設計思想
1. 世界最薄プラットフォームを継ぐ
103301が立つ土台は、2017年のバーゼルワールドで発表されたオクト フィニッシモ オートマティックである。厚さ2.23mmの自社製Cal.BVL 138を収め、ケース全体で5.15mmという薄さに達した。発表当時、自動巻きとして世界最薄を名乗ったプラットフォームである。ただし、薄さを誇る時計にありがちな小ぶりな円形とは異なり、40mmの八角形ケースは手首の上で確かな量感を見せる。チタンの標準モデルRef. 102713は、サンドブラストのグレーダイヤルを持つ。黒のPVD針と欧文数字を組み合わせ、単色で硬質な表情を見せていた。色を排した禁欲的な意匠が、この時計の出発点にある。
2. 2019年、色と数字による再解釈
その土台へ色を与えたのが、2019年に加わった103301である。ブルーのダイヤルに、東アラビア数字を配した。東アラビア数字とは、アラビア語圏で用いられる数字表記を指す。地域固有の数字を刻んだダイヤルは、2010年代後半に収集家の関心を集めた表現でもあった。単色で統一されていた標準モデルに、色彩というもう一つの軸を加えた選択ともいえる。標準モデルが欧文数字を12時と6時に置くのに対し、本機は中東市場との結びつきを数字の選択で前面に出す。同じ装いをローズゴールドのケースにまとわせたRef. 103300も、同時期に対となって用意された。
3. 標準モデルとの距離
103301は、102713の後継ではない。ケースもムーブメントもブレスレットも共有する、色と数字だけが異なる兄弟機である。薄さを巡る技術的な物語は、標準モデルと重なる。一方で、ブルーダイヤルと東アラビア数字という選択は、本機だけの性格を形づくる。薄型機構そのものの来歴はキャリバー解説に、系列の歩みはシリーズ記事に譲る。この系列の中で103301は、技術ではなく装いで個を主張するRefとして位置づけられる。
意匠分析
103301の見どころは、標準モデルから受け継いだ骨格の上に載る、ダイヤルの作り替えにある。
ダイヤルはブルー。サンドブラストのグレーで統一された標準モデルに対し、本機は明確な色を持つ。そこへシルバーで描かれた東アラビア数字が並ぶ。直線と面で構成された角張ったケースに対し、数字の丸みを帯びた曲線は柔らかな対比を生む。硬質な幾何学の中で、数字だけが異なる律動を刻む。マット仕上げのダイヤルは光の反射を抑え、シルバーの数字との明暗を際立たせる。視認性は、色を変えても確保されている。針はスケルトン化された角型で、文字盤の構成と呼応する。スモールセコンドは7時寄りの左下に置かれ、左右の対称を崩すことで盤面に動きを与える。
ケースは40mmのサンドブラスト・チタン。八角形のケースに丸いベゼルを重ね、ラグはケースに沿って下方へ抱え込むように伸びる。リューズには黒いセラミックを収める。この骨格は標準モデルと共通で、本機はその上で色と数字だけを替えている。一体型のチタンブレスレットは、薄く細かいコマを連ね、フォールディングバックルで留める。極端な薄さゆえに通常の留め具が使いにくく、折りたたみ式が選ばれた。その構造が、装着感の軽さにも結びつく。
サファイアの裏蓋からは、Cal.BVL 138のプラチナ製マイクロローターが見える。ブリッジにはコート・ド・ジュネーブが施される。厚さ2.23mmの機構が、5.15mmという薄さを支えている。
系譜と歴史
103301の土台となるオクト フィニッシモ オートマティックは、2017年のバーゼルワールドで発表された。当初はチタンの標準モデルが中心で、翌2018年にはステンレススチールやゴールドの仕様が加わり、素材の選択肢が広がった。2019年に入ると、単色を基調としてきたこの系列に、文字盤の表情を変えた派生が相次いで用意される。103301も、その流れの中で同年に追加された一本である。ブルーダイヤルに東アラビア数字を備え、ローズゴールドのRef. 103300と対になる構成で登場した。内部呼称はBGO40TXTとされる。ケース素材を除けば、103300とは仕様の大半を共有する。東アラビア数字を配したダイヤルは中東市場を強く意識したもので、湾岸地域のブティックを中心に流通したと伝わる。ムーブメントや基本寸法は標準モデルから変わっておらず、防水も同じ30mにとどまる。本機固有の仕様変更や中間改良は確認されていない。限定生産数や正確な発表時期については、公式の確証が取りにくい。発表から年数を経た現在も、明確な生産終了の告知は確認されていない。現行カタログでの扱いは流動的であり、最新の在庫状況はブランド公式で確認する必要がある。