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BRAND · DE · EST. 1990

Nomos Glashütte

ノモス・グラスヒュッテ

1990年、ベルリンの壁崩壊の二か月後に生まれた、機能主義の意匠と独立の機構を貫くザクセンの時計マニュファクチュール

COUNTRY
DE
FOUNDED
1990
HEADQUARTERS
ドイツ ザクセン州 グラスヒュッテ
GROUP
独立資本(オーナー経営)
FOUNDERS
ローラント・シュヴァートナー
01 — OVERVIEW

概要

1990年、ベルリンの壁崩壊から二か月後、ザクセン州グラスヒュッテに設立された独立資本のドイツ時計メーカーである。バウハウスとドイツ工作連盟の機能主義を現代の機械式時計に翻訳する設計思想で知られ、1992年デビューのタンジェントを筆頭に、自社開発キャリバーと独自脱進機Swing Systemを備える製品群を展開する。年間生産はおよそ二万本。ドイツ国内では最大規模の機械式時計マニュファクチュールである。

02 — PHILOSOPHY

設計思想

What this house values
「広く行き渡る良き設計」

ノモス・グラスヒュッテの設計思想は、ドイツ工作連盟とバウハウスの系譜に明確に立脚する。1907年に芸術と産業の協働を掲げて結成されたドイツ工作連盟、そしてその系譜から1919年に開校したバウハウス——両者に共通する「機能から導かれる形」「素材への忠実」「広く行き渡る良き設計」という規範を、現代の機械式時計に翻訳する試みである。ブランド自身は「真の意味でのバウハウス時計は存在しない」と認めつつ、工作連盟のメンバーであり続けている。

意匠面では、過剰な装飾を排し、文字盤上の要素を最小限に絞り込む方針が一貫している。書体は各シリーズごとに専用にデザインされ、針の長さや太さ、インデックスの位置はミリ単位で詰められる。色は基本要素としての地色を起点に、機能に必要なアクセントのみが加えられる。タンジェントの直線的なケースとオリオンの曲線的なケースが共存するように、ファミリーごとの個性は保ちつつ、ブランド全体の語彙は統一されている。

商業哲学の面では、独立資本のオーナー経営という形態を堅持してきた。創業以来、グループ傘下に入らず、価格帯も比較的抑制された範囲に保ち続けている。グラスヒュッテ名乗りの条件は部品価値の50%以上を域内生産とすることだが、ノモスはこれを95%まで引き上げ、設計から組立、調整、ケーシングまで自社内で完結させる体制を構築している。最上級複雑機構の追求でも大量生産の規模追求でもなく、「設計の質と独立性で支持層を獲得する」という選択が、結果として何が選ばれ何が捨てられたかを明瞭に示している。

03 — STORY

物語

A narrative of the house

01壁が崩れたあとの町で

ベルリンの壁が崩れたのは1989年11月9日のことであった。ザクセン州の山あいに位置する小さな町グラスヒュッテは、それまで東ドイツに属し、国営の時計工場グラスヒュッター・ウーレンベトリーベ(GUB)のもとで量産時計を製造していた。19世紀半ばにフェルディナント・アドルフ・ランゲがこの地に工房を構えて以来、ドイツ精密時計の中心地として知られてきた町であるが、戦後の国営化を経て、高級機械式時計を生む土壌は家庭内に細々と伝承されるのみとなっていた。

壁崩壊からわずか二か月後の1990年1月、デュッセルドルフでITコンサルティングと写真業を営むローラント・シュヴァートナーが、この町にノモス・グラスヒュッテの商号を登記した。シュヴァートナーは時計職人の経歴を持たない。しかし、グラスヒュッテに残る技術の系譜と、新生ドイツの統合過程で生まれる空白に、明確な好機を見いだしていた。Nomos——古代ギリシャ語で「法」「秩序」を意味する語が、社名として選ばれた。

