PR。
2003-2015

Perpetual Calendar

5021 5022
クルト・クラウスのダブルムーン、577.5年精度。
2020-現在

現行コレクション再設計

IW3584 IW3716
Automatic 40と自社製クロノ、コレクション刷新。
2024-現在

Eternal Calendar

IW505701
世俗永久カレンダー、月相精度4500万年。
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 2 モデル

2 references in archive