03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
1. 源流:1983年のハイブリッド計画
Cal. 1666の系譜は1983年にさかのぼる。この年オメガはETAと共同で、アナログ表示とデジタル表示を同時に備えるハイブリッド・キャリバーの開発に着手した。計画名は「Flamand-Combo」と伝わる。オメガの技術者クロード=アンドレ・ジガックスとミシェル・ビュルデらが、同年末には試作機を動かしたとされる。
しかし親会社SSIHとASUAG(のちのスウォッチ グループ)の統合により、開発の主導権はETAへ移った。計画は元オメガの技術者アンドレ・トリポネらが引き継いだ。彼らはこれを、ティソ「Two Timer」用のCal. 958とオメガ用のCal. 1665に仕立てた。Cal. 1665の搭載機はシーマスター・ポラリス・マルチファンクションである。1986年10月、ニコラス・G・ハイエック自らが発表したと伝わる。
2. 宇宙のための再設計
1993年、スピードマスターに長期の宇宙活動を支える機能を加える方針が決まる。計時の信頼性と針の視認性を損なわずに機能を増やす手段として、多機能デジタル表示の追加が選ばれた。基礎に据えられたのはCal. 1665である。NASAとESAの宇宙飛行士と議論した機能を盛り込み、Cal. 1666が生まれた。
構想を後押ししたのは、アポロ10号の飛行士で当時オメガの取締役でもあったトーマス・スタッフォードとされる。試作は1995年に始まり、当初は「Flightmaster」の名で扱われた。1997年にスピードマスターの系列へ移され、名称はNASAの宇宙往還機実証機計画「X-33」から採られた。
1998年3月、ヒューストンのジョンソン宇宙センターでスピードマスター・プロフェッショナル X-33が発表された。会場は宇宙ステーション「ミール」と衛星中継で結ばれ、ミールには最終試験用の試作機がすでに持ち込まれていたと伝わる。
3. 派生と世代
2009年付の技術資料が示すバリエーションは3つある。トリマー調整の1666A、限定モデル用の1666B、温度補償の1666Cである。1666BはアメリカズカップにちなむRef. 3229.50.06に用いられた、針を持たないデジタル表示専用の仕様とされる。
2000年代初頭に登場した第2世代X-33も、Cal. 1666を引き継いだ。外装は反射を抑えるヘアライン仕上げに改められたが、ムーブメントの基本構成は共通である。2006年に一般向け販売の終了が伝えられたのちも、宇宙機関向けの供給は続いたとされる。
4. 系譜の中での位置
2014年、第3世代にあたるスピードマスター・スカイウォーカー X-33が登場し、心臓部はCal. 5619へ移った。ESAの宇宙飛行士ジャン=フランソワ・クレルヴォワの発明に基づき、ESAの特許ライセンスの下で開発された温度補償型である。液晶の構成は改められたが、機能体系はCal. 1666の延長線上にあると見られる。
手巻きクロノグラフが担ってきた宇宙での計時を、電子的な多機能化という別の方向から引き受けた点に、このキャリバーの位置づけがある。2026年のアルテミスII計画でも、乗組員が第2世代X-33を着用したと報じられた。
04 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
表示系:2基のステップモーターと液晶
Cal. 1666は、アナログ針とデジタル液晶を一つの機械に同居させた「アナデジ」構成をとる。技術資料の部品表には、時・分用と秒用で別々のローターとステーターが記載されている。ステップモーター(電気パルスを受けて一定角度ずつ回転する小型モーター)を2基備え、時分針と秒針を独立して駆動する構造である。
針の駆動はデジタル時刻とは別系統で管理される。そのため取扱説明では、まずデジタル側の時刻を合わせ、その後に針をデジタル時刻へ同期させる手順が定められている。部品表には側面の磁気シールドも挙がる。外部磁場によるモーターの誤動作を抑える目的と考えられる。
操作系:リューズを主軸とする階層構造
機能切替の起点はリューズである。リューズを短く押すたびに表示機能が順送りされ、第2ポジションへ引き出すと設定状態に入る。通常位置の第1ポジションは、防水性を確保する位置と位置づけられている。4つのプッシャー(P1〜P4)は、各機能内での開始・停止や数値の増減を受け持つ。
機能群:宇宙運用に即した時間計測
表示機能は9つに整理される。時刻、日付、アラーム、ミッション経過時間(MET)、METアラーム、ユニバーサルタイム(UT)、UTアラーム、カウントダウン、クロノグラフである。METは任意の起点、たとえば打ち上げ時刻からの経過を日数単位まで積算する機能である。
UTはGMTまたは第2時間帯を24時間制で示し、永久カレンダーが算出する通日(1月1日からの通し日数)も併記する。UTアラームは指定した日時に1回、15秒間鳴り、止めなければ1分後に再び鳴る。カウントダウンの最大設定は99時間59分59秒である。電池の寿命末期を知らせるE.O.L.(End of Life)表示も備える。
アラームの発音には圧電素子(ピエゾ)が用いられる。騒音の大きい宇宙船内でも聞き取れるよう、約80dBの音量が開発目標とされたと伝わる。
精度と調整:トリマーから温度補償へ
クォーツ時計の精度は、水晶振動子の発振周波数をいかに安定させるかにかかる。技術資料は1666Aを「トリマー」付き、1666Cを「温度補償(Heat-compensated)」仕様と区分する。トリマーは発振回路の容量を機械的に調整し、歩度(1日あたりの進み遅れ)を合わせる方式である。温度補償は、水晶が温度によって周波数を変える性質を回路側で打ち消す方式で、寒暖差の大きい環境ほど効果が表れる。
同資料には、製造時の試験で算出した歩度補正値をムーブメント内に記録し、試験モードで表示・修正できると記されている。歩度測定は960秒(16分)の積算時間で行うと定められる。電子的な補正が一定周期で働くことを前提にした手順とみられる。
構成と仕上げ
サイズは13¼リーニュ、厚さ6.90mm、石数は9石である。電源はリチウムコイン電池CR2320(直径23mm、厚さ2mm)を用いる。技術資料は、コート・ド・ジュネーブ(平行な波状の筋目模様)と金色の彫刻文字による装飾を明記している。裏蓋に隠れる実用クォーツにも機械式に準じた仕上げを施した点に、オメガの姿勢がうかがえる。