系譜と歴史
1. 前身Cal. 9300という出発点
Cal. 9900の系譜は、2011年のバーゼルワールドに遡る。この年オメガは、スピードマスター コーアクシャル クロノグラフRef. 311.30.44.51.01.002とともに、同社初の自社製クロノグラフキャリバーCal. 9300を発表した。1999年のCal. 2500でコーアクシャル脱進機を量産化し、2007年のCal. 8500で3針の自社製基幹機を確立したオメガにとって、クロノグラフは残された大きな空白であった。
Cal. 9300は14リーニュ級の新設計とされ、Cal. 8500を流用したものではないと伝わる。コラムホイール、垂直クラッチ、直列2香箱、シリコン製ヒゲゼンマイという構成は、この段階ですでに完成していた。認定はCOSCのクロノメーターであり、組み立ては当初、スウォッチ グループ傘下ETAの専用ラインで行われていたと報じられている。
2. マスター クロノメーターへの移行
転機は2015年である。オメガはグローブマスターのCal. 8900で、METASと共同で策定したマスター クロノメーター認定を導入した。精度に加え、15,000ガウスの耐磁性や完成時計としての性能を問う新基準である。
翌2016年、Cal. 9300の設計を受け継ぎつつ、この基準に適合させたのがCal. 9900である。初搭載はシーマスター プラネットオーシャン 600M マスター クロノメーター クロノグラフで、オメガのクロノグラフとして初めてMETAS認定を得た。金無垢ケース用のCal. 9301も、同時にセドナゴールド製ローターを持つCal. 9901へ移行している。基本レイアウトを保ったまま耐磁化と認定取得を果たした点に、この世代交代の性格がある。
3. 派生と展開
Cal. 9900は、その後オメガのスポーツクロノグラフの基盤となった。2017年にはスピードマスター レーシング マスター クロノメーターに採用され、シーマスター ダイバー300Mにもクロノグラフ版が加わった。2024年末に登場したスピードマスター パイロットは40.85mmケースに本機を収め、2025年にはダーク サイド オブ ザ ムーンもCal. 9900仕様へ更新されたと伝わる。
手巻化した派生も生まれた。2021年のスピードマスター クロノスコープに用いられたCal. 9908は自動巻機構を省き、厚みを約1.2mm削っている。スピードマスター '57の手巻Cal. 9906も同系統に属する。2023年にはヒゲゼンマイの新調整機構スピレート システムを備えたCal. 9920が、スピードマスター スーパーレーシングで登場した。
4. 業界での位置
コラムホイールと垂直クラッチを備えた一体型自動巻クロノグラフは、2000年代以降、ロレックスのCal. 4130をはじめ各社の自社製機で採られてきた構成である。そのなかでCal. 9900の個性は、12時間計と60分計を一つのサブダイヤルに同軸で表示する読み取り設計と、コーアクシャル脱進機を組み合わせた点にある。独立して動かせる時針も備え、旅行時の時差調整を想定した実用機としての性格が強い。