設計思想
1. 12年の空白を経た茶ベゼル
2006年、イエローロレゾールの16713などが生産を終え、茶のベゼルはGMTマスターIIのカタログから姿を消した。以後12年、茶を含むGMTは現行品に存在しなかった。
その空白の間に、シリーズはベゼル素材をセラクロムへ移している。ロレックスは2013年に青黒、2014年に赤青と、二色セラミックベゼルを段階的に実用化した。2018年の本機は、青黒・赤青に続く3番目の配色として茶黒を加えた。茶ベゼルの復活は、二色セラクロムの色域を広げる試みでもあった。
発表の場で注目を集めたのは、ステンレスで赤青を復活させた126710BLROである。本機は同じ年に同じ新型キャリバーを得ながら、話題の中心からは一歩引いた位置で世に出た。
2. 継承したもの、置き換えたもの
茶ベゼルの二色GMTは、1970年頃に登場したRef. 1675のスチール×イエローゴールド版にさかのぼる。この仕様はのちにRef. 1675/3と表記された。系譜は1979〜1980年頃に16753、1989年に16713へ受け継がれる。茶の文字盤と茶金のベゼルを組み合わせた個体が、「ルートビア」の愛称で呼ばれてきた。
本機が継いだのは、スチールと金の二色構成、茶を軸とする配色、そして40mmのケース径である。一方で置き換えられた要素も多い。金はイエローからエバーローズへ、ベゼルはアルミニウムからセラミックへ移った。配色は茶金から茶黒に、文字盤は茶から黒に変わっている。
したがって本機は、型番上の直系後継ではない。エバーローズロレゾールのGMTは本機が最初であり、前任にあたるRefは存在しない。「ルートビア」も公式名ではなく、旧作を知る愛好家が引き継いだ呼び名である。
3. 兄弟機との分担
本機は、18金エバーローズゴールド無垢の126715CHNRと対で発表された。ベゼルとダイヤルは両者で共通し、違いはケースとブレスの素材にある。全金無垢の兄弟機に対し、本機はスチールを主体とすることで、茶黒の配色を日常の道具に近い位置に置いた。
ブレスをオイスターに限った点も、本機の性格を形づくる。ジュビリーを選べるGMTが増えるなかで、本機は発表以来3連のオイスターだけを組み合わせてきた。金を用いながらも、スポーツモデルとしての骨格を崩さない。旧作の記憶を呼び起こしつつ、素材も色も現代の文法で組み直した点に、このRefの意味がある。
意匠分析
本機の素材は、ロレックスがエバーローズロレゾールと呼ぶ組み合わせである。ロレゾールはスチールと金を1本の時計に同居させる同社の手法で、1933年に名称が商標登録された。本機のミドルケースはオイスタースチールの一体構造である。ベゼル、リューズ、ブレス中央のコマには18金エバーローズゴールドを充てる。エバーローズは自社で鋳造するピンクゴールド合金で、少量のプラチナを加えて色褪せを抑えるとされる。
ベゼルの二色セラクロムは、茶と黒を1枚のセラミックで塗り分けたものだ。セラクロムはロレックス独自の高硬度セラミックで、傷や紫外線による退色に強い。茶が昼、黒が夜の12時間を受け持つ。数字と目盛りは成形時に凹状に刻まれ、PVD(物理蒸着)でピンクゴールドが被膜される。茶と黒は明度差が小さく、暗い場所では境界が溶け合って見えるとの指摘もある。識別性よりも、金の色調との調和を優先した配色と読める。
ダイヤルは黒である。茶の文字盤を持っていた歴代の「ルートビア」とは、ここで明確に袂を分かつ。アワーマーカーと針は18金ゴールド製で、6時位置の「GMT-Master II」の文字もローズ系の色で刷られる。夜光は青く光るクロマライトである。6時の「SWISS」と「MADE」の間に置かれた小さな王冠は、新世代キャリバー搭載の印とされる。
ブレスは3連のオイスターで、鏡面仕上げのエバーローズの中央コマを、サテン仕上げのスチールの外コマが挟む。クラスプはオイスターロックで、工具なしで約5mm延長できるイージーリンクを備える。ケースとの取り付け部は外から見えない構造だ。兄弟機126715CHNRの金無垢ブレスには、コマ内部にセラミック製インサートが入る。ただし公式はこれを18金モデルの仕様として説明している。
ムーブメントは自社製のCal.3285である。脱進機はニッケル・リン合金製のクロナジー・エスケープメントで、エネルギー効率と耐磁性を高めている。ヒゲゼンマイは常磁性のブルー・パラクロムで、耐震装置にはパラフレックスを用いる。振動数は毎時28,800振動 (4Hz)。パワーリザーブは、先代世代のCal.3186の約48時間から約70時間に延びた。ケーシング後の精度は日差-2/+2秒に保証される。
系譜と歴史
126711CHNRは、2018年3月のバーゼルワールドで発表された。同じ会場では、18金エバーローズゴールド無垢の126715CHNRも披露された。ジュビリーブレスを備えたステンレスの126710BLROも同時発表である。3本はいずれも新世代のCal.3285を搭載し、GMTマスターIIへの同キャリバー導入はこの時が最初となった。エバーローズゴールドの採用と、茶黒の二色セラクロムベゼルも、2本のCHNRが初出である。
WatchBaseは生産開始を2018年4月と記録している。組み合わせるブレスは発表時からオイスターのみで、ジュビリー仕様は用意されていない。公式カタログ上の型番は末尾-0002の1種類で、ダイヤルも黒に限られる。
2019年、GMTマスターIIのラインナップは大きく入れ替わった。新型の126710BLNRがジュビリーで登場する一方、イエローゴールドを用いる旧世代機はカタログを去っている。これにより、スチールと金を組み合わせたロレゾールのGMTマスターIIは、しばらく本機のみとなった。
2023年、イエローロレゾールの126713GRNRが灰黒ベゼルで加わり、ロレゾールのGMTは再び2系統となる。同年以降、GMTマスターIIのムーブメントには新たな刻印が入る。ローターには「Chronometer Perpetual」、ブリッジには「Superlative Adjusted」の文字である。本機も同様とみられるが、裏蓋に隠れて外からは見えない。
2025年、兄弟機の126715CHNRに天然石タイガーアイアンのダイヤルが加わった。本機の黒ダイヤルとケース構成については、生産期間を通じて外観上の仕様変更は確認されていない。
2026年4月のWatches and Wondersでは、赤青ベゼルの2機種がカタログから外れた。ステンレスの126710BLROと、ホワイトゴールドの126719BLROである。本機はこの整理の対象とならず、2026年9月時点でも現行モデルとして掲載が続いている。現行カタログで茶黒ベゼルを備えるのは、本機と126715CHNRのみである。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Watches - Rolex
- 02 専門メディア Rolex Movements Explained