設計思想
1. 二つの1960年代が出会う
2025年のジュネーブ・ウォッチ・デイズで、ゼニスはスイスの家具メーカーUSMとの協業によるデファイ クロノグラフ USMを発表した。USMのモジュラー家具システム「ハラー」は1965年に、ゼニスの自動巻きハイビート・クロノグラフ「エル・プリメロ」と初代デファイは1969年に登場している。ほぼ同時代に生まれた両者が、もし当時に出会っていたら何が生まれたか。その問いを出発点に企画されたカプセルコレクションである。展開は4色で、USMの製品色を映したゲンチアンブルー、ゴールデンイエロー、グリーン、ピュアオレンジからなる。本作03.A780.400/19.M3642は、このうちゲンチアンブルーの文字盤を持つ一本である。
2. 八角形ケースに初めて宿るクロノグラフ
本作の直接の母体は、2022年に発表されたデファイ リバイバル A3642である。これは1969年の初代デファイ(Ref.A3642)の八角形ケースを当時の製造図面から再現した、時刻表示のみのモデルだった。本作はその同じ八角形ケースを受け継ぎながら、内部に初めてクロノグラフ機構を組み込んだ点で一線を画す。1969年の初代デファイはエル・プリメロを積んでおらず、八角形ケースのデファイ リバイバルにクロノグラフが収められたのは、本作が初めてのこととなる。
3. あえて選ばれた素のエル・プリメロ
搭載されるエル・プリメロ400は、1969年の3019 PHCを直系の祖とする、毎時36,000振動 (5Hz) の高振動クロノグラフである。ゼニスには1/100秒や1/10秒を計測する後年の派生も存在するが、本作はそうした機構を持たない400をあえて選んでいる。パワーリザーブは約55時間で、脱進機にはシリコンが用いられる。コラムホイール制御による古典的な構成は、外装が宿す1960年代の気配と呼応する。限定60本という規模も、現行ラインへの本格導入ではなく、二つのブランドの歴史を祝う記念的な性格を示している。
意匠分析
本作の外装は、1969年の初代デファイが確立した八角形ケースと14面ベゼルをほぼそのまま受け継ぐ。ケース径は37mmと現代の基準では小ぶりだが、面取りの効いた多面構成がかえって存在感を強めている。表面はヘアラインとポリッシュを面ごとに切り替え、光の当たり方で表情が変わる。ラグはケースに溶け込むフード型で、ブレスレットへ滑らかに連続する。リューズはねじ込み式で、その両脇にポンプ式のプッシュボタンが配される。防水性能は100m防水 (10気圧) にとどまる。八角形デファイは元来300m防水を備えたが、クロノグラフ用のプッシュボタンを持つ本作では、その値が引き下げられている。
文字盤はUSMの製品色であるゲンチアンブルーで塗られ、ロジウムを施した角型インデックスには水平の溝が刻まれる。これは初代デファイの意匠を引き継いだ要素だ。わずかに重なり合うクロノグラフの積算計と9時位置のスモールセコンドは銀色で、細かなアズラージュ仕上げとされる。針はロジウムめっきで、スーパールミノバを備える。クロノグラフ秒針の先端には、USMハラーの球形ジョイントを模したミニチュアが取り付けられ、夜光が仕込まれる。協業を象徴する遊び心のある細部である。
針配置は、9時にスモールセコンド、3時に30分積算計、6時に12時間積算計を置く三つ目の構成で、4時半に日付窓を持つ。これはエル・プリメロ400が長く受け継ぐレイアウトだ。サファイアの裏蓋からは、ゼニスの星を象ったオープンワークのローターが見え、ローターにはコート・ド・ジュネーブが施され、ゼニス エル・プリメロとUSMのロゴが並ぶ。ブレスレットは、かつてゲイ・フレールが手がけたラダー(梯子)型をステンレスで再現したものだ。
系譜と歴史
本作が属するデファイ クロノグラフ USMは、2025年のジュネーブ・ウォッチ・デイズで初公開された。八角形ケース自体は2022年にデファイ リバイバル A3642として現行ラインへ復活していたが、そこにクロノグラフを与えた本シリーズはこの2025年が起点となる。発表時の構成は4本で、ゲンチアンブルーの本作(03.A780.400/19.M3642)のほか、ゴールデンイエロー(03.A780.400-1/65.M3642)、グリーン(03.A780.400-2/91.M3642)、ピュアオレンジ(03.A780.400-3/56.M3642)が同時に披露された。いずれも各色60本の限定で、エル・プリメロ400を共有する。4本は、9時のスモールセコンド、3時の30分積算計、6時の12時間積算計、4時と5時の間の日付という構成と、ゲイ・フレールのラダー型ブレスレットを共有する。付属品として、USMハラーのモジュラー家具に想を得た専用の収納ケースが添えられる。デファイ リバイバルの系譜では、2022年のA3642がブティック限定の時刻表示モデルとして登場し、2023年のA3691で定番コレクションに加わった。本作は、その八角形ケースに初めてエル・プリメロを収め、リバイバルにクロノグラフという新しい枝を加えた。
出典
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