03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
1. トゥールビヨンからの出発
2016年、ユリス・ナルダンは手巻スケルトン・トゥールビヨンのUN-171をExecutive Skeleton Tourbillonに載せ、ムーブメントそのものを意匠とするスケルトンの路線を打ち出した。1846年にル・ロックルで創業した同社は、2001年のFreakでシリコン製脱進機を実用化して以来、素材と構造の両面から機械式時計を組み直してきた。UN-171を起点とするスケルトン機群はその延長にあり、2018年のExecutive Tourbillon Free WheelにはUN-176が、2020年のBlast TourbillonにはUN-172が載る。UN-371は、この構造を出発点に全面的な再設計を経て生まれたキャリバーである。主な違いはトゥールビヨンを持たないことで、その位置には大径のシリシウム製テンプが据えられた。
2. Skeleton Xという器
UN-371を載せたSkeleton Xは2019年に登場した。名称のとおり、X字に交差する橋が骨格を成し、173点の部品の多くが表と裏の両面から見通せる。ケースは42mmのチタン、ブラックのチタン、ローズゴールドに加え、43mmのカーボニウム版が用意された。チタンの42mm版は厚さ10.65mmに収まる。チタンにブルーのラバーストラップを組み合わせた3713-260-3/03はその一つで、50m防水を備える。トゥールビヨンを省いた簡潔な構成で、スケルトン トゥールビヨンの意匠をより広いラインへ展開した点に、このキャリバーの役割がある。
3. 長時間駆動と軽さ
UN-171の170時間に対し、UN-371のパワーリザーブは約96時間である。振動数は毎時18,000振動 (2.5Hz)から毎時21,600振動 (3Hz)へ上げられた。シリシウム製の調速部品は軽く、チタンやカーボニウムのケースと合わせて、大きな見た目に対して軽い時計に仕上がっている。Skeleton Xには、チャリティーオークション「オンリーウォッチ」向けの特別仕様も用意された。のちに同モデルはBlastの名を冠して扱われるようになり、正規販売店では3713-260-3/03もBlast Skeleton X 42mmとして掲載されている。
05 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
UN-371の機構は、シリシウム製の調速部品と、大きく肉抜きされた手巻の輪列から成る。
シリシウムはユリス・ナルダンが用いる呼称で、シリコンと同じ素材を指す。調速部では、テンプ、ヒゲゼンマイ、アンクル、脱進車のすべてにシリシウム(シリコン)を用いる。シリコンは非磁性で、温度変化の影響を受けにくい。摩擦が小さく脱進部の注油を要しないため、長期にわたって精度を保ちやすい。半導体の微細加工技術で成形され、形状の精度が高いことも利点である。シリコン製のヒゲゼンマイは設計どおりの形状を再現しやすく、振り角が変わっても周期を一定に保つ等時性の確保にも有利である。磁気に強い性質は部品そのものから得られるため、軟鉄の内側ケースを持たないスケルトン機と相性がよい。
テンプは大径に作られている。テンプの慣性モーメントが大きいほど、腕の動きや衝撃といった外乱の影響を受けにくくなり、調速が安定する。軽いシリコンで作ることで、大径化による重量の増加を抑えている。大径のテンプは表側からも大きく見え、振動する様子そのものが意匠の一部となっている。振動数は毎時21,600振動 (3Hz)で、1秒あたり6振動にあたる。UN-171の毎時18,000振動 (2.5Hz)より高く、一般的な毎時28,800振動 (4Hz)より低い。振動数を抑えるほど単位時間あたりの消費エネルギーは小さくなり、長いパワーリザーブを得やすい。UN-371は、その中間に位置する値を選んでいる。
動力はリューズによる手巻きで香箱に蓄えられ、輪列を経て調速部へ送られる。満巻きの状態から約96時間のパワーリザーブを生む。香箱も肉抜きされ、ゼンマイの巻き上げの状態が外から見える。この意匠は、残りの駆動時間を目で確かめる手がかりにもなる。
ムーブメントは173点の部品と21石で構成される。地板とブリッジは大きく肉抜きされ、X字に交差する橋が全体の骨格を担う。肉抜きを進めるほど地板と橋の剛性は失われやすく、歯車の軸の位置を正確に保つことが難しくなる。交差する橋は、意匠であると同時に、残した部材で全体を支える構造上の役割も持つ。21石の軸受石は、摩擦の大きい歯車の軸受に配され、細い部材の上でも軸の摩耗を抑える。文字盤を持たない構成のため、時・分の針の下に輪列と調速部が直接のぞく。無反射処理を施したサファイアクリスタルの裏蓋からも同じ構造を観察でき、表と裏を一つの立体として見せることが設計の前提となっている。