永久カレンダー
月の長短と閏年を機械的に記憶し、2100年まで原則調整なく日付を表示し続ける、グランドコンプリケーションの代表格
- INVENTOR
- トーマス・マッジ
- YEAR
- 1762
- CLASS
- カレンダー · 暦機構
- 搭載モデル
- 11 本
概要
永久カレンダー(Perpetual Calendar)は、月ごとに異なる日数と4年に1度の閏年を機構内部に記憶し、手動修正を経ずに正しい日付・曜日・月を表示し続ける暦機構である。携帯時計としての最初期の作例は、1762年に英国の時計師トーマス・マッジが懐中時計に組み込んだものとされる。腕時計への搭載は20世紀を待ち、1925年にパテック・フィリップが世界初の永久カレンダー腕時計を完成させた。月の長短を符号化したカム、閏年を識別する4年周期の記憶輪を備え、グレゴリオ暦の不規則性を機械的に再現する。トゥールビヨン、ミニッツリピーターと並び、グランドコンプリケーションを構成する代表的複雑機構である。
仕組み・原理
01基本原理
永久カレンダーは、月ごとに28日から31日まで異なる日数と、4年に1度の閏年を、機構内部の記憶装置によって自動的に処理する暦機構である。装着者が日付・曜日・月を手で修正する必要は、原則として生じない。
核となる動作は、毎夜の日送りの際に、機構がその月の長さを「知っている」ことだ。31日まである月は31日から1日へ繰り上がるが、30日までの月は30日から1日へ、2月は28日もしくは閏年であれば29日から1日へ繰り上がる。この繰り上がりのタイミングを機械的に符号化したパーツが、永久カレンダー機構の中核を成す。
02構造の詳細
最も古典的な構成では、「48カム」(48-month cam)と呼ばれる部品がその役割を担う。48カムは円盤状の部品で、外周に深さの異なる凹凸を48個刻む。4年(48ヶ月)分の月の長さを記録した機械的記憶であり、4年で1回転する。
カムの表面を「フィーラー」(指)と呼ばれる小さなレバーがなぞる。フィーラーがカムの最外周に乗っているときは31日の月、浅い凹みに落ちるときは30日の月、最も深い凹みでは平年の2月(28日)、それより浅い特殊な凹みでは閏年の2月(29日)に対応する。日送り機構はフィーラーの位置を参照し、月末の繰り上げを判断する。
別の方式として、12ヶ月で1回転する「12カム」を用い、2月の処理だけを別の4年周期のサテライト・カム(マルタ十字状の補助カム)で行う設計もある。いずれもグレゴリオ暦の不規則性を機械的に表現する目的は共通している。
03数値的特徴
標準的な永久カレンダーは、1,461日(4年)を1周期とする。曜日表示、日付表示、月表示、閏年表示の4要素を最低限とし、ムーンフェイズを併設するモデルが多い。部品点数は設計によって大きく異なり、IWCのカート・クラウスが設計した永久カレンダーは81点という少ない部品で構成された。
04効果と限界
永久カレンダーは「永久に正しい」わけではない。グレゴリオ暦では100の倍数の年は原則として閏年から除外され、ただし400の倍数の年は閏年に戻る。すなわち2100年、2200年、2300年は閏年ではない一方、2000年は閏年であった。多くの永久カレンダーはこの「100年ルール」を符号化しておらず、2100年3月1日に1日進める手動修正を要する。
この例外まで機械化したものを「セキュラー・パーペチュアル・カレンダー」(secular perpetual calendar)と呼び、400年に1回転する車などを追加することで実現される。商業生産は極めて稀で、IWCは2024年のポルトギーゼ・エターナル・カレンダーで、3つの切り欠きを持つ400年で1回転する車により400年に3回の閏年を飛ばす機構を組み込んだ。
歴史
01発明の文脈
永久カレンダー機構は、1695年ごろにはトマス・トンピオンとその後継者ジョージ・グラハムが置時計に用いていた。これを携帯時計に移した最初の人物とされるのが、英国の時計師トーマス・マッジ(Thomas Mudge, 1715–1794)である。グラハムに学んだマッジは、1755年にレバー脱進機を発明した名匠でもある。マッジは小型化した永久カレンダー機構を2つの姉妹作の懐中時計に組み込み、1762年に No. 525 を、1765年に No. 574 を完成させた。No. 525 は2016年にサザビーズで売られ、現在はパテック・フィリップ・ミュージアムが所蔵する。No. 574 は当初の金のケースのまま大英博物館に展示されている。かつては、1783年に製作が始まったブレゲの「マリー・アントワネット」が最初とされたこともあった。
02腕時計時代の幕開け
マッジ以後、永久カレンダー機構は懐中時計の希少な複雑機構として作られ続けた。パテック・フィリップは1889年に、曜日・日付・月・月相を瞬時に送る懐中時計用の永久カレンダー機構の特許を出願している。この小型化した技術は、主に婦人用の懐中時計やペンダント・ウォッチに使われた。
腕時計への移植は1925年に実現する。19世紀末に婦人用ペンダント・ウォッチ向けに作られ、売れ残っていたパテック・フィリップのムーブメント(番号97975)が、34.4mmの腕時計ケースに収め直された。この時計は1927年に米国の収集家トマス・エメリー(Thomas Emery)に売られ、最初の永久カレンダー腕時計とされる。1929年には、最初から腕時計用に作られたブレゲの永久カレンダー(No. 2516)も登場した。パテック・フィリップは1941年にRef. 1526で永久カレンダー腕時計の量産を始め、同時期のRef. 1518は量産品として最初の永久カレンダー・クロノグラフとされる。
03自動巻化と派生機構
