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BRAND · FR · EST. 1992

Bell & Ross

ベル&ロス

航空計器をそのまま腕に持ち込むという思想で生まれた、1992年パリ発のフレンチ・スイス、機能主義腕時計の現代的旗手

COUNTRY
FR
FOUNDED
1992
HEADQUARTERS
フランス パリ
GROUP
独立系(シャネル・グループが少数株主)
FOUNDERS
ブルーノ・ベラミッシュ、カルロス・A・ロシヨ
01 — OVERVIEW

概要

Bell & Ross(ベル&ロス)は、1992年にフランス・パリで創業した時計ブランドである。工業デザイナーのブルーノ・ベラミッシュと経営者のカルロス・A・ロシロ、十代からの友人二人による構想から始まり、当初はドイツのジン(Sinn)の協力を得て製品化された。1998年にシャネルが少数株主として資本参加して以降は、スイス・ラ・ショー・ド・フォンにあるシャネル傘下のG&Fシャトランで自社の時計を組み立てている。代名詞は2005年発表のBR 01に始まる「丸を四角で囲った」インストゥルメント・ウォッチ。航空機コックピットの計器を腕に持ち込むという発想は、現代の機能主義腕時計に独自の様式を与えた。

02 — PHILOSOPHY

設計思想

What this house values
「form follows function(形は機能に従う)」

Bell & Rossの設計思想を一行で言い表すならば、ブランド自身が掲げる「form follows function(形は機能に従う)」となる。1992年の構想段階から、創業者二人は工業デザイナー(ブルーノ・ベラミッシュ)と経営者(カルロス・A・ロシロ)という編成を選び、「老舗の伝統と装飾的様式を継承する」という王道のスイス時計の論理を採用しなかった。代わりに参照点としたのは、操縦士や潜水士、爆発物処理員が現場で読み取る計器盤——すなわち、装飾を排した工業計器そのものである。ブランドが繰り返し掲げる四つの基本原則は、視認性(legibility)、機能性(functionality)、精度(precision)、信頼性(reliability)であり、これらは趣味的な美学ではなく、過酷な使用条件を想定した実用要件として位置づけられる。

機構面では、原則として実証済みのスイス汎用キャリバーを採用する。SellitaやETAをベースとしたBR-CAL.301、302が現行コレクションの大半を支え、複雑機構や自社開発は2014年以降のBR-X1、BR-X2、そして2025年のBR-X3といった「実験室的」なラインに集中させる。これは複雑機構の継承自体を哲学の中心に据える老舗とは異なり、「実用に必要な精度を、過剰な装飾を経由せずに届ける」という商業哲学の表れである。

意匠面では、コート・ド・ジュネーブやペルラージュ、面取りといった伝統的なジュネーブ装飾を前面に立てない。代わりに、視認性を最優先する大型のアラビア数字、矢印形の秒針、Super-LumiNovaによる蓄光、そして「丸を四角で囲った四つのビス」という反復可能なデザイン言語を採用する。共同創業者のロシロは、ロゴ中央のアンパサンドを「複合的な専門知の連合の象徴」と説明し、デザイナー、エンジニア、職人、そしてプロフェッショナル・ユーザーの協働を通じて完成する道具という自己定義を一貫して保ってきた。

03 — STORY

物語

A narrative of the house

01二人の友情と、計器盤への執着

Bell & Rossの物語は、十代からの幼なじみであった二人のパリの大学生から始まる。一人は工業デザインを学ぶブルーノ・ベラミッシュ。彼は国立工業創造高等学院(ENSCI)で学び、工業計器そのものに強い関心を寄せていた。もう一人は経営学を専攻するカルロス・A・ロシロ。HECで学んだ彼は、ブランドという仕組みの構築に関心を持っていた。1992年、二人は大学院段階で、軍人や潜水士、爆発物処理員といったプロフェッショナルが現場で本当に必要とする道具としての時計を作る、という構想を共有する。「Bell」はベラミッシュから、「Ross」はロシロから。ロゴ中央のアンパサンドは、設計と経営、創造と実行という二つの能力の連合を象徴するものとなった。

02ジンとの蜜月

構想だけで時計は生まれない。スイスの時計産業に縁のなかった二人がたどり着いたのは、ドイツ・フランクフルトに本拠を置くジン(Sinn Spezialuhren)であった。当時ジンを率いていたヘルムート・ジン(Helmut Sinn)が、計器的な実用時計づくりの伝統を持っていたためである。ベラミッシュはジンで研修を経験し、2年の開発期間ののち、1994年に「Bell & Ross by Sinn」と銘打たれた最初の時計が世に出る。1995年、初めて参加したバーゼルワールドでブランドは小さな話題を呼んだ。1996年にはフランスの治安部隊GIGNの爆発物処理員向けに「Bomb Disposal Type」を、1997年には深度11,100メートルでの耐圧をうたう「Hydro Challenger(後のHydromax)」を発表し、専門家向けツールウォッチの作り手として認知を獲得していく。

