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IWC · SERIES

Big Pilot

ビッグ・パイロット

1940年のドイツ空軍観測時計B-Uhrを源流に、視認性の哲学を貫く現代フリーガーの基準形

01 — 概要 / SUMMARY

ビッグ・パイロット・ウォッチは、1940年にIWCがドイツ空軍向けに製造した観測時計Ref. 431「Grosse Fliegeruhr」を源流とする航空計器系列である。2002年、46mmのRef. IW5002として現代に復活し、コニカル型大型リューズ、12時の三角マーカー、視認性最優先の文字盤というB-Uhrの設計言語を継承した。現在は46mm径のBig Pilot 46と、エルゴノミックな43mm径のBig Pilot 43を二本柱に、Top Gun、Le Petit Princeなどの記念版、衝撃吸収機構を備える実験的なShock Absorber XPLまで枝分かれする。

02 — STORY · 物語

Big Pilot(ビッグ・パイロット)、これまでの軌跡

The story of this series
01

1940年、観測時計B-Uhrの誕生

第二次世界大戦下のドイツ空軍は、長距離爆撃機の航法を支える正確な観測時計を必要としていた。航空省は仕様書Fl. 23883を発行し、A. ランゲ&ゾーネ、ラコ、シュトワ、ヴェンペとIWCの五社に観測時計(Beobachtungsuhr、通称B-Uhr)の製造を委託する。IWCは1940年、Ref. 431として約1,000本を製造した。

直径55mm、高さ16.5mmという破格の寸法は、グローブを装着したまま視認・操作する必要から導かれた合理である。手袋越しでもリューズを掴めるよう、コニカル型の巨大なオニオンクラウンが採用された。文字盤は黒地に大ぶりなアラビア数字、12時の三角インデックス、ソード型のルミナス針、インダイレクト式センターセコンドを持つBaumuster A仕様。心臓部のCal. 52 T.S.C.は、1888年に始まる懐中時計用キャリバーの系譜に連なる手巻きの大型ムーブメントで、1940年に最後の1,200個が製造され、Ref. 431と英国海軍の甲板時計に用いられた。

02

ブリュムラインの構想と2002年の現代復活

戦後、Ref. 431は60年以上にわたり歴史的遺物として眠っていた。これを蘇らせる構想を抱いたのは、IWCを再建しA. ランゲ&ゾーネの復活も主導した経営者、ギュンター・ブリュムラインである。鍵となったのは2000年、ポルトギーゼ・オートマティック2000で発表された自社製Cal. 5000であった。7日巻きの巨大なペラトン式自動巻機構を備えるこのムーブメントは、46mmの大型ケースに自然に収まる素地を持っていた。

ブリュムラインは2001年末に世を去ったが、構想は2002年バーゼルワールドで結実する。Ref. IW5002の登場である。ケース径は46mm、厚さは15.8mmに抑えられたが、コニカルリューズ、12時下の三角マーカー、太いアラビア数字、ソード針というB-Uhrの設計言語は忠実に踏襲された。搭載されたCal. 5011はCal. 5000の派生で、センターセコンドと6時の日付、3時のパワーリザーブ表示を備え、毎時18,000振動 (2.5Hz)で7日間駆動した。

03

第二世代Ref. IW5004と「9」の消失

2006年、Ref. IW5004が登場し世代交代を迎える。文字盤は微細だが重要な変更を受けた。9のアラビア数字が省かれ、三角マーカーは12時インデックスの位置へ上昇し、全体がより太く大胆な印象に整理された。ムーブメントはこれに先立ち、毎時21,600振動 (3Hz)へ高振動化されたCal. 50110(2003年〜)、51110(2005年〜)へと移っており、Ref. IW5004は2006年からのCal. 51111を積んだ。

「9」の消失は当初コレクターの間で議論を呼んだが、この大胆な意匠はやがてIWC現代フリーガーの顔として定着していく。リューズの魚の紋章も「Probus Scafusia」に置き換えられ、シリーズは軍用機の写しからラグジュアリーウォッチへと位置を変えていった。

04

派生コレクションの広がり

2006年、シンガポールのシンセラ向けに、最初のビッグ・パイロット・パーペチュアルカレンダー(Ref. IW502605、プラチナ25本)が登場した。クルト・クラウスが1980年代半ばに開発したIWC独自の永久カレンダー機構を、大判の文字盤と組み合わせた。

2012年には黒セラミックの48mmケースを持つTop Gun(Ref. IW501901)と、グレーセラミックのTop Gun ミラマー(Ref. IW501902)が登場した。2009年のサン=テグジュペリ版に続き、2014年からは深い青文字盤のLe Petit Prince版が加わる。2016年にはチタン製のHeritage 48(Ref. IW510301)と、原寸55mmを再現したHeritage 55(Ref. IW510401)が各100本限定で発表され、シリーズはB-Uhrの記憶へ一度立ち返った。

05

2016年の原典回帰と第四世代

同じ2016年、2012年頃のRef. IW500901を継ぐベースモデルRef. IW500912では「9」が文字盤に戻った。Ref. IW5004登場から10年を経て、現代版ビッグ・パイロットはB-Uhrの図像へ回帰した。Cal. 51111は変更されなかったが、視覚的にはRef. IW5002以来の正統な姿に戻った。

