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BRAND · CH · EST. 1846

Ulysse Nardin

ユリス・ナルダン

航海用マリンクロノメーターの精度に始まり、シリコンとフリークで時計の常識を更新し続けるスイスの独立メゾン

COUNTRY
CH
FOUNDED
1846
HEADQUARTERS
スイス ル・ロックル
GROUP
ソウインド・グループ (Sowind Group)
FOUNDERS
ユリス・ナルダン
01 — OVERVIEW

概要

ユリス・ナルダンは1846年、スイスのル・ロックルで創業した時計メゾンである。航海用マリンクロノメーターの精度で名を成し、19世紀には世界各国の海軍に計器を供給した。20世紀後半のクォーツ危機で一度は衰えたが、1983年のロルフ・シュナイダーによる買収と、時計師ルートヴィヒ・エクスリンとの協働で復活する。2001年には脱進機にシリコンを用いたフリークを発表し、素材技術の先駆者となった。2022年に経営陣買収で独立を回復し、現在はソーウインド・グループの一員として実験的な高級時計を作り続けている。

02 — PHILOSOPHY

設計思想

What this house values

ユリス・ナルダンの根幹にあるのは、航海という具体的な目的に応える「精度」への執着である。創業以来の主力はマリンクロノメーターであり、それは装飾のためではなく、船の位置と乗員の安全を左右する道具として作られた。実用に資する正確さを第一に置く姿勢は、現在の製品設計にも一貫して流れている。

機構面では、伝統的な様式を守ることよりも、目的のために新しい解を探す方向を選んできた。2001年のフリークに見られるように、文字盤や針といった時計の前提さえ疑い、ムーブメント自体が時刻を示す構造へ作り変える。摩擦や潤滑の問題に対しては、ルビーや注油という慣例ではなく、非磁性で軽量なシリコンという新素材を導入した。保守的な複雑機構の洗練に向かう一部のメゾンとは異なり、同社は素材と構造の更新に重心を置いてきた。

意匠面では、近年のブラストやダイバーに見られるように、機構をそのまま見せる構築的で力強い造形を好む。優美さよりも、技術が表面に立ち現れる率直さを選ぶ傾向がある。

商業哲学としては、規模の拡大よりも独立性と独自路線を重んじる立場が際立つ。2022年に大手グループから経営陣買収によって独立を回復した経緯は、その姿勢を象徴している。何を作らないかという観点では、流行に合わせた無難な設計をあえて選ばず、評価が分かれることを承知のうえで実験的な提案を続けてきた。近年は廃棄漁網を素材へ転用する取り組みも進め、道具としての時計という出自を別の形で現代へ接続している。

03 — STORY

物語

A narrative of the house

01海へ向かった山の時計師

ユリス・ナルダンは1823年、スイスの時計の町ル・ロックルに生まれた。父レオナール=フレデリックは地域の時計師であり、息子は幼少期から機構の知識を授けられた。やがて名工フレデリック=ウィリアム・デュボワらに学び、1846年、23歳で自らの工房を構える。

山あいに生まれた工房の歩みは、やがて海へ向かう。当時、外洋を航行する船にとって、正確な時刻を保つ航海計器(マリンクロノメーター)は、現在地を割り出すための生命線であった。ただし、創業者がまず評価を得たのは懐中クロノメーターで、航海計器への専業化は息子の代に進む。ナルダンは装飾品ではなく、道具としての正確さを追い求めた。初期の製品は南米市場へも渡り、工房は着実に評価を高めていく。

02観測所時代の栄光

1876年にユリスが世を去ると、息子ポール=ダヴィッドが事業を継いだ。父が築いた精度への執着は次代でさらに磨かれ、同社のクロノメーターは50を超える国の海軍に納められるまでになる。

この時代の評価を支えたのが、天文台の主催する精度競技であった。ヌーシャテル天文台や米国海軍天文台の試験で、同社は数多くの賞を重ねる。観測所試験は科学的で厳格な精度評価であり、そこでの成績は航海計器の信頼性を客観的に裏づけるものだった。皮肉なことに、日露戦争(1904–1905年)では交戦した双方の海軍が、ともに同社のクロノメーターを用いていたと伝わる。

