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CALIBER · IWC

32111

自動巻 Automatic Analog

2022年Aquatimer初搭載、120時間パワーリザーブとシリコン脱進機を備えるIWC新世代の基幹自動巻キャリバー

OVERVIEW · 概要

Cal. 32111は、2022年のアクアタイマー・オートマティック新型で初搭載された、IWCの32000系自動巻キャリバーである。リシュモン傘下のManufacture Horlogère ValFleurierが製造を担い、振動数28,800vph(4Hz)、21石、120時間(5日間)のパワーリザーブを擁する。ガンギ車とアンクルにシリコンを採用し、双方向ポール巻き上げ機構を備える基幹ムーブメントとして、現在はマークXX、インヂュニア・オートマティック40、ポートフィノ・オートマティック37など、IWCのエントリー〜ミドル帯の中核を担う。

SPECIFICATIONS · 仕様
MakerIWC
Reference32111
TypeAutomatic
DisplayAnalog
Frequency28,800 bph (4 Hz)
Jewels21 石
Power reserve120 h
Movement ⌀25.6 mm
HandsHours, Minutes, Seconds
DateDate
EDITORIAL · 編纂

系譜と歴史

Genealogy & history

1. ETA供給縮小と32000系の誕生

2010年代後半、スウォッチ・グループによるETAムーブメントの外部供給縮小は、スイス時計業界の構造的な転換点となった。各グループはエントリー〜ミドル価格帯のキャリバーを群内製で賄う体制への移行を急ぐこととなり、リシュモン・グループでは、傘下のManufacture Horlogère ValFleurier SA(2005年設立)が、この層を担う設計・製造拠点として機能してきた。

ValFleurierが手がけた新世代キャリバー群は、Baume & MercierのBaumatic BM12-1975A(2018年SIHH発表、COSC認定)を先駆けとして、PaneraiのP.900系、CartierのCal. 1847 MCなど、リシュモンの複数ブランドへ展開されていく。IWCもこの基幹アーキテクチャを「32000系」として自社のエントリー〜ミドル帯ムーブメントに組み込むこととなる。

2. Cal. 32110から32111へ — 5日間パワーリザーブの実現

IWCの32000系は、2019年のSIHHで発表されたCal. 32110で口火を切った。新生スピットファイア(Ref. IW326801ほか)に搭載され、振動数28,800vph(4Hz)、21石、72時間パワーリザーブ、シリコン製ガンギ車とアンクルを備える基本仕様で登場した。それまでマークXVIIIなどに搭載されていたCal. 30110(セリタSW300-1ベース)やCal. 30120(ETA 2892-A2ベース)を置き換える、新たな基幹ムーブメントとしての位置づけである。

その3年後、2022年にCal. 32111が初搭載されたのは、アクアタイマー・オートマティック新型(Ref. IW328801ほか)であった。機械的な骨格はCal. 32110と共通であるが、香箱と主ゼンマイの最適化により、パワーリザーブは120時間(5日間)へと拡大されている。同年10月にはパイロット・ウォッチ・マークXX(Ref. IW328201)、2023年にはジェラルド・ジェンタの設計を継承するインヂュニア・オートマティック40(Ref. IW328901ほか)が発表され、IWCの基幹コレクションを横断する基盤キャリバーとしての位置を確立した。

3. 「IWCマニュファクチュア」と群内製の文脈

Cal. 32111は、IWCが「IWCマニュファクチュア・キャリバー」と表記する一方、設計・製造はValFleurierが担うグループ横断的なムーブメントである。同じ骨格の派生として、Baume & Mercierでは「Baumatic」(BM12/13-1975A、COSC認定、シリコン製TwinSpirヒゲゼンマイ採用)、Paneraiでは「P.900」、Cartierでは「Cal. 1847 MC」が展開されており、いずれもValFleurierが供給する共通プラットフォームの上にブランド固有の仕様が乗る構造となっている。

