系譜と歴史
1. 自社製クロノグラフへの転換
オメガは1999年以降、ジョージ・ダニエルズが考案したコーアクシャル脱進機の工業化を進めてきた。2007年には3針自動巻のCal.8500を投入し、自社製コーアクシャル・ムーブメントの基幹を築く。一方、クロノグラフでは長らくフレデリック・ピゲ系を基にしたCal.3303やCal.3313を主力としていた。これらはモジュール構造であり、既存の機構に脱進機を後から組み込む設計であった。2000年代は各社が自社製ムーブメントへ回帰した時期でもある。Cal.9300は、この潮流の中で、コーアクシャル脱進機を前提に一から設計された。2011年のバーゼルワールドで発表され、オメガ初の自社製コーアクシャル・クロノグラフとなる。
2. 統合設計がもたらした構成
Cal.9300を特徴づけるのは、クロノグラフの積算計を一つのサブダイヤルに集約した点である。3時位置に12時間計と60分計を重ね、9時位置にスモールセコンドを置く。日付は6時位置に配される。二本の針で経過時間を読む構成は、通常の時分表示を想起させ、視認性も損なわない。3針機構のCal.8500を基盤に発展したため、両者は設計思想を共有する。その一例が、時針を単独で送るタイムゾーン機能である。時刻を止めずに1時間単位で現地時間へ合わせられるため、移動の多い使い手に適する。
3. 派生と後継
Cal.9300には、貴金属モデル向けに赤金仕上げを施したCal.9301がある。機構は共通で、ローターやブリッジの仕上げによって差別化される。2016年には、METAS認定のマスター クロノメーター仕様であるCal.9900が登場した。チタン製テンプを採用し、15,000ガウスの耐磁性能を備える。Cal.9900はCal.9300の事実上の後継であり、両者は構成部品の多くを共有するとされる。自動巻機構を省いた手巻のCal.9908など、派生も広がっている。同時代には他社も自社製の自動巻クロノグラフを擁したが、コーアクシャルとシリコンを軸に据える点に、オメガ独自の設計姿勢が表れている。