オーデマ ピゲは1955年と1957年に、閏年の周期を示す最初の腕時計とされる Model 5516 を12本作った。1962年、パテック・フィリップはRef. 3448で同社初の自動巻永久カレンダー腕時計を実現する。
1985年は永久カレンダー史の節目である。IWCのカート・クラウス(Kurt Klaus)が設計した永久カレンダーを積むダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダーが登場した。81点という少ない部品で構成され、年表示を含むすべての暦表示をリュウズ操作だけで合わせられる設計は、複雑機構の操作性を一変させた。同じころ、パテック・フィリップは超薄型ミニローター自動巻のRef. 3940(キャリバー240 Q)を出し、クォーツ・ショック後の機械式時計復権の象徴の1つとなった。
04現代の到達点
1996年、ユリス・ナルダンは創業150年を記念して、ルートヴィヒ・エクスリン(Ludwig Oechslin)の設計による永久カレンダーを発表した。積み重ねたプログラム歯車によって、1つのリュウズで暦表示を前後どちらにも何日でも動かせる構成は、当時の高級時計で前例のないものだった。2001年、A.ランゲ&ゾーネはLangematik Perpetualで、自動巻きの時計として初めて永久カレンダーと大型日付を組み合わせた。2018年にはオーデマ ピゲがロイヤルオーク RD#2(キャリバー5133)で、積み重ねていた永久カレンダーの機能を水平に広げて一体化し、厚さ6.3mmのケースに収めた。2021年のパテック・フィリップRef. 5236Pは、1950年代から1960年代の懐中時計に着想を得て、日付・曜日・月を1列の窓に並べる「インライン」表示を採用した。2024年にはIWCが、400年の周期まで機械化したセキュラー・パーペチュアル・カレンダーを出すなど、機構の表現手法も多様化を続けている。
代表的な実装
パテック・フィリップ Ref. 3940(1985年ごろ発表)は、ミニローター自動巻のキャリバー240 Qを搭載した薄型永久カレンダーで、クォーツ・ショック期に機械式時計の意義を再提示した作例として知られる。長く作られ、現代の永久カレンダー像の基準点となった。
IWC ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー(1985年発表)は、カート・クラウス設計の永久カレンダーを採用した。81点のパーツで構成される機構は、すべての暦表示をリュウズ操作のみで合わせられる点が革新的であり、それまでケースサイドの修正ボタン群を必要とした永久カレンダーの操作系を大きく簡素化した。2100年まで修正を要しない。
ユリス・ナルダン Perpetual Ludwig(1996年発表)は、ルートヴィヒ・エクスリンが従来の多段のプログラム車に代えて積層プログラム・ギアを採用した永久カレンダーである。リュウズ操作のみで全ての暦表示を前後双方向に修正できる構成は、それまで「逆送り厳禁」とされていた永久カレンダーの実用性を再定義した。
A.ランゲ&ゾーネ ランゲマティック・パーペチュアル(2001年発表)は、ドレスデンのゼンパー歌劇場に設置された五分時計に着想を得たブランド固有の「大型日付」を、自動巻きの時計として初めて永久カレンダーと組み合わせた。ムーブメントは自動巻きのL922.1で、2019年のハニーゴールド版も同じキャリバーを積む。
オーデマ ピゲ ロイヤルオーク・パーペチュアル・カレンダー・ウルトラシン Ref. 26586(2018年のコンセプトモデルRD#2を起点とする)は、伝統的な2120をベースに、積み重ねていた永久カレンダーの機能を水平に広げて一体化したキャリバー5133で、厚さ6.3mmのケースを実現した。永久カレンダーの薄型化を巡る取り組みの到達点の1つに位置づけられる。
パテック・フィリップ Ref. 5236P(2021年発表)は、日付・曜日・月を1列の窓に並べた「インライン・パーペチュアル・カレンダー」を採用した。1950年代から1960年代の、暦を横一列に示す懐中時計に着想を得ている。
この機構を搭載する 11 本のモデル
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Watch with perpetual calendar, Thomas Mudge
- 02 専門メディア A. Lange & Söhne Langematik Perpetual Honeygold - Monochrome Watches
- 03 専門メディア Breguet 2516 Possibly First Purpose-Built Perpetual Calendar Wristwatch
- 04 専門メディア First Look: The New IWC Ingenieur Perpetual Calendar 41 (Incl. Video)
- 05 専門メディア First look: The Ultra-Complex IWC Portugieser Eternal Calendar (incl. Video)
- 06 専門メディア Hands-on: The Patek Philippe 5236P In-Line Perpetual Calendar
- 07 専門メディア In-Depth: A Comprehensive Overview of Patek Philippe’s Annual Calendar
- 08 専門メディア In-Depth: The History of the Audemars Piguet Royal Oak Perpetual Calendar
- 09 専門メディア Review - Ulysse Nardin Classic Perpetual Ludwig (Specs & Price)