52850
2015年、年次カレンダーと7日間パワーリザーブを両立した、IWC初の自社製アニュアルカレンダー機構
Cal. 52850は、IWCシャフハウゼンが2015年に発表した自動巻キャリバーである。同年に投入された自社製52000系ファミリーの一員で、シリーズ初の複雑機構版として年次カレンダーを統合した。振動数28,800vph (4Hz)、36石、二つの香箱による168時間 (7日間) のパワーリザーブを備え、ペラトン式双方向自動巻にはセラミック部品が採用される。Portugieser Annual Calendar Ref. 5035の専用ムーブメントとして登場し、後にBig Pilot's Watch Annual Calendarにも展開された。
| Maker | IWC |
|---|---|
| Reference | 52850 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 36 石 |
| Power reserve | 168 h |
| Movement ⌀ | 38.2 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds |
| Date | Date, Day, Month, Annual Calendar |
| Additional | Power Reserve Indicator |
系譜と歴史
1. 開発の背景
Cal. 52850は、IWCが2015年に発表した52000系ファミリーの一角を占めるキャリバーである。同社は2015年を「ポルトギーゼの年」と位置づけ、自社製ムーブメントの拡充に踏み出した。その第一弾として投入されたのが52000系であり、Cal. 52850はその中で初めて年次カレンダー機構を備えた複雑機構版となる。
先代にあたる5000系は2000年に登場し、ペラトン式自動巻による単一香箱で7日間のパワーリザーブを実現したIWCの基幹機構であった。ただし大型香箱の強大なトルクが初期段階で課題となり、ゼンマイ全巻時の安定性確保に長期の改良を要したと伝わる。52000系はこの教訓を踏まえ、二つの香箱への分割によってトルクを平準化する設計に切り替えている。
2. 52000系ファミリーの中での位置
52000系の基幹は時分秒のみを表示するCal. 52010で、ここから派生して時計毎に必要な複雑機構を載せたものがCal. 52110 (Big Pilot's Watch搭載)、Cal. 52610 (永久カレンダー)、そしてCal. 52850 (年次カレンダー) となる。Cal. 52850は基幹のCal. 52010にIWC自社開発の年次カレンダーモジュールを組み合わせた構成で、ベースムーブメントの設計思想を踏襲しつつ、12時位置に三窓の月・日付・曜日表示を加える。
年次カレンダーはIWCにとって新しい複雑機構であった。同社は2003年にポルトギーゼ・パーペチュアルカレンダーで永久カレンダーを既に手がけていたが、月の長さの違いを自動で処理しつつ閏年だけ手動補正する中位カレンダーは、Cal. 52850が初の自社製となる。
3. ペラトン巻上の継承と更新
52000系の中核は、IWC技術部長アルベール・ペラトン (Albert Pellaton) が1950年に特許化した双方向爪式自動巻機構である。ローターの回転をハート型カムで往復運動に変換し、二つの爪が交互に巻上車を回す方式は、極小の回転も巻上に転換できる効率の高さで知られる。
Cal. 52850ではこの古典機構を現代素材で再構成した。巻上爪と自動巻車には黒色セラミック、ローター軸受には白色セラミック (酸化ジルコニウム) を採用し、摩耗をほぼ排除している。基本原理は1950年の発明を踏襲しつつ、素材選択で耐久性を引き上げた典型例と位置づけられる。
技術解説
主要諸元
Cal. 52850は直径38.20mm、振動数28,800vph (4Hz)、36石、パワーリザーブ168時間 (7日間) の自動巻キャリバーである。機能はアワー、ミニッツ、ハック機構付スモールセコンドに加え、年次カレンダー (月・日付・曜日)、パワーリザーブ表示を備える。振動数4Hzは姿勢差に対する復元力と精度の両立を狙った設定で、先代5000系の21,600vph (3Hz) からの引き上げにあたる。
二香箱とパワーリザーブ
7日間という長大なパワーリザーブは、二つの香箱を直列に配置することで実現される。先代5000系では単一の大型香箱を用いていたが、全巻時に過大なトルクを生じる傾向があった。二香箱化により、7日間の駆動期間にわたってより線形に近いトルクを供給でき、年次カレンダー機構のように消費エネルギーが大きい複雑機構を駆動するうえでも有利となる。
ペラトン式双方向自動巻
ペラトン機構は、ローターの回転をハート型偏心カムで往復運動に変換し、二つの爪 (パウル) が交互に巻上車を引く構造を持つ。一方の爪が車を引いている間、もう一方は車の歯を滑り、次の動作で役割が入れ替わる。Cal. 52850では爪と自動巻車に黒色セラミック、ローター軸受に白色セラミックを採用し、摩耗をほぼ排除した。素材の硬度と低摩擦性により、伝統的な金属部品で生じていた経年劣化が大幅に抑制される。
年次カレンダー機構
年次カレンダー部は12時位置の三つの半円窓に月、日付、曜日を表示する。中央時針を駆動する筒車を起点として、上面に二つの送り爪を備えた大型のカレンダー駆動車が24時間で一回転する設計をとる。深夜に一方の爪が曜日円盤を一段送り、より短く力の強いもう一方の爪が、複数の部品から成る日付送りレバーを動かして日付を進める。月の長短は機構自体が判別するため、利用者による操作は不要となる。ただし2月の閏年処理は機構の対象外で、年に一度、2月末日にリュウズによる手動補正を要する。
テンプとヒゲゼンマイ
調速系には緩急針を持たないフリースプラング・テンプ (indexless balance) を採用し、テンプ自体の慣性モーメント調整で精度を出す方式をとる。ヒゲゼンマイには伝統的な技法で曲げた巻き上げ式のブレゲヒゲを組み合わせ、振動の等時性を担保する設計となる。
仕上げと意匠
Cal. 52850は52000系共通の意匠を踏襲する。ブリッジには円形のコート・ド・ジュネーブ装飾を施し、輪列はスネイル仕上げが透けて見えるようブリッジに窓を設ける。ローターは先代より細身に再設計され、刻印された「Probus Scafusia」メダリオンと相まって、サファイアクリスタル裏蓋越しに機構の眺望を確保する。