BVL 138
2017年、プラチナ製マイクロローターで自動巻きの最薄記録を更新した、オクト フィニッシモの基幹キャリバー
Cal. BVL 138は、ブルガリが2017年に発表した厚さ2.23mmの自動巻きキャリバーである。スイスの自社マニュファクチュールで開発され、手巻きのCal. BVL 128を母体に、プラチナ製マイクロローターを組み込んで自動巻き化を実現した。直径は36.6mmと幅広く、振動数は21,600vph (3Hz)、パワーリザーブは約60時間を確保する。時分とスモールセコンドのみのシンプルな構成で、オクト フィニッシモ オートマティックに初搭載された。発表時、自動巻きムーブメントとして世界最薄を実現した一作である。
| Maker | Bulgari |
|---|---|
| Reference | BVL 138 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 21,600 bph (3 Hz) |
| Jewels | 36 石 |
| Power reserve | 60 h |
| Movement ⌀ | 36.6 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds |
系譜と歴史
1. オクト フィニッシモが求めた自動巻き
ブルガリがオクト フィニッシモを発表したのは2014年である。同年の薄型トゥールビヨンと並び、時分秒の手巻きモデルには手巻きのCal. BVL 128が積まれた。このキャリバーは厚さ2.23mm、直径36.6mmと幅広く、裏面にパワーリザーブ表示を備える。薄型ながら65時間以上の動力を蓄える設計であった。
ただし日常使いを考えれば、毎日の手巻きは負担となる。ブルガリは薄さを損なわずに自動巻き化する道を探った。通常のローターを地板の上に重ねれば、それだけで数mmの厚みが加わる。薄型の理念とは相容れない。
2. マイクロローターという解
解決策がマイクロローターであった。小径のローターをムーブメントと同じ平面に収め、全体の厚みを増やさない方式である。Cal. BVL 128で裏面のパワーリザーブ表示が占めていた位置に、ローターが置かれた。
小径ゆえに慣性が小さい弱点は、密度の高いプラチナ(Pt950)を用いて補った。こうして完成したCal. BVL 138は、厚さ2.23mmと手巻き機をそのまま踏襲しながら、自動巻きを成立させた。2017年のバーゼルワールドで発表され、自動巻きムーブメントの最薄記録を更新する。従来の記録はピアジェのCal. 1208P(2.35mm)が保持していた。
もっとも、薄さの競争は一進一退である。この称号は、翌年ピアジェが奪い返している。記録の保持は時に短く、各社の設計思想の違いとして捉えるべきものである。
3. フィニッシモ一族での位置づけ
Cal. BVL 138は、フィニッシモ系の中では入口に近い自動巻き機にあたる。母体のCal. BVL 128とは兄弟の関係にある。一方、トゥールビヨンのCal. BVL 268やミニッツリピーターのCal. BVL 362といった上位機、ならびに高級自動巻き機では、巻き上げに外周ローター(ペリフェラルローター)が用いられる。
マイクロローターは1950年代末から知られる比較的古典的な機構で、外周ローターより実装の難度は低い。Cal. BVL 138は、この枯れた方式を薄型化のために選び直したといえる。2014年以降、ブルガリは薄型記録をほぼ毎年更新し、オクト フィニッシモを技術的な看板へと育てた。本キャリバーはその系譜の一翼を担う。
技術解説
マイクロローターと自動巻機構
Cal. BVL 138の心臓部は、地板と同じ平面に収まるマイクロローターである。直径の小さいローターは回転による慣性モーメントが小さく、そのままでは巻き上げ効率が落ちる。ブルガリは比重の大きいプラチナ(Pt950)を素材に選び、限られた質量で十分な巻き上げ力を得た。直径36.6mmという幅広い設計は40mmのケース内をほぼ満たし、地板に径の余裕を生む。薄型でも香箱や輪列を無理なく配置できる。
ローターはセラミック製のボールベアリング上で回転する。鋼球の軸受と異なり潤滑を必要とせず、滑らかな回転が長期間保たれる。巻き上げは両方向式で、ローターが時計回り・反時計回りのいずれに振れても香箱へ動力を伝える。
振動数とパワーリザーブ
テンプの振動数は21,600vph (3Hz)である。1秒あたり6回振動する設定で、現代の主流である28,800vph (4Hz)より一段低い。母体のCal. BVL 128が4Hzであったことを踏まえれば、自動巻き化に際してあえて振動数を下げた選択といえる。
背景には動力の制約がある。小径のマイクロローターが巻き上げられる主ゼンマイの強さには限りがあり、香箱の容量も薄型ゆえに抑えられる。振動数を下げれば脱進機(エネルギーを一定間隔で解放する機構)の消費する力が減り、限られた動力でも約60時間のパワーリザーブを確保できる。薄さと持続時間の均衡を、振動数の側から取った設計である。
香箱は一つ(シングルバレル)で、多重香箱には頼らない。構成を増やせば厚みが増すため、薄型の理念に沿った簡潔な輪列が選ばれている。
テンプ受けと石
テンプを支えるのは、両端で固定される渡し受け(バランスブリッジ)である。片持ちのテンプ受けに比べ剛性が高く、薄い地板の上でもテンプの位置を安定させる。
石数は世代によって異なる。初期型は36石、後の仕様では31石とされる。初期型の石の一部は、回転部品と地板・受けとの間隔を保つためのドーム状スペーサーであり、軸を受ける一般的な穴石とは役割が異なる。約240点の部品が薄い空間に積層される構造ゆえの工夫といえる。
仕上げ
仕上げは薄型機ながら手数を惜しまない。受けにはコート・ド・ジュネーブ(ジュネーブ縞)、稜線には面取り(アングラージュ)、地板にはペルラージュ(円状の磨き模様)が施される。ビス頭は磨き上げられ、ブルガリは手作業による装飾をうたう。スモールセコンドは文字盤上で偏心して配され、薄い構造の中で時分秒を読み取らせる。Cal. BVL 138は、薄さと仕上げの両立に主眼を置いたキャリバーであり、複雑機構を排した簡潔な構成にその思想がうかがえる。