本文へ
BRAND · DE · EST. 1861

Junghans

ユンハンス

バウハウスの造形と電波修正の精度を一つの正統として並走させる、黒い森シュランベルク発の独立系ドイツ時計工房

COUNTRY
DE
FOUNDED
1861
HEADQUARTERS
ドイツ バーデン=ヴュルテンベルク州 シュランベルク
GROUP
シュタイム家(Uhrenfabrik Junghans GmbH & Co. KG、独立系)
FOUNDERS
エアハルト・ユンハンス、ヤコブ・ツェラー=トブラー
01 — OVERVIEW

概要

ユンハンスは1861年、ドイツ南西部の黒い森の町シュランベルクに創業された時計製造会社である。20世紀初頭には世界最大の時計工場として年産300万個に到達し、戦後はバウハウスの造形作家マックス・ビルとの長期協業、1972年ミュンヘン夏季五輪での公式計時、そして1990年の世界初の電波修正腕時計Mega 1という三つの異なる頂点を築いた。現在はシュランベルクのシュタイム家のもとで独立経営を続け、機械式・電波修正・太陽電池を並走させる稀有なブランドとして、創業の地から時計を送り出している。

02 — PHILOSOPHY

設計思想

What this house values

ユンハンスを貫く思想は、装飾を削ぎ落とした実用性と精密さへの一貫した探求である。創業者エアハルト・ユンハンスの時代から、同社は装飾工芸ではなく「時計の工業化」を目指してきた。アーサー・ユンハンスがアメリカ式の量産技術を黒い森に持ち込んだ19世紀末以降、自社内で部品を設計し、自社の機械で削り、組み立てるという垂直統合の姿勢は、規模が大きく縮小した現代に至るまで失われていない。

意匠面における同社の指針は、ドイツ南西部のもう一つのデザイン伝統――ウルム造形大学とバウハウスの系譜――に支えられている。マックス・ビルが1956年に厨房時計から始め、1961年に腕時計へ広げた仕事は、文字盤からあらゆる過剰を取り除き、書体と針の比率だけで時を表現するという厳格な美学を残した。クロノグラフであっても余計な装飾を加えず、必要な情報だけを並べる文字盤構成は、現在のマイスターやフォルムの各シリーズにも引き継がれている。

商業哲学の面では、複雑機構や貴金属で価格帯の頂点を狙う道を選ばず、機械式と電波修正クォーツを並走させる独自の立ち位置を取り続けてきた。スイスの伝統工房がもっぱら機械式に軸を置くなか、ユンハンスは1990年のMega 1以来、電波と太陽電池による「狂わない時計」を機械式と対等な正統と位置づけてきた。装飾を競うのではなく、機構と意匠の双方で必要な機能だけを残す。それが結果として何を作らないかを定めている。

03 — STORY

物語

A narrative of the house

01黒い森の部品工房から(1861〜1900)

1861年4月14日、シュランベルク。エアハルト・ユンハンスは義兄ヤコブ・ツェラー=トブラーとともに、黒い森の谷間に小さな工房を構えた。創業時の名は「ツェラー&ユンハンス」。当初の仕事は周辺の置き時計職人に向けた部品供給であり、木製のケース、真鍮の文字板、針、振り子皿などを量産することだった。

1866年には、ユンハンスの名を冠した最初の時計が世に出る。創業者エアハルトは独立した工業ブランドへの転換を志したが、その道半ばで1870年に没した。事業は妻と息子たちに引き継がれ、息子のアーサー・ユンハンスが米国に渡って当時最先端の量産技術を学ぶ。帰国後の1870年代半ば、彼はアメリカ式の互換部品方式と機械化された組立てラインをシュランベルクに移植した。1890年には、現在も用いられる八芒星が商標として登録され、ブランドの視覚的核となる。

02世界最大の時計工場へ(1900〜1930)

20世紀初頭、ユンハンスは爆発的に成長した。1903年には世界最大の時計工場となり、最盛期には従業員約3,000人、年産300万個に達したと伝わる。1918年にはアーサーの構想を継いだ工場建築「テラッセンバウ」が完成する。シュランベルクの急斜面に階段状に積み上げられたこの建物は、自然採光を最大限活用するための工夫であり、現在も産業建築の遺産として知られる。

1927年、同社は初の手巻き腕時計を製造する。懐中時計から腕時計への移行期に、ユンハンスもまた時代の要請に応えた。

03マイスターと自社キャリバーの時代(1930〜1960)

1936年、ユンハンスは自社開発のキャリバーJ80を搭載した「マイスター」シリーズを世に出す。「マイスター」の名は、社内で生産される最上の機構にのみ与えられた称号であり、コート・ド・ジュネーブ装飾を施したJ80/2はその象徴であった。

