デイト
31歯の日付円盤を1日に1歯ずつ送り、月の暦を文字盤の窓に映し出す、最も身近な暦機構
- CLASS
- カレンダー · 暦機構
- 搭載モデル
- 265 本
概要
仕組み・原理
01日付円盤と駆動の仕組み
デイトの中核は、31個の歯を持つ円盤(日付ディスク)である。表面には1から31までの数字が記され、その大半は文字盤の下に隠れ、小窓を通して当日の数字だけが見える。
円盤を動かす力は、時針を支える筒車から取り出される。筒車は12時間で1回転するため、そのままでは速すぎる。そこで中間の歯車で24時間に1回転する速度へ落とし、その軸に取り付けた送り爪(フィンガー)が、1日に1回だけ日付ディスクの歯を1歯送る。
送られた円盤を正しい位置で止めるのが、日付ジャンパーと呼ばれるばね仕掛けの部品である。先端が楔形をしており、歯と歯の谷に入り込んで円盤を保持する。なお31日に満たない月——2月、4月、6月、9月、11月——のあとには手動修正が要り、単純なデイトでも年に5回の調整が生じる。
02日付送りの三方式
日付の切り替わり方には、大きく三つの方式がある。
最も簡素なのが直接送り(引きずり式)で、ジャンパーを使わず、円盤が駆動側の歯車と常に噛み合ったまま、深夜0時の前後に数字がゆっくり移動する。明確な「ジャンプ」は伴わない。
セミインスタンタニアスは、深夜が近づくと24時間車の送り爪が円盤の歯を押し始め、歯の先端を乗り越えたジャンパーが次の谷へ落ち込むことで円盤を一段送る方式である。ETA 2892 やバルジュー7750 など、現在広く使われるムーブメントの多くがこの方式をとる。
インスタンタニアス(瞬間送り)は、ばねに時間をかけて力を蓄え、深夜0時に一気に解放する。日付は肉眼で追えない速さで1歯進む。ただし、切り替えの瞬間の時刻が正確でなければ深夜前後の日付表示はあまり役に立たないとして、あえて採らない考え方もあり、構造の優劣ではなく設計思想の違いと捉えるべきである。
03クイックセットと「危険時間帯」
初期のデイト機構では日付を直接動かす手段がなく、針を24時間分回して送る必要があった。現在広く普及するクイックセットは、リューズの中間位置で日付ディスクだけを独立して送れる仕組みである。
ただし注意すべき点がある。深夜0時が近づくと、24時間車の送り爪は円盤の歯と歯の間に入り込んでいる。この間にクイックセットを操作すると、送られた歯が送り爪にぶつかり、破損につながりうる。一般には夜10時から深夜2時ごろ(機種により幅がある)の操作を避けるべきとされ、針を6時前後に合わせてから日付を調整するのが安全とされる。送り爪を逃がす安全装置を備えた機種もある。
04表示方式のバリエーション
窓表示のほかにも、日付の見せ方には工夫がある。
ポインターデイト(指針式)は、文字盤外周に記した1から31の数字を専用の針で指す方式で、文字盤の対称性を保ちやすい。
ビッグデイトは、十の位と一の位を別々の円盤(または円盤と十字車)で受け持たせる方式である。二枚を組み合わせて二桁を構成するため、単一円盤より大きな数字を表示できる。
歴史
01暦表示の起源
日付の表示は、腕時計よりはるかに古い。懐中時計には19世紀初頭から日付を示す作例があり、英国のトーマス・マッジが1762年に完成させた永久カレンダー付きの懐中時計は、最も早い日付表示の一つとされる。リピーターやムーンフェイズに比べても、単純なデイトはむしろ後発の複雑機構だった。
腕時計への移行を示す節目が1915年である。スイス・ラ・ショー=ド=フォンの時計師A・ハマリーが、この年にカレンダー付き腕時計の特許を出願した。考案したのは、指針で日付を示す方式と、12時位置の下の窓に曜日を示す方式の2種類である。同じ年にモバードが、量産品として最初とされる窓式日付の腕時計を出している。
02窓表示の定着とデイトジャスト
1930年代には、ジラール・ペルゴ系のミモが「ミモ・メーター」を出した。3時位置の窓に日付を示す最初の腕時計とされ、この配置がのちの標準となった。
