設計思想
1. 5つ目の記録として
2014年のトゥールビヨンに始まるオクトの薄型路線にとって、クロノグラフは避けて通れない機構であった。部品が多く、平面上の面積も要る。そのため薄さを主眼に自社開発されることは少なく、記録の更新も長く止まっていた。時計部門を率いたグイド・テレーニは、クロノグラフをミニッツリピーターに次いで難しい機構と位置づける。白紙から設計し、完成までに2年半を要したと語っている。
103068が登場するまで、最薄のクロノグラフ時計は2015年に発表されたピアジェの手巻き機、アルティプラノ・クロノグラフで、ケース厚は8.24mmであった。6.90mmの103068は、その数字を1mm以上下回った。しかも自動巻きで、第2時間帯の表示まで備える。記録のために機能を削るのではなく、機能を足したうえで記録を取った点に、このRefの性格がある。
2. 三針の系譜から受け継いだもの、変えたもの
外装の文法は、2017年の自動巻き三針モデルをほぼそのまま引き継ぐ。八角形のケース、サンドブラスト仕上げのチタン、ケースと一体に連なるブレスレット。色を排した単色の表情も同じである。
一方で、機械の組み立て方は三針モデルと異なる。Cal.BVL 138がマイクロローターで巻き上げるのに対し、BVL 318は外周を回るペリフェラルローターを採る。この方式は、前年の自動巻きトゥールビヨンBVL 288で用いられたものである。部品を重ねず横へ広げるため、ケース径は三針モデルより2mm大きい42mmとなった。
GMT機能の追加について、テレーニは旅をする顧客を想定したと説明している。発表の場でCEOのジャン=クリストフ・ババンは、初めてシャツの袖の下に滑り込ませられるクロノグラフだと、その薄さを強調した。もっとも、SJX Watchesは2つ目の時間帯について、実用よりも盤面の均衡のために置かれたように見えると評した。計時と時差表示の組み合わせは、当初から評価の割れる選択でもあった。
3. 系列の基準形として
103068は同じ年のうちに、ジュネーブ時計グランプリでクロノグラフ部門の賞を得た。宝飾メゾンの薄型時計が、計時機の専門家の評価軸でも認められた場面である。
その後に続いたBVL 318搭載機は、素材や文字盤、ストラップを替えて広がった。スティールの仕様はケースを厚くし、その代わりに防水性能を高めている。記録を掲げた薄さをそのまま保っているのは、チタンのケースとブレスレットで仕立てたこの最初の仕様である。後続の派生を測る基準は、いまも103068に置かれている。
意匠分析
103068の設計は、厚さを削るための判断が、そのまま外観の個性になっている。
ケースはサンドブラスト仕上げのチタンで、径は42mmである。三針のオクト フィニッシモ オートマティックより2mm大きいが、これは機械の部品を横へ並べた結果である。厚さは6.90mmで、同じ系列の三針モデルの5.15mmとの差は1.75mmにとどまる。サファイアクリスタルの風防と裏蓋を持つ、ごく一般的な構成で、この厚さに収めている。
操作系は3つのプッシャーに分かれる。右側の2つがクロノグラフの発停と帰零を担い、9時位置の1つが中央の時針を1時間単位で進める。チタンのリューズにはセラミックの部材を組み込む。ブレスレットは三つ折れのフォールディングバックルで留める。防水は30mで、薄さを優先した結果、水まわりの実用は控えめな水準にとどまる。
文字盤もサンドブラスト仕上げのチタンで、黒の印字と針が並ぶ。9時にスモールセコンド、6時に30分積算計、3時に第2時間帯の24時間表示を置く。12時間積算計は持たない。旅先の時刻は中央の時針で、本国の時刻は3時のインダイアルで読む。ケース、文字盤、ブレスレットが同じ質感でそろうため、時計全体が1つの素材の塊のように見える。
ムーブメントのBVL 318は、厚さ3.30mm、直径37.2mmの自社製自動巻きである。巻き上げは、アルミニウムとプラチナから成る細い環状のペリフェラルローターが担う。中央ローターやマイクロローターのように機械の上に重ならないため、厚みが増えない。径の大きさも、部品を重ねずに並べるための選択である。
クロノグラフは、円柱状の歯車で各レバーを切り替えるコラムホイールで制御する。クラッチには、歯車を横から噛み合わせる水平式を採る。現在主流の垂直クラッチより古典的な構造だが、厚さを抑えるうえでは有利になる。振動数は毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブは55時間である。外周ローターは機械を覆わないため、裏蓋からはコラムホイールまで遮られずに見える。
系譜と歴史
