系譜と歴史
自社製ムーブメントへの道
ユリス・ナルダンが自社製の量産ムーブメントへ舵を切った背景には、業界全体の構造変化がある。長く多くのブランドが基幹ムーブメントを汎用サプライヤーに依存してきたが、2000年代以降、その供給体制には不確実性が生じていた。ユリス・ナルダンは、2001年のフリークで初めてシリコン製の脱進機を実用化するなど、素材技術で先行してきたブランドである。シリコンヒゲゼンマイは2008年に市場へ投入し、その製造は同社が共同出資するシガテックが担う。こうした蓄積を土台に、2012年のマリーン・クロノメーター用UN-118で、本格的な自社製ムーブメントの量産へ踏み出した。基幹コレクションであるマリーンを、外部に依存しない心臓部で支える試みであった。
クロノグラフ基盤の構築
UN-118に続き、ユリス・ナルダンは2013年から2014年にかけて、自社製クロノグラフUN-150を展開した。コラムホイール(柱状歯車)で制御する一体型クロノグラフで、シリコン製の脱進機とヒゲゼンマイを備える。2016年には、これに年次カレンダーを統合したUN-153が登場した。その年次カレンダー機構を設計したのは、フリークや永久カレンダーで知られる時計学者ルートヴィヒ・エクスランである。少ない部品で複雑機能を成立させる、簡潔な設計を信条とする人物である。UN-155は、このUN-150/UN-153系を母体として生まれた。
レガッタ計時という課題
ヨットレースのスタートは、号砲までのカウントダウンと、号砲後の経過計測という、向きの異なる2つの計時を要する。レガッタ計時の歴史は古いが、その多くは残時間の表示に主眼を置いてきた。UN-155は、カウントダウンとレース計時の双方を、1本の中央針で連続して担う機構として構想された。残時間が尽きてゼロに達した瞬間、針は反時計回りから時計回りへ即座に転じ、レース計時へ移行する。トゥールビヨンのような象徴ではなく、競技の現場で機能する目的特化の複雑機構である。開発は、2017年の第35回アメリカズカップに向けたアルテミス・レーシングとの協業のもとで進められた。発表は、同年に開催地をジュネーブへ移したサロン(SIHH)の場であり、同年のジュネーブ時計グランプリでも候補に挙げられた。