戦争を挟んだ1940年代後半、社内キャリバーJ88による手巻きクロノグラフが計画され、1949年から量産が始まる。1955年には新生連邦軍向けのパイロットクロノグラフ(BW-111)を製造。1956年、ユンハンスはロレックス、オメガに次ぐ世界第3位のクロノメーター生産者となったと記録される。同じ年、同社はスイスの造形作家マックス・ビルに厨房時計のデザインを依頼する。これがブランドの未来を変える出会いとなった。1961年、最初のマックス・ビル腕時計が発表される。

04クォーツ危機と再発明(1970〜1990)

1971年、ユンハンスは西ドイツ初のクォーツ式腕時計を発表する。翌1972年のミュンヘン夏季オリンピックでは、ロンジンとともに公式計時を担い、誤発走を電子的に検出する仕組みや1/100秒精度のカラー写真判定など、複数の計時革新を競技場に持ち込んだ。

しかしクォーツ革命は欧州の時計産業を大きく揺らし、ユンハンスも1976年に機械式の生産を一時停止する。同社の選んだ突破口は、量産機械式への回帰ではなく、より精密な電子計時の追求であった。1985年に世界初の電波修正卓上時計を投入し、1990年、フロッグデザインによる近未来的なケースを纏ったMega 1で、世界初の電波修正腕時計を実現する。フランクフルト発信のDCF77信号をストラップ内蔵アンテナで受信するこの時計は、「絶対に狂わない時計」という旧来の理想に、最も実用的な解答を与えた。1993年にはMega Solarが続き、太陽電池と電波修正の併用という同社独自の路線が定まる。

05危機と再生(2000〜現在)

新世紀に入ると経営は揺らぎ、2000年に親会社が変わり、2008年には親会社エガナ・ゴールドファイルの破綻によりユンハンスもまた経営難に陥る。翌2009年、シュランベルクの実業家ハンス=ヨッヘム・シュタイム博士と息子のハンネス・シュタイムが事業を引き継ぎ、シュタイム家の独立経営のもとで再出発した。シュタイム家自身が時計部品供給の老舗ケルン=リーバースを営む地元の工業一族である点は、再建が地域産業の文脈と無縁でなかったことを示している。

2008年に発表されたエアハルト・ユンハンス1には、自社設計の手巻きキャリバーJ325が搭載された。2011年の創業150周年にはマイスターが再生され、電波修正Megaシリーズ、バウハウス基調のマックス・ビル、現代的なフォルム、スポーツ計時の系譜を継ぐ1972――同社は複数の路線を並行して走らせている。2022年にハンネス・シュタイムが経営に参画し、2023年9月から単独業務執行社員として指揮を執る。創業の地シュランベルクから動かず、自らの規模で歩み続けている。

04 — HISTORY

歴史

A factual chronology

ユンハンスの歴史は1861年4月14日、エアハルト・ユンハンスと義兄ヤコブ・ツェラー=トブラーがバーデン=ヴュルテンベルク州の黒い森の町シュランベルクに「ツェラー&ユンハンス」を創業した日から始まる。当初の事業は周辺の置き時計向けに部品を供給することであった。1866年にはユンハンスの名を冠した最初の時計を送り出し、その後の急成長の基礎を築く。

1870年に創業者エアハルトが没すると経営は妻と息子たちに引き継がれ、なかでもアーサー・ユンハンスは米国で学んだ機械化生産技術を導入してシュランベルクの工場を近代化した。1890年には現在も用いられる八芒星が商標登録される。1903年、ユンハンスは世界最大の時計工場となり、最盛期には3,000人規模の従業員と年産300万個に達したと伝わる。1918年には傾斜地に建つ象徴的なテラッセンバウ(階段状工場)が完成した。

1927年に最初の手巻き腕時計を製造。1936年、初の自社製キャリバーJ80を搭載した「マイスター」シリーズが誕生し、ブランドの中核を形成する。1949年からは社内キャリバーJ88を搭載する手巻きクロノグラフが量産され、1955年には連邦軍向けのパイロットクロノグラフBW-111も製造された。1956年にはロレックス、オメガに次ぐ世界第3位のクロノメーター生産者となったと記録される。同年、デザイナーのマックス・ビルとの協業が始まり、1961年に最初の腕時計が発表される。

1971年に西ドイツ初のクォーツ式腕時計を発表し、翌1972年のミュンヘン夏季オリンピックでロンジンと並ぶ公式計時を担う。クォーツ危機の影響で機械式生産は1976年に一時停止したが、1985年に世界初の電波修正卓上時計、1990年に世界初の電波修正腕時計Mega 1、1993年にはMega Solarを世に出す。

