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ULYSSE NARDIN · SERIES

Executive

エグゼクティブ

海の遺産から離れ、操作性とシリシウム技術によって現代の機械美を体現したユリス・ナルダンのコレクション

01 — 概要 / SUMMARY

Executive (エグゼクティブ) は、2009年前後に登場したユリス・ナルダンの現代的なコレクションである。マリンクロノメーターに象徴される海の遺産から距離を置き、操作性に優れたGMT±機構と大胆な造形を主題に据えた。Executive Dual Timeに始まり、Skeleton Tourbillon、Tourbillon Free Wheel、Skeleton Xへと展開し、文字盤を取り払って機械そのものを見せる方向へ進化していく。脱進機にシリシウムを用いる技術が一貫し、2020年以降はBlastコレクションへとその主題が引き継がれている。

02 — STORY · 物語

Executive(エグゼクティブ)、これまでの軌跡

The story of this series
01

海から離れるという選択

ユリス・ナルダンは1846年の創業以来、マリンクロノメーターの製造者として知られてきた。船舶用の精密時計、そして海を主題とした意匠が、長くブランドの中核を形づくってきた。

Executiveコレクションは、その海の文脈から意図的に距離を置いた現代的なラインである。2009年前後に登場したこの系譜は、航海の象徴ではなく、都市生活者の実用と現代的な機械美を主題に据えた。

技術的な核にあるのは、マスターウォッチメーカーのルートヴィッヒ・エクスランが1994年に考案したGMT±機構である。第二時間帯を進める方向にも戻す方向にも瞬時に調整できる、操作性を最優先した時差表示。Executiveはこの発想を、ブランドの「使いやすい複雑機構」という思想として受け継いだ。

02

デュアルタイムという実用

コレクションを代表する初期モデルが、Executive Dual Time (Ref. 243-00) である。43mmのケース、セラミックベゼル、視認性を重視した大ぶりのローマ数字。ケース側面の (+)(−) プッシャーで現地時間を前後に動かし、9時位置の窓で母国時間を24時間表示する。2時位置にはビッグデイトを備えた。

搭載するCal. UN-24は、ETA 2892-A2をベースに自社の時差・日付モジュールを組み合わせた自動巻で、毎時28,800振動 (4Hz)、約42時間のパワーリザーブを持つ。100m防水。実務的な旅行者のための時計という性格が明快であった。

2010年には、永久カレンダーにGMT±を統合したEl Toro (エルトロ) が加わる。Cal. UN-32を積み、単一のリュウズで暦を前後に補正できる構造は、複雑機構の操作性を突き詰めたものだった。Executiveは、実用複雑機構の受け皿としての顔も併せ持っていた。

03

自社ムーブメントへ

転機は2014年に訪れる。この年ユリス・ナルダンはケリング・グループの傘下に入り、同時にDual Time Manufactureを発表した。新型のCal. UN-334は、GMT±機構を備えた初の完全自社製自動巻である。

UN-334は、脱進機(アンクル・ガンギ車・振り座)とひげぜんまいにシリシウム(シリコン)を採用した。ユリス・ナルダンは2001年のFreakでシリコン脱進機を実用化した先駆とされ、その蓄積がここに流れ込んでいる。毎時28,800振動 (4Hz)、48時間巻。調達ベースから自社開発への移行は、コレクションの性格を一段押し上げた。

04

文字盤を消す — スケルトンの時代

2016年、Executiveは大きく姿を変える。Executive Skeleton Tourbillonの登場である。文字盤を取り払い、ムーブメントそのものを正面に据えた、開放的で軽量なスケルトン構造。

45mmのチタンケースにセラミックベゼルを組み合わせ、手巻のCal. UN-171を収める。フライングトゥールビヨンを6時位置に置き、シリコン製のガンギ車とひげぜんまいを採用。単一の大型香箱から約170時間 (7日間) という長いパワーリザーブを引き出した。毎時18,000振動 (2.5Hz)。

この世代から、黒い長方形のブリッジが造形の軸になる。初期の文字盤に描かれていた矩形のトラックが、立体的な構造材として前面に立ち上がった。「エグゼクティブ・レクタングル」と呼ばれるこの形が、以後のシリーズの顔となる。

05

宙に浮く機械 — フリーホイール

2018年のExecutive Tourbillon Free Wheelは、その思想をさらに推し進めた。これまで文字盤の下に隠れていた歯車や香箱を、文字盤の上へ引き上げて配置する。ブーメラン型のブリッジに支えられた部品が、ボックス型サファイア風防の下で宙に浮いて見える。

手巻のCal. UN-176は、シリシウム製のアンカー脱進機と定力機構を備え、約7日間 (170時間) のパワーリザーブを持つ。44mmのホワイトゴールドまたはローズゴールドケースに収められた。ユリス・ナルダンのトゥールビヨンの多くが限定だったのに対し、Free Wheelが通常生産で投入された点も特徴である。