IWC版のCal. 32111は、COSC認定を受けず、5姿勢調整というIWC独自の社内基準で出荷される。シャフハウゼンには「COSCの基準は自社の管理基準より緩い」として独自基準を優先する伝統的な方針があり、現代のエントリー〜ミドル帯キャリバーにもこの姿勢が引き継がれている。

MECHANISM · 機構と仕様

技術解説

Technical breakdown

自動巻機構 — 双方向ポール式

Cal. 32111の自動巻機構は、ローターの双方向回転を香箱の巻き上げに変換するポール(爪)式である。リシュモン・グループ内で共同開発されたこの機構は、IWCが伝統的に擁するペラトン式自動巻と同じく、ローターの揺動方向にかかわらず両方向からエネルギーを取り出すことを目的としている。ペラトン式が二枚のカムを介して双方向運動を一方向回転に変換する独自の構成であるのに対し、ポール式は両側に配したラチェット爪が交互に香箱を直接巻き上げる、より簡潔な構造である。

ローターは中央配置のボールベアリングで支持され、長期使用時の摩耗とメンテナンス周期を考慮した設計となっている。

シリコン製ガンギ車とアンクル

調速機構の中核であるガンギ車(脱進車)とアンクル(パレットレバー)には、シリコンが採用されている。シリコンは金属に比べ軽量・低摩擦で、磁気の影響を受けず、温度変化による寸法変化も少ない非金属系の素材である。これにより、摩擦損失の低減によるエネルギー伝達効率の向上、潤滑油への依存度低下によるメンテナンス周期の延長、磁気耐性の向上といった効果が得られる。

一方、調速バネ(ヒゲゼンマイ)はシリコン製ではなく、ニヴァロックス系の金属合金製で、エタクロン式の緩急調整機構が用いられているとされる。同じValFleurier製アーキテクチャを共有するBaume & MercierのBaumaticがシリコン製の二層ヒゲ「TwinSpir」を採用しているのに対し、IWC Cal. 32111はヒゲゼンマイの素材選択においては従来型を踏襲する。同じプラットフォーム上でも、ブランドごとに採用する技術の組み合わせには明確な差がある。

120時間パワーリザーブと香箱の設計

Cal. 32111の最も顕著なスペック上の特徴は、単一の香箱で120時間(5日間)というパワーリザーブを実現している点である。同じ32000系の基本形であるCal. 32110(72時間)と機械的骨格を共有するため、両者の差は主に香箱内の主ゼンマイの長さと巻き上げ機構の効率調整に起因すると考えられている。

5日間という長尺のパワーリザーブは、単に香箱径を拡大するのではなく、シリコン脱進機による低損失設計と双方向ポール巻き上げの効率を組み合わせることで、ケース厚を抑えたまま実現されている点に意義がある。週末に外した時計が月曜の朝も動いているという実用上の恩恵は、Cal. 30110世代の42時間からCal. 32111の120時間への移行で大きく変化した。

仕上げ・精度・認定

Cal. 32111は多くのモデルでクローズドケースバックの内側に収められるが、地板とローターにはコート・ド・ジュネーブ(ジュネーブ波紋)、ブリッジ部にはペルラージュ(円形粒模様)が施される。視覚的に派手な装飾は持たないが、機能性と外観の均衡を取った業務用キャリバーの仕上げと言える。

精度面では、IWCは公式に「5姿勢で調整」と公表するものの、COSCクロノメーター認定は受けていない。同じValFleurier製のBaume & Mercier Baumaticが平均日差-4/+6秒のCOSC基準で認定されていることと対照的だが、これはシャフハウゼンの伝統的な方針に沿った選択であり、優劣の問題ではなく認定制度に対する姿勢の差として理解される。

主要仕様は以下の通りである。種別:自動巻(双方向ポール式巻き上げ)。振動数:28,800vph (4Hz)。石数:21石。パワーリザーブ:120時間。構成部品数:164点(出典により163点との記載もある)。直径:約28.2mm。ガンギ車・アンクル:シリコン製。調整:5姿勢。

04 — CARRIERS · 搭載モデル一覧

このキャリバーを搭載する 2 本のリファレンス

This caliber appears in 2 references