海を測る家が、海に潜るまで
ユリス・ナルダンは1846年、スイスのル・ロックルで創業した。その名を高めたのは、船の現在地を割り出す航海用クロノメーター、すなわち海を「測る」ための精密機器である。腕に巻く潜水具を作る家ではない。だからこそ、1964年に同社が一本のダイバーズウォッチを世に出したことは、当時の文脈では例外的な試みだった。回転ベゼル、多面に削られたラグ、ケースバックに刻まれた潜水夫の図。レクリエーショナルダイビングが広がりつつあった時代の空気を映した一本である。ただしこのモデルは長く続かず、カタログでは久しく忘れられた存在となった。ダイバーが連続した「シリーズ」になるのは、ずっと後のことである。