021992年——四つの原型

最初のコレクションが市場に出たのは1992年である。タンジェント、オリオン、ルートヴィヒ、テトラ。すべてグラフィックデザイナーのスザンネ・ギュンターが手がけ、1930年代の腕時計とドイツ工作連盟の機能主義から着想を得ていた。なかでもタンジェントの円筒形ケース、細身のアラビア数字、6時位置のスモールセコンドは、後にノモスの代名詞となる構図を完成させていた。ムーブメントはETAの薄型手巻きキャリバーPeseux 7001を改修したもので、当時の業界規制との関係から、スイス製ムーブメントを搭載したグラスヒュッテ製品という、競合からの強い批判を受ける位置にあった。

販売は当初決して順調ではなかったと伝わる。雑誌『シュピーゲル』に出稿された機知に富んだ広告が話題を呼び、徐々に支持を広げていった。

032005年——マニュファクチュールへの転位

創業から15年を経た2005年、ノモスは初の完全自社製キャリバーAlpha(手巻き)を発表する。同年には自動巻きキャリバーEpsilonを搭載した新作Tangomatも登場した。これによってグラスヒュッテ呼称の50%条項を実質的に大幅超過し、設計から組立まで一貫して域内で行うマニュファクチュールへ移行した。Alphaは現在も同社で最も搭載例の多いキャリバーとして稼働を続けており、創業期の四原型を支える中核機構の位置を保っている。

042014年——脱進機の独立

時計業界において、脱進機(テンプ、ヒゲゼンマイ、アンクル、ガンギ車からなる中核機構)を自社設計・生産できるブランドは世界的にも少数に限られる。7年間と1,100万ユーロの開発期間と費用、そしてドレスデン工科大学とフラウンホーファー研究機構との共同研究を経て、2014年、ノモスは独自脱進機Swing Systemを完成させた。スイス系サプライヤーへの依存からの脱却を意味するこの達成について、ブランド側はオーナー経営の独立企業にとって「月面着陸に等しい出来事」と表現している。翌2015年、これを搭載した薄型自動巻きキャリバーDUW 3001が発表される。厚さわずか3.2mmという数値は、量産薄型キャリバーの基準を大きく書き換えるものであった。

05ベルリンとグラスヒュッテのあいだで

技術と製造はグラスヒュッテで、デザインはベルリンのクロイツベルクにある社内デザインスタジオ「ベルリーナーブラウ」で——この二極構造が、ノモスの現代的な性格を形成している。ベルリン拠点の工業デザイナー、マーク・ブラウンの設計によるメトロは、都市性を時計に翻訳した代表例として広く知られる。

0635年目の節目で

2024年10月、シュヴァートナー、ウヴェ・アーレント、ユーディト・ボロウスキーの経営陣は、東西統一後のドイツ経済の成功事例として、シュタインマイヤー大統領から連邦功労勲章を受章した。2025年末、ボロウスキーが経営から退き、ノモスは創業35周年を迎えるにあたって新たな体制への移行が進んでいる。年間生産はおよそ二万本、従業員は約三百名。スイスの大手と比べれば慎ましい規模ながら、ドイツ国内では最大の機械式時計メーカーとして、その位置はすでに確かなものになっている。

04 — HISTORY

歴史

A factual chronology

ノモス・グラスヒュッテの歴史は、ベルリンの壁崩壊から二か月後の1990年1月に始まる。デュッセルドルフでIT業と写真業を営んでいたローラント・シュヴァートナーが、ザクセン州グラスヒュッテに同名の会社を登記した。戦後、東ドイツ国営の時計工場へ統合されていたこの町に、独立の機械式時計メーカーが生まれた瞬間である。

1992年、最初のコレクションが発表される。タンジェント、オリオン、ルートヴィヒ、テトラ。デザインはグラフィックデザイナーのスザンネ・ギュンターが手がけた。ムーブメントはETAのPeseux 7001を母体とし、独自の改修を加えて使用していた。2002年には改修版に「Nomos 1 T」の独自呼称が与えられ、グラスヒュッテ式の3/4プレート採用など、内製化への布石が打たれていく。

