設計思想
1. 黒の数か月後に
2020年1月、ブルガリはオクト フィニッシモ オートマティックをスティールで仕立て直した。黒文字盤のRef. 103297で、均一な梨地だった表面に筋目と鏡面の対比を持ち込んだ。八角形を軸とするオクトの中で、フィニッシモは薄さの記録を担ってきた系統である。それがこの仕様を機に、ラグジュアリースポーツの文脈で語られるようになる。ケースとブレスレットを一体に設計した、鋼のスポーツウォッチの系譜である。
その文脈では、文字盤の色は小さな問題ではない。SJX Watchesは、この種の時計の文字盤が濃色、それもほぼ決まって青になると指摘している。Time+Tideも青をこの分野で最も好まれる色に挙げ、ブルガリが青を出すのは時間の問題だったと書いた。103431は黒の登場から数か月後、その予想どおりの色で現れた。
2. 同じ骨格、別の表情
103431は103297の後継ではない。ケース、ブレスレット、ムーブメントを共有し、文字盤だけが異なる兄弟機である。専門誌の受け止めも、この差分に集まった。Monochrome Watchesは、文字盤とケースの色が揃わなくなった点に、フィニッシモの単色の意匠の終わりを見ている。Fratelloは黒を汎用性の高い色とし、青をよりスポーティな選択と評した。
もっとも、青文字盤のフィニッシモはこれが最初ではない。2019年には、チタンのRef. 103301が青文字盤に東アラビア数字を載せている。中東市場との結びつきを前面に出した仕様であった。103431は、欧文数字とバーインデックスの標準的な構成のまま、青をスティールの通常ラインへ持ち込んだ。同じ色でも、担う役割はまったく異なる。
3. 「S」の名のもとに
ブルガリは2020年のうちに、黒と青の2本を「オクト フィニッシモ S」の名でまとめた。CEOのジャン=クリストフ・ババンは報道資料の中で、この転換を車にたとえている。記録を狙う時計がスーパーカーなら、この鋼の一群は毎日乗れるグランツーリスモだと語っている。ねじ込み式リューズで100m防水を得たので、泳ぐこともでき、テニスコートから会議室まで着けて行けるという説明である。
103431は、この名の下で青を受け持つ1本となった。Sの名はのちに銀文字盤の仕様やクロノグラフGMTにも及び、スティールのフィニッシモは一つの系統として扱われていく。その起点となった2本のうち、色を持ち込んだ方が本機である。
意匠分析
103431の設計上の主題は、文字盤の一枚に集約される。
文字盤は青のラッカー仕上げに、放射状の筋目を刻むサンレイ仕上げを組み合わせる。ラッカーが色に深さを与え、筋目が光を受けて明暗を走らせる。Time+Tideは、日陰ではインクのような濃紺に沈み、陽を受けると一転して明るむ色と描写した。サテンとポリッシュが交互に光を返すケースとともに、反射の変化そのものを見せる構成と読める。
数字とインデックスはアプライドで、ロジウムメッキを施す。針は多面にカットしたロジウム仕上げで、ダイヤモンド研磨を施すと伝えられた。形はドーフィン型で、中央を肉抜きして細身に見せる。青地の上に銀色の線が細く立ち、余白の多い盤面を崩さない。スモールセコンドは7時位置に偏心して置かれ、日付表示は持たない。
ケースは径40mm、厚さ6.40mmの八角形である。先行するチタンや金の仕様は5.15mmだった。厚みが増したのは、ねじ込み式リューズを収めて防水を100mまで高めたためである。リューズは鏡面のスティール製で、頂部にセラミックを埋め込む。ブレスレットはケースと一体に設計され、サテン仕上げのコマが連なる。留め具はブレスの内側に隠れる折りたたみ式で、押しボタンを持たないため外観に凹凸が出ない。
サファイアの裏蓋越しにはCal.BVL 138が見える。厚さ2.23mm、直径36.6mmの自社製自動巻きで、巻き上げはプラチナ製のマイクロローターが担う。石数は36石。振動数は毎時21,600振動 (3Hz)で、60時間のパワーリザーブを持つ。受けのコート・ド・ジュネーブ、面取りした稜線、地板の円形の筋目が仕上げとして並ぶ。Time+Tideによれば、ローターには金でBVLGARIの文字が刻まれる。文字盤の青を除けば、外装と機械は黒文字盤の103297と同じである。
系譜と歴史
103431の前提となるのは、2020年1月にドバイで披露されたスティールのオクト フィニッシモ オートマティックである。サテンとポリッシュで仕上げたケースに黒のラッカー文字盤を合わせたRef. 103297が、その最初の1本だった。同じケースとブレスレットに青のラッカー文字盤を組み合わせた103431は、それから数か月後に加わる。2020年5月28日にFratelloが、6月4日にMonochrome Watchesが本機を紹介した。Monochrome Watchesは発売を同年7月と伝えた。WatchTimeは、8月20日を配送予定日とするオンライン販売を報じている。この時点で、スティールの仕様は黒と青の2本となった。
同じ2020年、ブルガリはジュネーブ・ウォッチ・デイズに向けた報道資料を用意した。そこでは黒と青の2本が「オクト フィニッシモ S」の名で紹介されている。2021年1月には、縦方向の筋目を入れた銀文字盤のRef. 103464が同じ外装で登場し、専門誌もこの名で報じている。同じ発表では、青文字盤とスティールの外装をクロノグラフGMTに移したRef. 103467も加わった。
発表から現在まで、103431に仕様の改訂は確認できない。数量を区切らない通常生産品で、2026年10月時点でもブルガリ公式サイトに掲載が続く。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 OCTO FINISSIMO S
- 02 公式 Octo Finissimo Steel Watch 103431
- 03 専門メディア The Bvlgari Octo Finissimo Blue Dial In Steel Ref 103431
- 04 専門メディア The New Monochrome Bvlgari Octo Finissimo S 103464 Brings Stainless Steel To The Dial
- 05 専門メディア The Bvlgari Octo Finissimo Automatic Steel Satin-Polished, Now with Blue Dial
- 06 専門メディア The Revolutionary List: 30 Pioneering Watches – the Bvlgari Octo Finissimo Automatic
- 07 専門メディア Bulgari Debuts the All Steel, Tone-on-Tone Octo Finissimo S
- 08 専門メディア HANDS-ON: Is the Bulgari Octo Finissimo blue dial in satin polished steel the best steel sports watch of 2020?
- 09 専門メディア Bulgari 103431 : Octo Finissimo S Stainless Steel / Blue / Bracelet
- 10 専門メディア Bulgari 103467 : Octo Finissimo S Chronograph GMT Stainless Steel / Blue / Bracelet
- 11 専門メディア Bvlgari Octo Finissimo S Chronograph GMT Steel
- 12 専門メディア LVMH Watch Week: Bulgari Releases Three Stunning New Octo Finissimos
- 13 専門メディア Bulgari Octo Finissimo Automatic Limited Edition Watch Review
- 14 ブログ Bulgari Octo Finissimo Automatic Satin-Polished Steel 100m