06

スケルトンX、そしてブラストへ

2019年、Executive Skeleton Xが加わる。ケース径は45mmから42mmへと縮小され、より日常的な寸法になった。手巻のCal. UN-371は、UN-171を再設計したもので、Freak Visionで開発されたニッケルの慣性錘と微小ブレードを備えるシリコン製テンプを採用する。毎時21,600振動 (3Hz)、約96時間 (4日間) 巻。

トゥールビヨンを外し、スケルトンの造形だけを残した構成と、抑えられた価格は、間口を広げる試みでもあった。Executiveが現代的な機械美の見せ方として到達した一つの形といえる。

2020年、ユリス・ナルダンはBlastコレクションを発表する。角張ったケースとスケルトン化されたムーブメントを核とするBlastは、Executiveが築いた現代的で大胆な機械美の文脈を引き継いだ。Skeleton X、Free Wheel、トゥールビヨンといった主題は、Blast Skeleton XやBlast Free Wheelなどへと姿を変えている。公式サイト上では、Executiveの名は次第にBlastへと置き換えられていったとされる。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

Executiveを貫く設計思想は、ユリス・ナルダンの海の遺産から意図的に離れ、現代的な機械美と操作性を前面に押し出すことにある。

第一の柱は、視認性と操作性である。GMT±機構による直感的な時差調整、ケース側面のプッシャー、母国時間を示す窓、ビッグデイト。マスターウォッチメーカーのルートヴィッヒ・エクスランが追求した「使いやすい複雑機構」の思想が、文字盤の構成にそのまま現れている。大ぶりのローマ数字とソードハンド、高いコントラストは、装飾よりもまず読めることを優先した結果である。

第二の柱は、機械を見せる造形である。初期のDual Timeでは文字盤上に矩形のトラックが描かれていたが、スケルトン世代ではこの矩形が立体的なブリッジへと変換された。「エグゼクティブ・レクタングル」と呼ばれる長方形の構造材が、開放されたムーブメントを縁取り、シリーズの視覚的な要となる。Tourbillon Free Wheelに至っては、部品そのものを文字盤の上へ持ち上げ、機械を意匠の主役に据えた。

第三の柱は、素材と技術の実験である。チタン、セラミック、Carbonium、DLCといった現代的な素材が積極的に用いられ、脱進機やひげぜんまいにはシリシウムが組み込まれた。軽さ、堅牢性、精度を、伝統的な金属とは異なる手段で実現しようとする姿勢が一貫している。

同時代のFreakが文字盤も針もリュウズも持たない急進的な存在だったのに対し、Executiveは通常の時計の文法を保ちながら、その内部で大胆な実験を重ねる立ち位置にあった。マリンが歴史と格式を、ダイバーが道具性を担うとすれば、Executiveは現代的な機械美を身につけるためのコレクションだったといえる。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
2009-2014
Cal. UN-24 / UN-32
ETAベースに自社モジュールを載せた調達期。
2014-
Cal. UN-334
GMT±を備えた初の自社製自動巻。シリシウム脱進機。
2016-
Cal. UN-171
手巻フライングトゥールビヨン、170時間巻。
2018-
Cal. UN-176
定力機構を備えた手巻トゥールビヨン、7日巻。
2019-
Cal. UN-371
UN-171派生。シリシウム新型テンプを採用。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
2009-2013

デュアルタイム

243-00 246-00
GMT±と大型日付を備えたコレクションの起点。Cal. UN-24。
2010

エルトロ

El Toro Black Toro
永久カレンダーにGMT±を統合した実用複雑機構。Cal. UN-32。
2014-

自社ムーブメント化

Dual Time Manufacture
GMT±を備えた初の完全自社製自動巻Cal. UN-334を搭載。
2016-

スケルトン・トゥールビヨン

1713-139 ほか
文字盤を排し、170時間巻のCal. UN-171を露出させた。
2018-

フリーホイール

1760-176 ほか
部品を文字盤上へ配置、定力機構のCal. UN-176。
2019-

スケルトンX

3713-260 ほか
ケースを42mmへ縮小、Cal. UN-371で間口を広げた。
2020-

ブラストへの統合

(Blast へ継承)
現代的機械美の主題はBlastコレクションへ引き継がれる。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 公式 Collections - Ulysse Nardin 公式 · Ulysse Nardin · 2026.08.15 閲覧 Ulysse Nardin · 2026.08.15
  2. 02 専門メディア Ulysse Nardin Review: A Complete Guide to the King of Marine Chronometers 専門メディア · Teddy Baldassarre · 2026.08.15 閲覧 Teddy Baldassarre · 2026.08.15
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 1 モデル

1 references in archive