2000年に親会社が変わり、2008年の経営難を経て、2009年に地元シュランベルクのシュタイム家が事業を継承し再建を主導した。同じ2008年に発表されたエアハルト・ユンハンス1には自社製手巻きキャリバーJ325が搭載されている。2011年の150周年でマイスターを再生。2022年からハンネス・シュタイムが経営に参画し、2023年9月より単独業務執行社員として指揮を執る。

05 — SERIES OVERVIEW

シリーズ概観

How the series relate

現行のユンハンスは、性格の異なる複数のラインを並行して展開する点に特徴がある。

中核はマックス・ビルである。1961年に発表された原型を基に、現在もオートマティック、手巻き、クロノスコープ(クロノグラフ)、クォーツの各仕様で展開されている。バウハウスの造形原理を文字盤に翻訳した同シリーズは、書体と針の比率だけで時を構成する潔さで、ブランドの代名詞となった。

マイスターは1936年に誕生した古典的ドレスシリーズで、2011年の創業150周年に再生された。ドーム状の風防、緩やかに湾曲したラグ、控えめなインデックスを特徴とする。マイスター・クロノスコープ、マイスター・ハンドヴァインディング、マイスター・テレメータなど、機構ごとに性格の異なる派生を持つ。

フォルムは2017年導入の比較的新しいラインで、フラットな文字盤と直線的なインデックスを採る現代的な解釈である。マイスターが過去への参照を強く帯びるのに対し、こちらは形態の純度そのものを主題とする。

1972は1972年ミュンヘン夏季五輪での公式計時を起点とするスポーツクロノグラフ系で、いわゆるブルヘッド(リューズとプッシャーが12時側に位置する)のオリジナルを再解釈した競技用デザインを継承する。

Megaは1990年のMega 1から続く電波修正と太陽電池の系譜で、機械式とは別の精密追求を担う。エアハルト・ユンハンスは創業者の名を冠した自社製機械式の上位ラインであり、Aquarisは近年加わったダイバー仕様の新興シリーズである。各シリーズは互いに交わらず、異なる時計観をそれぞれ完結させる構成となっている。

06 — SERIES

代表シリーズ

Lineages of one house
全3シリーズを見る →
07 — CALIBERS キャリバー一覧 →

主要キャリバー

Movements of the house
08 — CULTURAL

文化との接点

Where this house meets the wider world

ユンハンスを語るうえで外せない文化的接点は二つある。

一つはマックス・ビルとの長期的協業を介したバウハウスとの関係である。ビルはバウハウス・デッサウでクレーやカンディンスキーらに学び、戦後はウルム造形大学の創設学長を務めた。彼が1956年からユンハンスに残した造形は、戦後ドイツのデザイン史そのものと不可分であり、現在もマックス・ビル・コレクションを通じて生き続ける。

もう一つは1972年ミュンヘン夏季オリンピックでの公式計時の役割である。ロンジンと並んで陸上短距離、アーチェリー、ボートなどの計時を担当し、選手別の同時計測を可能にしたマルチカウンターや、1/100秒精度のカラーフィニッシュ写真など、複数の計時技術を競技場に持ち込んだ。この記憶はブルヘッド型ケースを継承する1972コレクションに残されている。

— SOURCES

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 公式 Junghans Katalog 2010 公式 · Uhrenfabrik Junghans · 2026.10.18 閲覧 Uhrenfabrik Junghans · 2026.10.18
  2. 02 専門メディア Junghans, Erhard (Neue Deutsche Biographie 10, 1974) 専門メディア · Deutsche Biographie / Bayerische Staatsbibliothek · 2026.10.18 閲覧 Deutsche Biographie / Bayerische Staatsbibliothek · 2026.10.18
  3. 03 専門メディア Junghans: a 160-year history and new models 専門メディア · Europa Star · 2026.08.15 閲覧 Europa Star · 2026.08.15
  4. 04 専門メディア Introducing - Junghans Max Bill Edition 60 Set of 3 Watches 専門メディア · Monochrome Watches · 2026.08.15 閲覧 Monochrome Watches · 2026.08.15
  5. 05 専門メディア How Junghans went from making straw hats to becoming a global power 専門メディア · Time+Tide Watches · 2026.10.18 閲覧 Time+Tide Watches · 2026.10.18
  6. 06 専門メディア Junghans 専門メディア · Watch Wiki · 2026.08.15 閲覧 Watch Wiki · 2026.08.15
  7. 07 ブログ Junghans Mega ブログ · Wikipedia · 2026.08.15 閲覧 Wikipedia · 2026.08.15