設計思想
1. Chronomat 40 GMTという空白の埋め方
Chronomatは2020年、Georges Kern体制下で大幅に刷新された、1984年起源のBreitling看板コレクションである。再起動後のChronomatはB01 42クロノグラフを基幹に据え、上下に小径三針のChronomat 32および36、そして大径のSuper Chronomat 44へと拡張されてきた。だが、汎用性の高い40mmケースにGMT機能を組み合わせた一本は2022年まで欠けていた。
2022年10月、BreitlingはこのギャップにChronomat Automatic GMT 40を投入する。クロノグラフを持たず、第二時間帯と日付のみに機能を絞った40mmは、コレクション名「Chronomat(chrono+automatic)」の建前からすればある種の例外だが、現代の旅行用時計としては最も実用的なフォーマットでもあった。本リファレンスP32398101C1S2は、その基幹構成に2023年追加された上位仕様の一バリエーションである。
2. プラチナベゼルとアイスブルーという選択
スチールケースに異種金属のベゼルを合わせる構成は、Breitlingが歴代Chronomatや一部Superocean Heritageで繰り返し用いてきた手法である。本リファレンスでは950プラチナの一方向回転ベゼルを採用し、アイスブルー文字盤と組み合わせた。アイスブルーは元来、別ブランドがプラチナケースに与えてきた識別色として広く知られるが、BreitlingはこれをSuper Chronomatや本リファレンス等に展開し、自社の語彙として再定義している。
プラチナベゼルは一見すると鋼に近い銀色を帯びるが、密度と反射の質感は鋼とは異なる。手に取って初めて気づく類の上位仕様であり、本リファレンスの控えめな性格を端的に示すパーツである。
3. S1とS2の差分、そしてブレスを持たないこと
P32398101C1系統には、同一のスチール+プラチナケース、同一のアイスブルー文字盤、同一のCaliber 32を共有しながら、ストラップのバックル仕様で分かれる2リファレンスが存在する。S1はタングバックル(尾錠)仕様、S2はステンレス製プッシュボタン付きフォールディングクラスプ仕様である。クラスプ機構の差は実勢価格に数百ドル規模で反映される。
同色文字盤+プラチナベゼルのブレス仕様はラインナップされておらず、本リファレンスはあくまでラバーストラップ専用の構成として完結する。Rouleauxブレスを伴うChronomatの伝統的アイデンティティとは異なる、より軽量で旅程と相性のよいパッケージとしての位置づけである。
意匠分析
ケースは直径40mm、ラグ間が20mmからストラップ側18mmへ絞り込まれるテーパー形状で、ケースサイドはサテン、ラグの面取りはポリッシュという、現行Chronomat共通の二段仕上げが踏襲される。リューズは球根状(オニオン型、Breitlingは「ブレットクラウン」と呼ぶ)で、1980年代Chronomatからの継承要素である。リューズはスクリューロック式、二重ガスケットにより200m防水を実現する。
ベゼルは950プラチナ製のポリッシュ仕上げで、ライダータブを4基(12、3、6、9時位置)備えた一方向ラチェット式である。ライダータブのみブラッシュ仕上げに切り替えられ、表面処理のコントラストでベゼルに陰影が生まれる。ステンレスケース本体に異種金属ベゼルを組み合わせる構成は、Chronomat 40 GMTの標準A系統(オールスチール)と本リファレンスを視覚的に分かつ最大の差分である。
文字盤は「アイスブルー」と呼ばれる淡い水色で、外周のフランジまで同色で統一される。アプライドのバトン型インデックスはポリッシュ仕上げで、内部にスーパールミノヴァが充填される。時針・分針はシルバー基調の剣型で、いずれも針身に夜光が乗る。GMT針は針身がブルーに塗られ、針先にルミナス入りの三角形矢じりが付く、独立した視認動線として造形される。24時間スケールはフランジに同色トーンで控えめに刷られ、文字盤との一体感を優先する設計である。
ストラップは黒のラバー、ストレート形状で、ラグ幅20mmからクラスプ側18mmへテーパーする。バックルはステンレス製のプッシュボタン付きフォールディングクラスプであり、タングバックル仕様のP32398101C1S1とはここで分かれる。クラスプの違いは細部だが、装着の所作と装着感には明確に影響する。バーレル(タル型)コマで構成されるRouleauxブレスは本リファレンスには採用されておらず、ストラップ専用の構成として完結する。
系譜と歴史
Chronomat 40 GMTの基幹コレクションは2022年10月、Chronomatシリーズに空白だった40mmサイズを補う形で発表された。当初はステンレススチール製のA32398101系統が中心で、ホワイト、ブルー、ブラック、グリーンの4色文字盤が用意された。
P32398101C1系統(スチール+プラチナベゼル+アイスブルー文字盤)は、その翌年2023年に上位仕様として追加された。発売時からラバーストラップ専用構成で展開され、バックル違いでS1(タングバックル)とS2(フォールディングクラスプ)の2リファレンスが並んだ。
その後、2024年から2025年にかけてChronomat 40 GMTには多数の派生が加わる。スポンサーシップ系では、NFL各球団エディション、Six Nations Rugby 6カ国限定モデル(各250本)、Erling Haaland限定モデル(500本、ムオニオナルスタ隕石文字盤)等が継続的に発表された。地域限定としては、ドイツ向けSylt Edition(2023年、288本)、サウジアラビア、香港、オーストラリア、カタール、日本、マレーシア等の市場特化モデルが投入されている。
2026年5月、Breitlingは同じ40mmケースに新世代のCaliber B31(78時間PR、COSC認定)を載せた時分日付モデルChronomat Automatic B31 40と、Chronomat B01 42クロノグラフの薄型改修版を発表した。B31 40はラグ形状をより一体ブレス意匠寄りに整えており、GMT 40(A32398/P32398系統)とは別系統の進化として並行展開される。本稿執筆時点でP32398101C1S2は現行ラインに留まる。