設計思想
「大きい」が代名詞だったシリーズの転回
Hublotという名は、長く大胆さや過剰さと結びついてきた。サファイアケース、トゥールビヨン、奇抜な素材使い——2005年に登場したBig Bangは、その象徴として「大きさ」を一つの語彙にしてきた。
その流れのなかで、2024年4月のWatches and Wondersに登場した38mmのBig Bang Integrated Time Onlyは、明確に異なる方向を指す。CEOのリカルド・グアダルーペは本コレクションを「クラシック」と表現したと伝わる。38mmという径は、創業者カルロ・クロッコが1980年に最初の一本を世に出した1980年代において、Hublotの標準的な寸法であった。2005年のBig Bangに先立つClassic Fusionの系譜に近く、原点へ立ち返る身振りと言える。本機はその38mm版6本のうち、チタンにブルーダイヤルを組み合わせた一本である。
Integratedという系譜の現在地
Big Bang Integratedの起点は2020年、初めてメタルブレスを一体化した42mmのクロノグラフであった。続く2022年、LVMH Watch Weekで40mmのTime Only(発表時の名称はIntegral)が加わる。クロノグラフを外し、3針と日付に整理した、より着けやすい一本であった。ただしこの40mm世代は、サファイア製の文字盤越しにムーブメント上面を見せる、スケルトン的な構成を採っていた。
2024年の38mm版は、この系譜にもう一段の整理を加える。Integrated Time Onlyとして初めて、中身を見せないソリッドダイヤルを採用した。径を縮め、文字盤を閉じ、意匠を削ぐ——本機が属するこの世代は、Integratedの語彙をより穏やかな方向へ寄せた地点に立つ。
チタンとブルーが担う役割
38mm版は同時に6本が用意された。King Goldが2色、セラミックが2色、そしてチタンが2色(ブラック・ブルー)である。そのなかでチタンは、最も軽く、日常に馴染ませやすい素材として位置づけられる。King Goldの華やぎ、セラミックの主張とは異なり、本機は気負わず着けられる執行を担う。
ブルーダイヤルは、つや消しのサンレイ仕上げによって、ポリッシュのブラックとは別の表情を持つ。コントラスト寄りのブラックに対し、ブルーは光で表情を変える、やや軽快な選択と言える。
ムーブメントは、40mm世代がZenith Elite 670を基とするHUB1710を積んでいたのに対し、本機はSellita SW300を基とする新キャリバーMHUB1115を搭載する。Hublotはこの刷新で、新設計の巻き上げ機構と強化したメインスプリングにより、パワーリザーブを48時間へ延ばしたと説明する。文字盤に軟磁性スチールを用いた耐磁構成も、この世代から導入された点である。
意匠分析
ケースは直径38mm、厚さ9.4mm。前作にあたる40mmのTime Onlyから直径で2mm縮小したが、厚さはほぼ変わらない。素材はチタンで、面はサテン仕上げ、ベゼルとラグのエッジはポリッシュで磨き分けられる。チタンゆえ軽量で、38mmという径と相まって日常装着での負担が小さい。
ベゼルは固定式で、Big Bang伝統の6本のH型ビスで留められる。ケースとベゼルの間には、ダイヤル色に合わせたブルーのコンポジットレジン製インサートが挟み込まれる。左右に張り出す2つの「耳」、ラバーを巻いたリューズも、シリーズの意匠を踏襲する。
本機最大の転換点はダイヤルである。40mm世代はサファイア製の文字盤越しにムーブメント上面を見せていたが、本機はソリッドダイヤルを採る。素材は軟磁性スチールで、これがムーブメントを磁場から遮蔽し、精度の維持に寄与するとされる。ブルー仕様は光を受けて表情を変えるサンレイ仕上げで、ポリッシュのブラック仕様とは質感が異なる。
時字は偶数位置(2〜12)にアラビア数字、奇数位置にスティックインデックスを配する。針は大ぶりのスケルトン仕様で、秒針の末端にはマニュファクチュールの象徴であるカウンターポイズ(尾錘)を備える。3時位置の日付窓は枠を持たない切り抜き式で、装飾を削いだ構成となっている。
裏蓋はサファイアクリスタルで、自社呼称MHUB1115を見せる。タングステン製のオープンワーク・ローターを備え、ブリッジにはサテン仕上げとアンスラサイト系のルテニウムコーティングが施される。ブレスはケースと同じチタンで、サテンとポリッシュを組み合わせ、フォールディングクラスプで留める。
系譜と歴史
本機は2024年4月、ジュネーブで開催されたWatches and Wondersで発表された。同時に披露されたのは38mmのBig Bang Integrated Time Only計6本で、本機はそのうちチタンにブルーダイヤルを組み合わせた仕様(457.NX.7170.NX)にあたる。
38mmはBig Bang Integratedにとって初のケース径であり、中身を見せないソリッドダイヤルを採るのも、Integrated Time Onlyとしては本コレクションが最初となる。搭載機も更新され、振動錘の軸受けを新設計とし主ぜんまいを強化したHUB1115がこの世代から採用された。パワーリザーブは約48時間である。発表後、正規販売店を通じて順次供給が始まった。チタン2色、King Gold 2色、セラミック2色(ブルー・Black Magic)という構成は、発表時から変わっていない。
本稿の時点で本機は現行品として継続生産されており、文字盤・ムーブメント・ブレスに公表された仕様変更は確認されていない。