03シャネルとの出会いと、ジンからの独立

1990年代後半、ニューヨークでの販売拠点が偶然にもシャネル本社の向かいにあったという縁から、両者の関係は始まったと伝わる。1998年、シャネルの時計部門はBell & Rossの少数株式を取得する。シャネルは1993年からスイス・ラ・ショー・ド・フォンのG&Fシャトラン社を傘下に置き、独自に時計製造能力を蓄えていた。Bell & Rossにとってこれは大きな転機となる。2000年には追加出資が行われ、2002年、ジンとの契約関係は終了する。以降、ブランドはシャトランの工房で自社製品を組み立てる体制に移行した。創業者二人は過半数の株式を保持し続け、独立性は維持された。

04BR 01という宣言

2002年からの数年間で、Bell & Rossはアイデンティティを再定義する作業に取り組んだ。その結論が2005年発表のBR 01である。46ミリの正方形のケースに丸い文字盤、四隅にビスが配された大胆な造形。設計のモチーフは1970年代の航空機コックピットの計器そのものであった。ベラミッシュはWittnauer、Lemania、Wakmannといった往年の機器メーカーの計器を参照し、装飾を一切排した工業的な美学を腕時計へと翻訳した。BR 01は腕時計業界に賛否両論を巻き起こしたが、視認性と象徴性において他に類を見ない一本として、瞬く間にブランドの代名詞となる。翌年以降、より装着性の高い42ミリのBR 03、ダイバーズのBR 02、シャネルのセラミック技術を活用したBR 02-92セラミックなどへと派生していった。

05軍との接近、そしてBR-X

2008年、フランス空軍参謀総長の要請を受け、Bell & Rossは空軍戦闘機パイロット向けの「BR 03 Type Aviation」を開発する。三社のコンペで選ばれた経緯を持つこのモデルは、ブランドが「実際の軍に選ばれる時計メーカー」であることを公的に裏付ける契機となった。一方で、2010年に再構築されたVintage BR 123/126シリーズや、2014年に始動したBR-X1ライン——その名は音速の壁を破った実験機Bell X-1への敬意である——により、Bell & Rossは単一のスクエア・インストゥルメントの作り手ではなく、複数のデザイン語彙を持つ多面的なブランドへと姿を変えていく。2016年のBR-X1 Chronograph Tourbillon Sapphire、2017年のBR-X2 Tourbillon Micro-Rotorといった意欲作は、ジュネーブのコンプリケーション専門会社MHCとの協業を通じて実現された。

06BR 05、そして次の章へ

2019年、Bell & Rossはブランド史上もっとも「都市的」なBR 05を発表する。一体型ブレスレットを持つ40ミリのラグジュアリー・スポーツ・ウォッチであり、BR 01からの「丸を四角で囲う」基本文法を残しながら、より日常に馴染む輪郭を獲得した。2021年にはフランス空軍のアクロバット飛行隊「パトルイユ・ド・フランス」と公式パートナーシップを締結し、毎年協業モデルを発表している。2023年にはBR 03を41ミリへとサイズダウンし、ムーブメントを54時間パワーリザーブのBR-CAL.302へと更新。2025年には創業以来初の本格的なマニュファクチュール・キャリバーBR-CAL.323を擁するBR-X3 Tourbillon Micro-Rotorを発表し、翌2026年にはトゥールビヨンを省いたMicro-Rotorモデルが続く。創業30年余りで、Bell & Rossは「コックピットを腕に」という一つの発想を、複数の時代と複数の様式へと展開し続けている。

04 — HISTORY

歴史

A factual chronology

Bell & Rossの歴史は、1992年にパリで構想された一つの計画として始まる。創業者はブルーノ・ベラミッシュ(工業デザイン)とカルロス・A・ロシロ(経営)。スイスの時計伝統を持たない両者は、ドイツ・フランクフルトのジン(Sinn Spezialuhren)に協力を求め、1994年に初の製品「Bell & Ross by Sinn」シリーズを発売する。1995年に初出展したバーゼルワールドで業界の注目を集め、1996年にはフランス治安部隊GIGN向けの「Bomb Disposal Type」を、1997年には耐圧11,100メートルを公称する「Hydro Challenger」を発表し、専門家向けツールウォッチの作り手としての地位を築き始める。

所有構造の転換点は1998年である。シャネルの時計部門がBell & Rossに資本参加し、少数株主となる。2000年には追加出資が行われ、これを足がかりに2002年、Bell & Rossはジンとの契約関係を解消する。以降、ブランドはシャネル傘下のスイス・マニュファクチュール、ラ・ショー・ド・フォンのG&Fシャトランで自社の時計を組み立てる体制へと移行した。創業者二人は過半数の株式を保持し、ブランドの独立性は維持される。

