設計思想
1. 110面から58面へ
2012年に始まったオクトは、多層に削り出した110面のケースで強い個性を示した。一方で、角の立った輪郭は毎日の装いを選ぶ面もあった。2017年、ブルガリはその間を埋める派生ラインとしてオクト・ローマを加える。同じ年にはオクト・フィニッシモの自動巻も登場しており、薄さの記録とは別の軸でオクトの裾野を広げる試みであった。
ケース径は従来のオクトと同じ41mmに据え置かれた。変わったのは面の数とラグの位置である。面を58まで減らし、ラグの幅を詰めたことで、正方形に近かった外形は円へと寄った。aBlogtoWatchはこれを「中間」の時計と評した。丸いブルガリ・ローマでは物足りず、従来のオクトでは主張が強すぎる層に向けたという見立てである。ブルガリ自身はこのラインを、オクトの「第5の要素」と呼んだと伝わる。
2. 5つの初期仕様と102779
発表時のオクト・ローマは5つの仕様で構成された。文字盤は白系、黒、茶の3色で、ケースはスティール、18Kピンクゴールド、両者のコンビが用意された。コンビの仕様は、ケース中央のリングだけを金で仕立てる構成をとる。スティールのブレスレットが付くのは黒文字盤の仕様に限られ、ほかはアリゲーターストラップで供給された。
102779は、このうちスティールケースに白系文字盤とアリゲーターストラップを合わせた仕様である。新色として打ち出された茶文字盤や、金を使う仕様に比べると、素材と色の主張を最も抑えた組み合わせである。そのぶん、58面のケースとラグの処理という、オクト・ローマの造形上の変更を素直に読み取れる。オクトの意匠を受け継ぎながら、正装にも合わせやすい落ち着きを優先した構成である。
3. 刷新の前にあった姿
2023年、ブルガリは時刻と日付だけを表示するオクト・ローマ・オートマティックを改めた。改良の焦点は、文字盤の装飾、暗所での視認性、ブレスレットとストラップの交換機構にあった。一方で、41mmのケース径とBVL 191という骨格は引き継がれている。外形とムーブメントを保ったまま、表面と使い勝手を更新した改良であった。
この流れの中で見ると、102779は改良の前にあった初代の設計を、装飾を加えない形で伝えるRefである。簡素な文字盤と、革ストラップを前提にした外装が、その性格をよく示す。オクト・ローマが当初、ドレスウォッチ寄りに構想されていたことの証左である。
意匠分析
ケースは直径41mmのスティール製で、オクトの八角形を骨格にしながら、面の構成を58面へ整理している。円形のベゼルはヘアラインで仕上げる。aBlogtoWatchによれば、ケースの見える面の多くは鏡面に磨かれる。光の当たり方で面の切り替わりが浮かぶ、ドレスウォッチ寄りの仕上げの配分である。初代のオクトより幅を詰めたラグは、上から見たときの外形を円に近づけた。ストラップ幅は23.5mmで、ケースとの間に段差を作らない取り付けとされる。リューズはねじ込み式で、頭にセラミックを嵌め込むとされる。
白系の文字盤は、資料によって白ともシルバーとも呼ばれる。文字盤は外周に八角形の輪郭を持ち、ケースの幾何を内側でもう一度反復する。時字は植字のバトンで、6時と12時だけを縦長のアラビア数字に置き換えた。3時位置には長方形の日付窓を開ける。時字を削らない位置に収めたと評されており、余白の多い文字盤の均衡を崩さない。時分針は中央をくり抜いた形で、針の下の文字盤を透かして見せる。夜光塗料は用いられていないとされ、視認性よりも文字盤の清潔さを優先した設計である。
裏蓋はサファイアクリスタルのシースルーで、自社製の自動巻BVL 191を見せる。「ソロテンポ」の名を持つこのキャリバーは、両方向巻き上げのローターと単一の香箱を備える。振動数は毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブは42時間で、日常使いに足る実用機としてまとめられている。ローターと受けにはコート・ド・ジュネーブを施し、エッジには面取りを加える。装飾は控えめだが、外装と同じく、面と線の整理で品位を出す方針が通っている。
系譜と歴史
オクト・ローマは2017年初頭に公開された。専門メディアのaBlogtoWatchは同年2月15日に実機の詳報を掲載し、同年のバーゼルワールドでも展示された。発表時の構成は5仕様で、102779はスティールケースに白系文字盤とアリゲーターストラップを合わせた仕様として加わった。
同時に登場した兄弟Refは4本ある。ピンクゴールドに茶文字盤の102702と、スティールとピンクゴールドのコンビに白系文字盤の102703。黒文字盤にスティールブレスレットを合わせた102704と、スティールに茶文字盤の102705である。ムーブメントは発表時から自社製のBVL 191で、生産期間中の文字盤やケースの小変更は、主要な資料からは確かめられていない。
2023年3月、ブルガリはウォッチズ&ワンダーズの開幕前日に、刷新したオクト・ローマ・オートマティックを発表した。文字盤は白、青、アンスラサイトの3色となり、それまでの文字盤に代わってクル・ド・パリ装飾が施された。インデックスと時分針にはスーパールミノバが充填され、リューズガードの追加で防水性能も引き上げられた。ブレスレットとストラップを工具なしで付け替える機構も新たに備わる。
白文字盤の後継はRef. 103738で、同年7月に販売が始まる予定とされた。Monochrome Watchesは、新しい3本がそれまでのRefに代わると伝えている。102779の生産終了の時期は、公式資料では確かめられていない。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Octo Roma Watch 103738
- 02 専門メディア Bulgari Octo Roma
- 03 専門メディア Hands-On With The New, Redesigned Bulgari Octo Roma Automatic
- 04 専門メディア HANDS-ON: A softer shape – the Bulgari Octo Roma
- 05 専門メディア HANDS-ON: Why the new Bulgari Octo Roma Automatic won me over with its quiet luxury appeal
- 06 専門メディア Bulgari 102779 : Octo Roma 41 Stainless Steel / Silver
- 07 専門メディア BASELWORLD 2017: The New Octo Roma – Absolute Purity
- 08 専門メディア Roma Holiday: Bulgari Wows with New Octo Romas Before Watches & Wonders 2023
- 09 専門メディア Bulgari Octo Roma Watch For 2017 Hands-On