設計思想
1. 1本の時計から、3素材の一群へ
2017年のバーゼルワールドで、ブルガリはオクト フィニッシモ オートマティックを発表した。総厚5.15mmは、発表時点で自動巻き腕時計の最薄であった。ただし素材はサンドブラストのチタンに限られ、ケースから文字盤までが灰色の梨地で統一されていた。
翌2018年、同じ会場でスティールと18Kローズゴールドの仕様が加わる。単独のモデルだった時計が、3つの素材を持つ一群へと広がった瞬間である。103011は、そのうちスティールにブレスレットを合わせた仕様にあたる。革ストラップを合わせたRef. 103035と対をなし、金無垢のRef. 102912と並んで披露された。
2. なぜスティールだったのか
高級スポーツウォッチは、スティールのケースと一体型ブレスレットを基本形として発展してきた。オクトのフィニッシモ系も、発表当初から専門誌にロイヤルオークやノーチラスと並べて論じられている。その系譜に照らせば、スティール仕様の追加は自然な流れであった。
ただし、ブルガリは鋼の地肌をそのまま見せる道を選ばなかった。梨地の上に貴金属のめっきを重ね、白に近い明るい銀色を与えている。チタン仕様の無彩の禁欲を保ちつつ、色調だけを一段明るくした格好である。
重さも変わった。スティールはチタンより比重が大きく、手首に載せたときの存在感が増す。チタン仕様を軽すぎると感じる愛好家がいたことは、当時のMonochrome Watchesも伝えている。極端に薄い時計に確かな重みを与えたことが、本機のもう一つの性格をつくった。
3. スティール系統の起点として
SJX Watchesは、梨地の効果によってスティール仕様は通常よりドレス寄りに見えると評した。艶を消した表面が、スポーツウォッチの素材を正装の側へ引き寄せたのである。
2020年1月、表面をサテンとポリッシュに切り分けた新たなスティール仕様Ref. 103297が登場する。ねじ込み式リューズで防水を100mに高め、めっきを施さない地金の色で仕立てられている。Monochrome Watchesは、30m防水に収集家の不満があり、ブルガリがこれに応えたと評している。発表時の専門誌は、比較の基準として2018年のスティール仕様を挙げている。103011は、この時計がスティールで歩み始めた最初の世代にあたる。
意匠分析
103011の設計は、チタン仕様の寸法と意匠を保ったまま、素材と表面だけを作り替えることに集約される。
ケースは40mm径、総厚5.15mmで、チタン仕様のRef. 102713と同じ寸法である。八角形の胴に円形のベゼルを重ねる構成も変わらない。前後の風防にはサファイアクリスタルを用い、裏蓋から機械が見える。
本機を特徴づけるのは表面処理である。ケースとブレスレット、文字盤をサンドブラストで均一な梨地にそろえる。そのうえで、ケースとブレスレットには0.175ミクロン前後の薄い金の層を置き、パラジウムとロジウムのめっきを重ねる。仕上がりは白に近い銀色で、チタンの灰色とは並べると明確に異なる。めっきには表面の耐久性を高める狙いもあるとされる。
文字盤もスティール製で、ケースと同じ梨地をまとう。黒いドーフィン針と細いバーインデックスは、チタン仕様の構成を踏襲した。単色の盤面に黒い針だけが浮かび、時刻は色の対比で読み取らせる。
リューズの頂部には黒いセラミックのカボションを収める。ねじ込み式ではなく、防水は30mにとどまる。
ブレスレットはケースと一体に設計され、厚さは約2.5mmとされる。コマの裏側は肉抜きされ、二つ折りのクラスプはコマ裏の窪みに収まると伝わる。留め金の位置でも厚みが変わらず、薄いケースの印象が手首の一周まで途切れない。
ムーブメントはCal.BVL 138である。厚さ2.23mm、直径36.6mmの自社製自動巻きムーブメントで、ケースの内側をほぼ満たす。プラチナ製マイクロローターで巻き上げ、パワーリザーブは60時間を確保する。受けにはジュネーブ縞、地板にはペルラージュが施される。機械はチタン仕様と同一で、素材の変更は外装に限られている。
系譜と歴史
103011は、2018年3月のバーゼルワールドで発表された。前年に同じ会場で登場したチタンのブレスレット仕様Ref. 102713に、素材違いの仕様を加える形で示されたものである。同時に、革ストラップを合わせたスティールのRef. 103035も披露された。18Kローズゴールドのブレスレット仕様Ref. 102912も同じ場で加わっている。社内コードはBGO40C14SSXTAUTOと記録される。
店頭への入荷は同年4月の予定と報じられた。6月に掲載された専門誌の実機評は、すでにブルガリのブティックと正規販売店で扱われていると記している。日本では同年8月、国内向けの紹介記事が新たな素材の追加として本機を取り上げた。
103011は限定生産ではなく、通常のコレクションとして加えられた。発表以降に、ケースや文字盤、ムーブメントの仕様変更を伝える記録は見当たらない。
2020年1月には、サテンとポリッシュで仕上げたスティールのRef. 103297が発表された。防水を30mから100mへ高めた新しいケースで、以後のスティール版はこの仕様を軸に色を替えて広がっていく。
103011の生産終了の時期を公式に示した資料は、2026年10月時点で確認できていない。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 報道 The Octo Finissimo Automatic Lineup Expands | BVLGARI
- 02 専門メディア A Personal Take on the Bvlgari Octo Finissimo Automatic Sandblasted Steel
- 03 専門メディア Baselworld 2017 – Bulgari Octo Finissimo Automatic & The World's Thinnest Automatic Movement
- 04 専門メディア Bvlgari Introduces the Octo Finissimo Automatic Sandblasted Trilogy (now in Steel or Gold, in addition to Titanium)
- 05 専門メディア Bvlgari Octo Finissimo Automatic Satin-Polished Steel // Review, Price
- 06 専門メディア The Bvlgari Octo Finissimo Automatic Steel Satin-Polished, Now with Blue Dial
- 07 専門メディア Bulgari Introduces the Octo Finissimo Automatic Satin-Polished
- 08 専門メディア Hands-On with the Bulgari Octo Finissimo Automatic, an Ultra-Thin Winner
- 09 専門メディア Bulgari 103011 : Octo Finissimo Automatic Stainless Steel / Grey / Bracelet
- 10 専門メディア Bulgari 103035 : Octo Finissimo Automatic Stainless Steel / Grey / Alligator