103068は、2019年3月のバーゼルワールドで発表された。オクト フィニッシモとして5つ目となる薄さの世界記録を掲げ、ケースとムーブメントの双方で機械式クロノグラフの最薄を名乗った。当初の構成はチタンのみで、ケース、文字盤、ブレスレットのすべてをサンドブラスト仕上げでそろえていた。
同年11月7日、ジュネーブで開かれたGPHGの授賞式で、103068はクロノグラフ部門賞を受けた。同じ夜、ブルガリはジュエリーウォッチ部門でも受賞している。
2021年1月のLVMHウォッチウィークでは、派生が2本加わった。一つは同じチタンケースに新しい文字盤と一体型のラバーストラップを合わせたRef. 103371で、ブレスレットを外し、さらに軽い装着感を狙った仕様である。もう一つはケースをステンレススティールに替え、青文字盤を合わせたRef. 103467で、オクト フィニッシモ Sの名を持つスティール系統への展開である。103467はケースを43mm、厚さを8.75mmに改め、防水を30mから100mへ高めている。
2022年には、同じスティールの外装に銀文字盤を合わせたRef. 103661が続いた。同じ年、オクト誕生10周年を記念して、ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニの原画を文字盤に写したRef. 103673も200本限定で作られている。こちらは103068と同じチタンの薄いケースを踏襲した。ムーブメントはいずれもBVL 318で、機械には手が加えられていない。
派生が増えた後も、103068の仕様が改められたという記録は見当たらない。通常生産のRefとして、2026年10月時点でも公式サイトの現行品に名を連ねる。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Octo Finissimo Watch 103068 | Bulgari
- 02 公式 Octo Finissimo Watch 103661 | Bulgari
- 03 公式 Bvlgari, Octo Finissimo Chronograph GMT Automatic | GPHG
- 04 報道 Bulgari Chalks Up Another Record with the Octo Finissimo Chronograph GMT Automatic
- 05 報道 GPHG 2019 | the watch world’s big winners
- 06 専門メディア Bvlgari Octo Finissimo Chronograph GMT Automatic – the World’s Thinnest Mechanical Chronograph Watch
- 07 専門メディア The Latest Bulgari Octo Finissimo Chronograph GMT Automatic in Steel (Live Pics & Price)
- 08 専門メディア Dispatch: Piaget Altiplano Flyback Chronograph
- 09 専門メディア Bulgari Lightens the Octo Finissimo Chronograph with a Strap
- 10 専門メディア Hands-On with the Bulgari Octo Finissimo Chronograph GMT
- 11 専門メディア INTRODUCING: The Bulgari Octo Finissimo 10th Anniversary Limited Editions
- 12 専門メディア 2021 Bulgari Octo Finissimo S Chronograph GMT Revealed
- 13 専門メディア Bulgari 103068 : Octo Finissimo Chronograph GMT Automatic / Titanium
- 14 専門メディア Bulgari 103673 : Octo Finissimo Chronograph GMT Design Edition
- 15 専門メディア Bulgari caliber BVL 318
- 16 専門メディア LVMH Watch Week: Bulgari Releases Three Stunning New Octo Finissimos
- 17 オークション Bulgari 103673 Octo Finissimo Chronograph GMT 10th Anniversary Design Edition