9300
2011年登場、コーアクシャル脱進機を核に一から設計された、オメガ初の自社製クロノグラフ
Cal.9300は、2011年にオメガが発表した自社製の自動巻クロノグラフである。振動数28,800vph (4Hz)、54石、パワーリザーブ60時間を備える。コーアクシャル脱進機とSi14シリコンヒゲゼンマイを採用し、コラムホイールと垂直クラッチで計測を制御する。クロノグラフの積算計を3時位置の一つのサブダイヤルに集約した文字盤構成も特徴である。シーマスター・プラネットオーシャン・クロノグラフやスピードマスター コーアクシャルに初搭載された。
| Maker | Omega |
|---|---|
| Reference | 9300 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 54 石 |
| Power reserve | 60 h |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds |
| Date | Date |
| Chronograph | Chronograph, Column wheel |
| Additional | Chronometer, Co-Axial Escapement |
系譜と歴史
1. 自社製クロノグラフへの転換
オメガは1999年以降、ジョージ・ダニエルズが考案したコーアクシャル脱進機の工業化を進めてきた。2007年には3針自動巻のCal.8500を投入し、自社製コーアクシャル・ムーブメントの基幹を築く。一方、クロノグラフでは長らくフレデリック・ピゲ系を基にしたCal.3303やCal.3313を主力としていた。これらはモジュール構造であり、既存の機構に脱進機を後から組み込む設計であった。2000年代は各社が自社製ムーブメントへ回帰した時期でもある。Cal.9300は、この潮流の中で、コーアクシャル脱進機を前提に一から設計された。2011年のバーゼルワールドで発表され、オメガ初の自社製コーアクシャル・クロノグラフとなる。
2. 統合設計がもたらした構成
Cal.9300を特徴づけるのは、クロノグラフの積算計を一つのサブダイヤルに集約した点である。3時位置に12時間計と60分計を重ね、9時位置にスモールセコンドを置く。日付は6時位置に配される。二本の針で経過時間を読む構成は、通常の時分表示を想起させ、視認性も損なわない。3針機構のCal.8500を基盤に発展したため、両者は設計思想を共有する。その一例が、時針を単独で送るタイムゾーン機能である。時刻を止めずに1時間単位で現地時間へ合わせられるため、移動の多い使い手に適する。
3. 派生と後継
Cal.9300には、貴金属モデル向けに赤金仕上げを施したCal.9301がある。機構は共通で、ローターやブリッジの仕上げによって差別化される。2016年には、METAS認定のマスター クロノメーター仕様であるCal.9900が登場した。チタン製テンプを採用し、15,000ガウスの耐磁性能を備える。Cal.9900はCal.9300の事実上の後継であり、両者は構成部品の多くを共有するとされる。自動巻機構を省いた手巻のCal.9908など、派生も広がっている。同時代には他社も自社製の自動巻クロノグラフを擁したが、コーアクシャルとシリコンを軸に据える点に、オメガ独自の設計姿勢が表れている。
技術解説
Cal.9300は、コーアクシャル脱進機を中核に据えた自動巻クロノグラフである。脱進機とは、ゼンマイの力を一定間隔で歯車列へ送り出す調速機構を指す。一般的なスイスレバー式が部品同士の滑りを伴うのに対し、コーアクシャルは3層構造のガンギ車を用い、衝撃に近い力の伝達で滑り摩擦を抑える。潤滑への依存が小さく、注油間隔の延長と精度の長期安定に寄与するとされる。
調速を担うテンプには、4本の調整ネジを持つフリースプラング構造を採用する。フリースプラングとは、緩急針を用いず、テンプ側の重りで精度を整える方式を指す。ヒゲゼンマイはSi14シリコン製で、磁気の影響を受けにくく、温度変化にも安定する。シリコンは比重が小さく、慣性の影響を抑えながら高い形状精度を保てる。磁気に強いヒゲゼンマイは、日常的な磁場による精度低下を抑える狙いを持つ。このシリコンヒゲゼンマイは、後継Cal.9900の高い耐磁性能の土台ともなった。耐衝撃機構にはNivachocを備える。振動数は28,800vph (4Hz)で、テンプは1秒間に8回往復する。先行するCal.8500の25,200vphより高く、姿勢差に強く計時が安定するとされる。
クロノグラフの制御には、コラムホイールと垂直クラッチを組み合わせる。コラムホイール(柱状の制御歯車)は始動・停止・復帰の操作を司り、押し心地を均一にする。クラッチには水平式と垂直式があり、Cal.9300は後者を採る。垂直クラッチは計測開始時の針飛びを抑え、滑らかな起動と安定した運針を実現する。香箱は二つを直列に連結する。二段の香箱は放出トルクを平準化し、パワーリザーブ60時間を安定して供給する。自動巻機構は両方向巻上げに対応し、巻上げ効率を高める。日付は半瞬間式で切り替わる。
構成部品は330点を超え、輪列やブリッジは観賞性を意識して配置される。仕上げは、ロジウムプレートに「コートドジュネーブ・アラベスク」と呼ぶ波状のジュネーブ仕上げを施す。サファイアケースバックを持つモデルでは、この装飾を観賞できる。直径は32.5mm、厚さは7.6mm(Cal.9301は7.7mm)、石数は54石である。モジュール化された構造により、認定工房での保守も比較的容易とされる。認定はCOSCクロノメーターであり、後継のCal.9900ではMETASによるマスター クロノメーター認定へと引き継がれた。