2005年、初の完全自社開発キャリバーAlphaが登場する。同年には自動巻きキャリバーEpsilonを搭載したTangomatが発表され、自動巻きラインへの拡張が始まった。これによりグラスヒュッテ名乗りの条件を実質的に超過し、マニュファクチュールとしての地歩が定まる。

2007年にClub、2009年にワールドタイマー機能を備えたZürich、2013年にダイバーズウォッチAhoi、そして金無垢ラインのLambdaとLuxが加わり、コレクションは多角化した。2014年、独自脱進機Swing Systemの開発が完了する。7年と1,100万ユーロを要したこの達成により、ノモスは脱進機供給網から技術的に独立した。2015年には、これを搭載した薄型自動巻きキャリバーDUW 3001がデビュー。同年にはMinimatik、2018年にはAutobahnが加わった。

経営面では、創業者シュヴァートナーが販売を、ウヴェ・アーレントが製造を、ユーディト・ボロウスキーがブランドとデザインを統括する三頭体制が長く続いた。2024年10月には、この三人がドイツ連邦共和国功労勲章を受勲。2025年末、ボロウスキーが経営から退き、創業35周年を前に新たな体制への移行が進んでいる。

05 — SERIES OVERVIEW

シリーズ概観

How the series relate

ノモスのコレクションは、現在13のファミリーに整理されている。中心を成すのは1992年デビューの四原型——タンジェント、オリオン、ルートヴィヒ、テトラであり、いずれもスザンネ・ギュンターによる初期設計が、各シリーズの語彙を今も規定している。

タンジェントは円筒形ケースに細身のアラビア数字を配した、ブランドの顔とも呼ばれる存在である。1930年代の意匠から出発しながら、33mmから42mmまでの多様なサイズと複雑機構を備えるバリエーションへと展開してきた。オリオンは曲線的なベゼルと内側に向けて細くなるラグが特徴で、よりドレッシーな性格を担う。ルートヴィヒはローマ数字インデックスを採用した古典的な意匠、テトラは四原型のなかで唯一の角型ケースを持つ。

機構面での拡張は2005年の自動巻きTangomatから始まり、2007年にはよりスポーティな性格を備えるClub、2009年にワールドタイマー機能を備えたZürich、2013年にダイバーズウォッチのAhoiが加わった。同年に発表された金無垢のLambdaとLuxは、ノモスの中で最高価格帯を担う高級ラインである。

2014年、ベルリン拠点の工業デザイナー、マーク・ブラウンが設計したMetroが加わり、続く2015年にはSwing Systemを搭載した薄型自動巻きMinimatikが登場する。2018年のAutobahnは、自動車計器のデザイン語彙をベースに展開した実験的シリーズとして位置づけられる。各ファミリーが独自の性格を保ちつつ、ブランド全体としての一貫した語彙が崩れないところに、ノモスの編集力が表れている。

06 — SERIES

代表シリーズ

Lineages of one house
全3シリーズを見る →
07 — CALIBERS キャリバー一覧 →

主要キャリバー

Movements of the house
08 — CULTURAL

文化との接点

Where this house meets the wider world

文化との接点という観点からみると、ノモスはハリウッド映画や王室との結びつきといった派手な象徴を欠いているブランドである。代わりにあるのは、デザイン業界との連続性と、社会的姿勢の明示である。レッドドット・デザインアワード、iFデザインアワード、ジャーマン・デザイン・アワード、グランプリ・ドルロジュリ・ド・ジュネーブのチャレンジ部門など、これまでに150を超えるデザイン賞を受けた経緯が、その性格を端的に示している。

ブランドの社会的活動でとくに広く知られるのは、2012年から続く「国境なき医師団」との協働である。文字盤の12時位置を赤くあしらった限定モデルを継続的に発表しており、販売一本あたり100ユーロが寄付される仕組みを採る。2019年にはバウハウス開校100周年を記念し、タンジェントの限定エディションを三種のケース径で展開した。

— SOURCES

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

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