機械的な世代交代は2018年に訪れる。Ref. IW501001の登場である。プロポーションは維持され、内部にはCal. 52110、2015年に発表された52000系列が搭載された。ペラトン機構の自動巻爪と巻上車を摩耗の少ないセラミック製とし、ツインバレル構成でトルク供給を平準化、振動数も毎時28,800振動 (4Hz)へ引き上げられた。外見を保ちつつ内側を一新する手法である。

06

ビッグ・パイロット43とXPLの実験

2021年は、もう一つの分岐をシリーズにもたらした。Watches & WondersでのBig Pilot's Watch 43 (Ref. IW329301 / IW329303 / IW329304)の発表である。43mm径・厚さ13.6mmで、防水10気圧、サファイアのシースルー裏蓋、EasX-CHANGEストラップ交換機構を備え、日付とパワーリザーブ表示を持たない。内部にはCal. 82100を搭載し、60時間パワーリザーブとセラミック製ペラトン部品を採用した。46mmと43mmが並走する二本柱となった。

同じ2021年、IWCの実験部門XPLによるBig Pilot's Watch Shock Absorber XPL (Ref. IW357201)も発表された。ケラタニウム製44mmケースに、自動巻ムーブメントをバルクメタリックグラス製の片持ちばねで懸架するSPRIN-g PROTECT機構を備え、最大30,000Gの衝撃から機械を守るとされる。観測時計の機能性を、80年を経て先端材料で突き詰めた一本である。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

ビッグ・パイロット・シリーズを貫く設計思想は、突き詰めれば「計器としての時計」という一語に集約される。1940年のRef. 431が掲げた、操縦席という極限環境で正確に時間を読み取らせるための設計言語が、80年余を経た現行モデルにもほぼそのまま継承されている。

最も象徴的な要素は、コニカル(オニオン)型の大型リューズである。グローブを装着した操縦士が手探りで巻き上げ・時刻合わせを行うために肥大化したこの部品は、本来の機能的必然をはるかに超えて、ビッグ・パイロットの視覚的アイデンティティそのものとなった。43mmケースへと縮小されたBig Pilot 43においても、リューズの存在感は意図的に保たれている。

文字盤の構成も極めて保守的である。太いアラビア数字、12時下の三角マーカーと二つの小ドット、ソード型のルミナス針、12時間表記のシンプルな時分秒。これらは「読み違えない」ことだけを目的とした要素であり、装飾的な意図は徹底して排されている。Ref. IW5004で一度「9」を省いた変更は、視認性よりむしろ意匠的バランスを優先した稀な判断であったが、2016年のRef. IW500912で「9」が復活したことは、シリーズが計器としての原典に立ち返る姿勢を示すものであった。

ケース内部には軟鉄製のインナーケースが組み込まれ、ムーブメントを磁場から遮蔽する構造を持つ。これはマークⅪに代表される英国空軍仕様パイロットウォッチのDNAであり、IWCのフリーガー全体に通底する技術思想でもある。リューズはスクリュー式、サファイアクリスタルは気圧変動による脱落を防ぐ構造で固定される。これらはいずれも視覚的に主張せず、しかし航法計器としての性能を裏側で担保する設計である。

同時代のフリーガー、たとえばラコやシュトワがB-Uhrの素朴な意匠を歴史的に継承するのに対し、IWCのビッグ・パイロットは7日巻きの自社製ムーブメント、ペラトン式自動巻機構、そしてパーペチュアルカレンダーやSPRIN-g PROTECTに至る独自の機械工学的展開によって、観測時計の文法を現代の精密機械工業へと翻訳し続けてきた。「変えない外観」と「絶えず更新される内部」の二重構造こそが、このシリーズの設計上の核心といえる。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1940-1945
Cal. 52 T.S.C.
懐中時計ベース、手巻、間接センターセコンド。
2002-2003
Cal. 5011
Pellaton自動巻、18,000振動、7日巻き単一香箱。
2003-2018
Cal. 50110 / 51110 / 51111
21,600振動への高振動化、量産安定期。
2017-現在
Cal. 52110 (52000系)
ツインバレル、セラミック巻爪、28,800振動化。
2021-現在
Cal. 82100
Big Pilot 43向けの小型化版、60時間リザーブ。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1940-1945

原型 Grosse Fliegeruhr

431
55mmケース、ドイツ空軍納入の観測時計、約1,000本製造。
2002-2006

現代版初代

IW5002
46mmで現代に復活、Cal.5011搭載、7日巻きを継承。
2006-2015

9を外した世代

IW5004 IW500901
文字盤の9を省略、三角マーカーが12時位置へ上昇。
2016-2018

原典回帰世代

IW500912
9と三角マーカーをB-Uhrの位置に戻し、意匠を再整理。
2018-現在

Cal.52110世代と43mm分岐

IW501001 IW329301
2018年に52000系へ刷新、2021年に43mmを追加。
2021-現在

Shock Absorber XPL

IW357201
ケラタニウム製、衝撃吸収機構SPRIN-g PROTECT搭載。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

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06 — ALL REFERENCES

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