2005年、アイデンティティを決定づけるBR 01が発表される。46ミリ正方形のケースに丸い文字盤、四隅のビスという航空機コックピット計器を模した意匠は、瞬く間にブランドの代名詞となった。その後、より装着性に配慮した42ミリのBR 03が派生し、2008年にはフランス空軍参謀総長の要請で「BR 03 Type Aviation」が開発される。2010年にはVintage BR 123/126のリブートにより、ラウンドケースのコレクションが現行の輪郭を獲得した。

2014年、実験的な高級コレクションBR-X1ラインが始動。ジュネーブのMHCとの協業により、2016年にBR-X1 Chronograph Tourbillon Sapphire、2017年にBR-X2 Tourbillon Micro-Rotorが登場した。2019年には40ミリの一体型ブレスレットを持つBR 05を発表し、ラグジュアリー・スポーツ・ウォッチの領域に進出する。2021年にはパトルイユ・ド・フランスと公式パートナーシップを締結。2023年にはBR 03を41ミリへ刷新し、54時間パワーリザーブのBR-CAL.302を採用。2025年にはマニュファクチュール・キャリバーBR-CAL.323を搭載するBR-X3 Tourbillon Micro-Rotorを発表し、2026年にはBR-X3 Micro-Rotorが続いている。

05 — SERIES OVERVIEW

シリーズ概観

How the series relate

Bell & Rossの製品群は、用途と意匠によって四つの系譜に整理できる。第一の柱は、ブランドの代名詞である「インストゥルメント」系列。2005年に登場したBR 01は46ミリの大型スクエアケースで、航空機コックピット計器そのものをモチーフとした。装着性を高めるべく2006年に派生したBR 03は42ミリ(2023年から41ミリに改定)で展開され、現行ラインの中核を担う。両者ともに、「丸を四角で囲った四つのビス」というブランドの視覚的シグネチャを共有する。

第二の柱は、小ぶりな日常向けのBR Sや、ダイバーズ仕様のBR 03 Diverに代表される実用派生群である。BR 03 Diverは2017年に発表されたスクエア型のダイバーズウォッチで、ISO 6425規格に準拠する。

第三の柱が、2019年に登場した一体型ブレスレットのBR 05である。これは「コックピットを腕に」という古典的なBell & Ross像から一歩踏み出し、1970年代に源流を持つラグジュアリー・スポーツ・ウォッチの語彙を取り入れた都市的なシリーズ。40ミリ(2025年からは36ミリも追加)で展開され、クロノグラフやGMTなどの派生も持つ。

第四の柱が、創業期の精神を別角度から継承するVintage系列とその発展形である。Vintage BR 123(三針)とBR 126(クロノグラフ)は、1960年代のパイロットウォッチを意識した丸型ケースを採用し、現行型は2010年のリブートが基準となっている。同系譜から派生したBellytankerコレクションは、1950年代米国の塩湖でのスピード記録挑戦に用いられた「ベリータンク・レーサー」へのオマージュであり、Bell & Rossの航空・速度文化への関心を物語る。

これらと別に、ブランドの「実験ラボ」と位置づけられるのがBR-X系列である。2014年のBR-X1(その名は実験機Bell X-1への敬意)を皮切りに、サファイア・スケルトン、トゥールビヨン、マイクロローター搭載モデルなどを発表してきた。2025年のBR-X3 Tourbillon Micro-Rotorは、ブランド初の本格的なマニュファクチュール・キャリバーBR-CAL.323を擁し、Bell & Rossが内製機構を持つ作り手へと脱皮しつつあることを示している。

06 — SERIES

代表シリーズ

Lineages of one house
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07 — CALIBERS キャリバー一覧 →

主要キャリバー

Movements of the house
08 — CULTURAL

文化との接点

Where this house meets the wider world

Bell & Rossの文化的接点は、創業時から軍と航空の領域に集中している。1996年に開発された「Bomb Disposal Type」は、フランス治安部隊GIGNの爆発物処理員向けに製作された業務用ツールであり、創業初期から実際のオペレーションに供されてきた。2008年には、フランス空軍参謀総長の正式な要請に応じる形で「BR 03 Type Aviation」が三社コンペを経て選定され、戦闘機パイロット向け限定品として納入されている。

2021年にはフランス空軍のアクロバット飛行隊「パトルイユ・ド・フランス」(1953年創設)と公式パートナーシップを締結し、隊員に支給される実用モデルと、一般向けの自動巻きモデルが毎年発表されている。2023年のBR 03-92 Patrouille de France 70th Anniversaryや、2025年のBR-05 Chrono Patrouille de Franceなどはその例である。海洋分野では、海洋研究NGOのタラ・オーシャン財団とも協業している。ファッションやポップカルチャーよりも、実務的な制服採用や任務支給を通じて文化的位置を築いてきたブランドである。

— SOURCES

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

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