そして1945年、ロレックスが創立40周年を機にデイトジャスト(Ref. 4467)を発表する。自動巻き、防水、クロノメーターの腕時計に3時位置の窓式日付を組み合わせ、深夜0時前後に日付が自動で切り替わる構成を備えていた。当初の切り替えはまだ瞬時ではなかった。デイトそのものの発明ではないが、自動巻きと日付送りの統合という点で原型的な存在となった。1953年ごろには日付窓を拡大するサイクロップスレンズが加わり、1950年代半ばには日付が深夜に瞬時に切り替わるようになった(1955年とする資料と、1956年に登場した Ref. 6604 からとする資料がある)。
03クイックセットの普及
初期のデイト機構は、日付の修正に針を何周も回す必要があり、月末の調整は手間だった。日付ディスクを独立して送るクイックセットは、やがて一般的な機能となる。ロレックスでは、1977年のキャリバー3035がデイトジャストに初めてクイックセットをもたらした。以後、機械式・クォーツを問わず標準的な装備となっている。
04ビッグデイトとデイトの再評価
日付を2枚の円盤に分けて大きく示す試みは早くからあり、高精度の時計で知られるポール・ディティスハイムは、ソルヴィルの名で出した時計で日付を2枚の円盤に振り分けている。のちに「グランドデイト」「ビッグデイト」と呼ばれる表示である。
1994年には、A・ランゲ&ゾーネがランゲ1で「アウトサイズデイト」を発表した。ドレスデンのゼンパー・オペラハウスの五分時計に着想を得た二窓式の大型日付で、同社が特許を取ったこの表示は、大型日付の潮流を生んだとされる。一方で、日付窓が文字盤の対称性を乱すとして窓なしを好む愛好家も根強く、デイトは今なお意匠上の議論が絶えない機構である。
代表的な実装
ロレックス・デイトジャストは、窓式デイトを語るうえで欠かせない一本である。自動で切り替わる日付窓を腕時計の定番に押し上げた存在であり、3時位置の小窓と、それを拡大するサイクロップスレンズの組み合わせは、このブランドの象徴となった。「デイト」という機能の名と姿を世に広めた点で、機構史上の位置づけは大きい。
A・ランゲ&ゾーネのランゲ1は、ビッグデイトの代表例として知られる。二つの窓に十の位と一の位を分けて配し、同じ大きさの時計の通常の日付より大きく数字を見せる。視認性の追求が、そのまま意匠の核になった例といえる。
指針式に目を向ければ、オリスのポインターデイトが挙げられる。オリスは1930年代からこの表示を用い、現在も主要ブランドとしては珍しく多くのモデルに採用している。中央の専用針が外周の数字を指し、窓を設けないことで文字盤の対称性を保つ。窓式とは異なる端正さを持つ表示方式である。
最後に、デイトは超高級機だけのものではない。ETA 2824-2 をはじめとする汎用自動巻きムーブメントの多くが標準で日付機構を備え、日付表示を持たない時計でさえ、文字盤の下に日付の円盤を隠していることが少なくない。窓の位置や日付盤の色合わせといった細部の処理にこそ、各社の設計思想が表れる。日付の円盤を文字盤の数字と同じ書体で刷り直す例もある。
この機構を搭載する 265 本のモデル
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Datejust - Rolex
- 02 専門メディア The Evergreens: The History of the Rolex Datejust, The Crown’s Timeless Icon
- 03 専門メディア It’s A Date! Taking A Closer Look At The Most Popular Complication Of Them All: The Calendar
- 04 専門メディア The Origins of the A. Lange & Söhne Outsize Date
- 05 専門メディア Complications: Dates - Worn & Wound