設計思想
17年ぶりの刷新の入口として
Q604848Jは、2024年のウォッチズ&ワンダーズ・ジュネーブで発表された、デュオメトル・カンティエム・リュネールである。デュオメトルは2007年に登場した複雑機構のシリーズで、このRefはそれ以来初の本格的なデザイン刷新の一環として世に出た。
刷新されたコレクションには、ゴールドとプラチナのクロノグラフ・ムーン、最上位のエリオトゥールビヨン・パーペチュアルが並ぶ。その中でQ604848Jは、最も基本的な構成を持つカンティエム・リュネールとして、新しいラインの入口に置かれた。
第1世代からの連続と断絶
デュオメトルの中核は、2007年から変わっていない。2つの香箱と2つの輪列を、単一の調速機構につなぐ「デュアルウィング」と呼ばれる構造である。一方の動力が時刻を、もう一方が日付・月相・瞬間秒を駆動する。複雑機構の作動が時刻側の動力に干渉しない、という発想に基づく。Cal.381という型番も、機構が本質的に変わっていないため、第1世代から引き継がれている。
変わったのは外装と呼称である。第1世代は「デュオメトル・ア・カンティエム・リュネール」と「ア」を含み、貴金属ケースのみで展開されていた。その意匠はA.ランゲ&ゾーネを思わせる端正なものだった。新世代は「ア」を外し、ドーム型クリスタルやラグの彫り込みなど、現行のトレンドに沿った古典的な表情へと寄せている。
鋼という選択が開いたもの
このRefの意味は、素材にある。貴金属でしか手に入らなかったデュアルウィングが、初めてステンレススチールで提供された。深い青の文字盤と相まって、シリーズの中で最も日常に近い性格を持つ1本となっている。
刷新コレクションの中で、Q604848Jは複雑度において最も下に位置する。しかしそれは、デュオメトルという思想に触れる最初の入口でもある。上位のクロノグラフ・ムーンやエリオトゥールビヨン・パーペチュアルが象徴する世界へと続く、その起点として読むことができる。
意匠分析
ケースは、同じJLCのマスター・グランド・トラディションから設計言語を引いている。ラグはケースと別体で、サテン仕上げの側面に立ち上がった縁取りを持つ。ケースサイドはわずかに膨らみ、胴の中央部は細く絞られる。この構成により、13mmを超える厚みのわりに、装着時の印象は薄い。ベゼルはドーム状に盛り上がり、その曲面はドーム型のサファイアクリスタルへ、さらにドーム状の文字盤へと連続する。結果として、現行モデルでありながら古典的な気配をまとう。
素材にステンレススチールを選んだことが、このRef最大の選択である。デュオメトルは長く貴金属ケースのみで展開されてきた。鋼は、より現代的で日常に近い質感をこの複雑機構にもたらしている。
文字盤は、デュオメトルとして初めての青である。複数のパーツを組み合わせて構成され、一枚板を打ち出していた第1世代とは異なり、層の境界が見える分だけ奥行きが生まれている。仕上げは部位ごとに描き分けられ、主面はオパーリン、カウンター周囲は同心円状のブルー、パワーリザーブはサテンと、光の受け方が変化する。時刻表示のカウンターにはアプライドのアラビア数字が置かれる。針は細く長く、中央の秒針は文字盤を端まで横切るほど伸びる。3つのカウンターは逆三角形に配され、左右対称の構図をなす。第1世代の一部にあったパワーリザーブの開口部は、このRefでは設けられていない。
裏面のCal.381は、デュアルウィングの二香箱・二輪列がそのまま見て取れる。第1世代がジャーマンシルバー製のブリッジを用いたのに対し、このRefではロジウムめっきの真鍮に置き換えられた。経年で色を帯びる洋銀に対し、めっき面は明るい銀色を保ち続ける。放射状のコート・ド・ジュネーブ、面取りされたブリッジ、焼き入れされたネジといった装飾は引き継がれている。両方の香箱の上部には、グランドソヌリに通じる巻き上げ用のコハゼが組み込まれている。
系譜と歴史
Q604848Jは、2024年4月のウォッチズ&ワンダーズ・ジュネーブで発表された。同年のデュオメトル・コレクション全面刷新の一環であり、上位のクロノグラフ・ムーン(ゴールドおよびプラチナ)、最上位のエリオトゥールビヨン・パーペチュアルと同時に披露されている。このRefは、2007年にデュオメトルが登場して以来、初めてステンレススチールケースで提供されたモデルである。デュアルウィングの構造を保ったまま外装を刷新したコレクションの入口に位置づけられ、発表時点で唯一の鋼仕様としてラインナップに加わった。限定生産ではなく、ブティックおよび正規販売店を通じた通常生産品である。発表後、深い青の文字盤の単一仕様として継続しており、色違いや素材違いの派生、仕様の小変更は確認されていない。2024年のラインナップにおいても、このRefは唯一の鋼モデルであり続けた。本稿執筆時点で生産は続いており、生産終了の公式アナウンスは出ていない。