03クォーツショックと一人の時計師

20世紀後半、電池で動くクォーツ時計が広まると、機械式時計の世界は地殻変動に見舞われた。電波時報や衛星航法の普及は、マリンクロノメーターという精密機械そのものの存在意義を揺るがす。創業家5代目が率いていた同社も例外ではなく、活動は大きく縮小した。1970年代には、常勤の時計師がわずか一名という状態にまで追い込まれていたと伝わる。長い歴史を持つ名門が、忘れられかけていた。

04エクスリンとの邂逅

1983年、実業家ロルフ・W・シュナイダーが同社を買収する。彼はブランド再興の道を探すなかで、ある天文時計に出会った。時計修復家ヨルク・シュペーリングの工房で見た、アストロラーベ(天体の位置を示す古来の装置)時計である。シュナイダーは、これを腕時計に縮小できないかと問うた。

その時計を作ったのが、古典学を修め、シュペーリングのもとで時計の修業を続けていたルートヴィヒ・エクスリンであった。古代の天文機構や失われた歯車理論に通じた彼は、難題に正面から取り組み、1985年にアストロラビウム・ガリレオ・ガリレイを完成させる。太陽や月、星々の位置、日食や月食までを腕の上に表示するこの時計は、発表後まもなくギネス世界記録に認定された。続くプラネタリウム・コペルニクス(1988年)、テルリウム・ヨハネス・ケプラー(1992年)とあわせ、三部作「トリロジー・オブ・タイム」は同社を再び業界の中心へ引き戻す。1996年の創業150周年には、海の系譜を受け継ぐ腕時計型マリン・クロノメーター1846を世に出した。

05フリークという問い

2001年、同社は時計の前提そのものへ問いを投げかける一作を発表する。フリークである。文字盤も針も竜頭もなく、ムーブメント自体が回転しながら時刻を示す。エクスリンらが実現したこの構造は、中心から伸びる機構が時を語るという斬新な発想に基づいていた。

最大の革新は素材にあった。脱進機の摩擦を抑えるため、同社は非磁性で軽量なシリコンを採用する。シリコンを用いた最初の時計とされ、当初は懐疑と論争を招いたが、やがてこの素材は業界全体へ広がった。今日ではロレックスやパテック フィリップも髭ぜんまい等に用いる、一般的な高性能素材である。

その後も同社は、自社製キャリバーUN-118(2011年)やエナメル工房ドンゼ・カドランの取得など、垂直統合と素材技術の両面を進めた。2014年にケリング傘下へ入り、2017年就任のパトリック・プルニエの主導で、2022年に経営陣買収によって独立を回復する。2026年には創業180周年とフリーク誕生25年を迎え、最も複雑な時刻表示のみの時計と称する[スーパー]フリークを発表した。

04 — HISTORY

歴史

A factual chronology

ユリス・ナルダンは1846年、スイス・ジュラ山脈の時計産業の中心地ル・ロックルで創業した。創業者ユリス・ナルダン(1823–1876)は時計師の父レオナール=フレデリックに学び、地域の名工フレデリック=ウィリアム・デュボワらのもとで研鑽を積んだ。創業当初から懐中クロノメーターやミニッツリピーターを手がけ、1862年のロンドン国際博覧会ではプライズメダルを受けた。1865年にはル・ロックルのジャルダン通りへ拠点を移し、この建物は今日も本社として使われている。

19世紀後半から20世紀にかけて、同社のマリンクロノメーターは50を超える国の海軍に供給された。創業者の死後に事業を継いだ息子ポール=ダヴィッドは、製品をマリンクロノメーターへ絞り込んだ。そのもとで精度はさらに高まり、ヌーシャテル天文台やワシントンの米国海軍天文台の精度競技で多数の賞を獲得する。観測所試験での実績は、ブランドの評価を決定づけるものとなった。

20世紀後半、クォーツ時計の台頭によって機械式時計の需要は急減した。マリンクロノメーターが担ってきた役割も電波時報や衛星航法に取って代わられ、同社の活動は大きく縮小する。1970年代には、創業家5代目のもとで常勤の時計師がわずか一名という状況に陥っていたと伝わる。

