設計思想
1. 刷新から1年遅れたクロノグラフ
2018年、オメガはシーマスター ダイバー300Mを全面的に刷新した。1993年の初代誕生から25年の節目である。3針モデルはCal.8800への換装とともに、前世代で姿を消していた波模様の文字盤を取り戻した。
だがこの年、クロノグラフは新世代に加わっていない。刷新された3針の意匠を持つクロノグラフが登場したのは、翌2019年のことである。オメガはこの年バーゼルワールドを離れ、スウォッチ グループ独自の発表の場「Time to Move」で新作を披露した。本機はそこでデビューした一群の1本である。月面着陸50周年に沸いた年でもあり、話題の中心はスピードマスターにあったと海外メディアは振り返っている。
2. 前世代から変わったもの、変わらなかったもの
前世代のクロノグラフ、たとえば212.30.44.50.01.001は、Cal.3330を搭載していた。コーアクシャル脱進機とシリコン製ヒゲゼンマイを備え、COSC認定を受けたコラムホイール式である。本機はこれをCal.9900に置き換えた。変化は精度認定の枠組みにまで及ぶ。スイス連邦計量・認定局(METAS)が定める耐磁や日差の試験を経た「マスター クロノメーター」となり、15,000ガウスの磁場に耐える。
ムーブメントが替わったことで、裏蓋も変わった。前世代のソリッドバックに代わり、本機はサファイアクリスタルのシースルーバックを備える。一方で、44mmのケース径、300m防水、10時位置のヘリウムエスケープバルブという骨格は前世代から引き継いだ。刷新の主眼は外形ではなく、中身と見せ方にあったといえる。
3. シリーズの中での位置
Cal.9900は、すでにプラネットオーシャン600Mのクロノグラフなどに使われていた。本機の登場によって、ダイバー300Mのクロノグラフは、上位のダイバーズと同じ世代のムーブメントを持つことになった。
2019年の発表時には、青のステンレス仕様210.30.44.51.03.001や、セドナゴールドを組み合わせた仕様が並んだ。その中で本機は、ステンレスのケースとブレスに黒のセラミックを合わせた、最も装飾を抑えた構成である。3針の黒文字盤モデルと並べたとき、両者の関係が最も素直に読み取れるのも本機だろう。
4. 派生と2026年の007
本機の構成は、その後の派生の土台にもなった。2021年のアメリカズカップにちなんだ210.30.44.51.03.002のような記念仕様が生まれている。2026年5月には、ゲーム『007 First Light』に登場する時計を製品化した210.32.44.51.01.002が発表された。黒のセラミック文字盤とベゼルという本機の組み合わせを基に、PVDブロンズゴールドの差し色とNATOストラップを与えたものである。ダイバー300Mのボンド・ウォッチとしては初のクロノグラフとされる。
意匠分析
ケース径44mmは、3針モデルの42mmより2mm大きい。クロノグラフ機構を持つCal.9900を収めるための寸法であり、厚みも3針より明確に増す。そのぶん、ケースサイドのブラッシュとポリッシュの切り分け、ねじれたラグの造形は3針と共通の言語で処理され、同じ系譜の時計であることを示している。
ベゼルは黒のポリッシュ仕上げのセラミックで、ダイビングスケールは白のエナメルで埋められる。逆回転防止の60分目盛は、クロノグラフの計測とは別に経過時間を読む手段として並立する。本機ではクロノグラフのプッシャーにも黒のポリッシュ仕上げのセラミックが使われ、ベゼルと素材・色を揃えた。300m防水を確保するため、プッシャーはねじ込み式とされる。
文字盤も黒のセラミックで、表面にはレーザーで波模様が彫り込まれる。インダイヤルは2つに絞られた。3時位置は12時間積算計と60分積算計を同軸に重ねた表示で、9時位置がスモールセコンドである。結果として6時位置が空き、日付窓は3針モデルと同じ位置に置かれている。時分針はダイバー300Mの伝統である骨抜き(スケルトン)の形状で、インデックスとともにロジウムメッキが施され、白のスーパールミノヴァが充填される。
10時位置のヘリウムエスケープバルブは、ケースに残る数少ない専門機能の象徴である。裏蓋には縁に波の意匠を持つサファイアクリスタルが嵌められ、ロジウム仕上げに唐草状のジュネーブ・ウェーブ装飾を施したムーブメントが見える。
Cal.9900は、コラムホイールで作動を制御する自動巻きクロノグラフである。コーアクシャル脱進機とシリコン製ヒゲゼンマイを持ち、直列に連結した2つの香箱で約60時間のパワーリザーブを得る。時針だけを単独で動かせるタイムゾーン機能を備えることも、旅行者にとって実用的な選択である。
ブレスはステンレス製で、ダイバーズクラスプにはスライド式の微調整機構と、ウェットスーツ着用時に使う折り畳み式のエクステンションを組み込む。
系譜と歴史
本機の前史は、2018年のシーマスター ダイバー300M刷新にある。この年、3針モデルがCal.8800と波模様のセラミック文字盤を得て新世代に移行したが、クロノグラフはまだ加わっていなかった。
2019年、オメガはスウォッチ グループ独自の新作発表の場「Time to Move」で、新世代のダイバー300M クロノグラフを発表した。本機210.30.44.51.01.001はその中心となるステンレス・黒仕様である。同時に青のステンレス仕様210.30.44.51.03.001、ステンレスとセドナゴールドのコンビ仕様、セドナゴールド無垢の仕様が発表された。スペインの時計専門メディアは、店頭への供給を2019年8月からと伝えている。ケース径は前世代クロノグラフと同じ44mmで、ムーブメントはCal.3330からCal.9900へ替わった。
その後、コレクションには派生が加わっていく。2021年前後には、アメリカズカップにちなむ青の記念仕様210.30.44.51.03.002が流通した。ステンレスとイエローゴールドのコンビ仕様210.20.44.51.03.001や、チタン、タンタル、セドナゴールドを組み合わせた210.60.44.51.03.001も公式ラインナップに並ぶ。文字盤にPVDクロームカラーのセラミックを用い、ベゼルとプッシャーを青としたステンレス仕様210.30.44.51.06.001も加わった。
2026年5月21日には、ゲーム『007 First Light』の発売に先立ち、210.32.44.51.01.002が発表された。本機と同じ44mmのステンレスケースに黒のセラミック文字盤とベゼルを組み合わせ、PVDブロンズゴールドの差し色とNATOストラップを与えた派生である。
本機は2026年9月時点で公式サイトに掲載された現行品である。発表以来、文字盤の刷りやブレスの仕様に大きな変更があったとの公式発表は確認できていない。