転機は1983年、実業家ロルフ・W・シュナイダーによる買収であった。シュナイダーは時計師ルートヴィヒ・エクスリンと組み、1985年に天文表示時計アストロラビウム・ガリレオ・ガリレイを発表する。同作を含む三部作「トリロジー・オブ・タイム」(1985–1992年)は、同社を再び業界の中心へ押し戻した。1996年の創業150周年には、初の腕時計型マリンクロノメーター「マリン・クロノメーター1846」を発表している。

2001年には、文字盤も針も竜頭も持たないフリークを発表。脱進機にシリコンを採用した最初の時計とされ、以後この素材は時計産業全体へ広がった。2011年には自社製キャリバーUN-118を発表し、同年エナメル文字盤工房ドンゼ・カドランを傘下に収めた。

経営面では、2011年のシュナイダー急逝を経て、2014年にケリング傘下に入る。2017年にパトリック・プルニエがCEOに就任し、2022年には経営陣による買収でケリングから独立した。現在はジラール・ペルゴと並び、ソーウインド・グループの一員として運営されている。

05 — SERIES OVERVIEW

シリーズ概観

How the series relate

現在のユリス・ナルダンは、性格の異なる複数のコレクションで構成される。

マリン(Marine)は、創業以来のマリンクロノメーターの系譜を受け継ぐ中核シリーズである。フルーテッドベゼルや小秒、パワーリザーブ表示など、かつての航海計器の意匠を腕時計へ翻案している。ブランドの出自を最も素直に示す存在といえる。

ダイバー(Diver)は、実用的な防水性能を備えたスポーツダイバーである。力強いケースと高い視認性を特徴とし、近年は廃棄漁網を再生した素材や軽量素材の実験の舞台にもなっている。2025年には世界最軽量を謳うダイバー[エア]も登場した。

フリーク(Freak)は、2001年の初代以来、同社の技術的前衛を象徴するシリーズである。文字盤と針を持たず、カルーセル・トゥールビヨン機構が回転して時刻を示す。シリコンや自動巻機構グラインダーなど、新機軸を投入する実験場であり続けている。

ブラスト(Blast)は、2021年に加わった比較的新しいシリーズで、骨格を露わにしたスケルトン・トゥールビヨンを軸とする。構築的で力強い造形をもち、エクスリンの天文表示を継ぐブラスト・ムーンストラックなどの派生も含む。

このほか、伝統的な丸型のクラシコ(Classico)など、装飾技巧を見せる古典的なシリーズも擁する。各コレクションは、精度の道具という出自と、構造をそのまま見せる現代的な造形という二つの軸の上に配置されている。

06 — SERIES

代表シリーズ

Lineages of one house
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07 — CALIBERS キャリバー一覧 →

主要キャリバー

Movements of the house
08 — CULTURAL

文化との接点

Where this house meets the wider world

ユリス・ナルダンの文化的な接点は、何よりも海にある。創業以来、同社のクロノメーターは外洋を行く船の航法を支え、ブランドの紋章である錨はその出自を今に伝える。

近年、この海との結びつきは環境保全の取り組みへと展開している。2021年、同社は外洋ヨットレース「ジ・オーシャン・レース」のオフィシャル・タイミング・パートナーとなり、2022年には公式時計としてダイバー・X・ジ・オーシャン・レースを発表した。これらの時計には、海洋汚染の一因である廃棄漁網を再生した素材ナイロなどが用いられている。

2020年の実験的コンセプトモデル「ダイバー・ネット」に始まる一連の試みは、海から得た道具で名を成したブランドが、その海を守る側へ回ろうとする姿勢を示している。意図的に築かれた文化的接点と、創業以来の海洋遺産とが、ここで交わっている。

— SOURCES

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

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  3. 03 報道 ケリング、高級時計ブランド「ジラール・ペルゴ」と「ユリス・ナルダン」を売却 報道 · WWDJAPAN · 2026.08.15 閲覧 WWDJAPAN · 2026.08.15
  4. 04 専門メディア Nardin, Ulysse 専門メディア · Dictionnaire historique de la Suisse (DHS) · 2026.10.18 閲覧 Dictionnaire historique de la Suisse (DHS) · 2026.10.18
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  6. 06 専門メディア これは時計愛好家にとって「幸福な決断」だ! ユリス・ナルダンとジラール・ペルゴのMBO 専門メディア · クロノス日本版 · 2026.08.15 閲覧 クロノス日本版 · 2026.08.15