本文へ
ROLEX · SERIES

GMT-Master

二つの時間帯を同時に読む。商用航空の黎明期にPan Amと共に生まれた、トラベラーズウォッチの原型である。

40 mm
01 — 概要 / SUMMARY

GMT-Master(GMTマスター)は、商用航空の黎明期、二地点同時把握の必要に応えて1955年に発表されたロレックスのトラベラーズウォッチである。24時間回転ベゼルとGMT針による二地点同時表示が中核で、1982年のGMT-Master IIで時針の独立調整も加わった。現行ステンレス勢はBatman(126710BLNR)、Bruce Wayne(126710GRNR)、左利き仕様のSprite(126720VTNR)を擁し、ホワイトゴールドにはセラクロムダイヤルを採用した126729VTNRがある。Pepsi、Coke、Root Beerなどの愛称で語られる、最も知られた多時間帯腕時計である。

02 — STORY · 物語

GMT-Master、これまでの軌跡

The story of this series
01

ジェット時代の要請

1950年代、商用航空は重要な転換点を迎えていた。プロペラ機からジェット機へ、大西洋を直行する長距離国際路線の急速な拡張。世界の旅客輸送を牽引していたのが、パンアメリカン航空(Pan Am)である。

長距離乗務員には、二つの時間帯を同時に把握できる工具が必要だった。Pan Amの依頼に応じてロレックスが開発し、1954年に生産が始まり、1955年に正式発表されたのが、世界初の量産デュアルタイムゾーン腕時計、GMT-Masterである。「GMT」はGreenwich Mean Time、商用航空の運用文脈そのものを名に背負って、シリーズは出発した。

02

Ref. 6542 — シリーズ言語の誕生

最初期のRef. 6542は、ケース径38mm、リューズガードを持たないオイスターケースに、自動巻きキャリバー1036(後に1065、1066)を収めた一本である。

このリファレンスにシリーズの設計言語はほぼ揃っている。文字盤中央に時針と連動する24時間針、外周に24時間目盛の回転ベゼル。ベゼルを回せば24時間針の位置が変わり、第二の時間帯が読み取れる。赤と青のバイカラーは、上半分が夜間、下半分が日中を表す機能標識であり、装飾ではない。後年「Pepsi」と呼ばれる配色は、視認性の論理から生まれた。

ベゼル素材は当初、合成樹脂のベークライト。数字にラジウム蛍光塗料を仕込んだが衝撃に弱く、1956年頃にアルミニウム製へ切り替わっている。Ref. 6542にはRef. 6542/8として18金イエローゴールド版もあり、シリーズは当初から工具と上質な腕時計の二面を併せ持っていた。

03

Ref. 1675 — 22年続いた標準形

1959年に登場したRef. 1675は、40mmケースとリューズガードを備えた。以後現在に至るまで、40mmはシリーズの標準寸法である。キャリバーは1565、1965年頃から1575へ移行した。

生産は1980年まで約22年続き、特に長寿命なリファレンスとなった。この間、夜光は1963年頃にラジウムからトリチウムへ、文字盤は光沢ギルトからマット仕上げへ、針はアルファ針からメルセデス針へと段階的に更新されている。

ベゼル色の選択肢もこの世代で広がり、Pepsiに加え、オールブラック、後に「Root Beer」と呼ばれる茶金の配色が登場した。1981年にはクイックセット日付付きキャリバー3075搭載のRef. 16750が後継となるが、外観はRef. 1675から大きく離れていない。

04

Fat Lady — GMT-Master IIへの転換

1982年、ロレックスはシリーズに重要な分岐点を設けた。GMT-Master IIの登場である。最初のRef. 16760は新世代キャリバー3085を搭載し、シリーズ史上初めて、時針を24時間針から独立して1時間刻みで進退させる機能を備えた。

それまでは時針と24時間針が連動しており、ローカルタイム表示にはベゼルを回す必要があった。Ref. 16760では24時間針をホームタイムに固定したまま時針だけを動かせる。「真のGMT」と呼ばれる方式の始まりである。

新キャリバーを収めるためにケースは厚みを増し、この姿が「Fat Lady」「Sophia Loren」の愛称を生んだ。サファイアクリスタルもこの世代から採用された。

Ref. 16760は1988年で生産を終え、後継機Ref. 16710がPepsi、Coke、オールブラックの三色を擁する20世紀末の代表的スポーツロレックスとなる。時針連動式の旧GMT-MasterもRef. 16700として併売されたが1999年に終了し、シリーズは「GMT-Master II」へ一本化された。

05

セラクロムの時代

2005年、シリーズは50周年を迎えた。記念モデルRef. 116718LN(18金イエローゴールド)で、ロレックスは高硬度セラミック「セラクロム(Cerachrom)」製ベゼルを初投入する。アルミニウムベゼルが抱えていた退色と擦り傷の問題を、材料変更で根本から解決した。

ステンレス仕様への展開は2007年のRef. 116710LN。オールブラックのセラクロムベゼル、視認性を高めた「マキシダイヤル」、緑色のGMT針を特徴とし、堅牢性と読み取りやすさを引き上げた。

二色セラクロムは技術的に難しいとされていたが、2013年のRef. 116710BLNRで実現する。青黒の組み合わせから「Batman」と呼ばれるこの一本は、量産モデル初の二色セラミックベゼルである。2014年には18金ホワイトゴールドの赤青Pepsi(Ref. 116719BLRO)、ステンレス製Pepsiの復活は2018年のRef. 126710BLROで、キャリバー3285搭載の126710世代が始まった。

06

126710世代と現在

2018年にローズゴールド/ステンレスのRef. 126711CHNR「Root Beer」、2019年に新世代Batman(Ref. 126710BLNR、ジュビリー版は「Batgirl」)が加わる。

2022年のRef. 126720VTNRはシリーズの慣習を破る一本だった。リューズと日付窓を9時側に置いた左利き仕様(destro)、緑黒セラクロムから「Sprite」と呼ばれる。2024年にはステンレス・グレー黒バイカラーのRef. 126710GRNR「Bruce Wayne」、2025年に左利きホワイトゴールドのRef. 126729VTNRが続き、後者はダイヤルにロレックス初のセラミック(緑のセラクロム)を採用した。

2026年のWatches and Wondersでは、ステンレスの象徴Pepsi(Ref. 126710BLRO)がカタログから外れた。Coke代替も用意されず、ステンレスのバイカラー編成はBatman/Batgirl、Bruce Wayne、Spriteの三本となっている。商用航空のために生まれた工具は、70年を経て素材と機構を更新しながら、基本構造を守り続けている。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

GMT-Masterの設計言語は、極めて明確な機能要請から出発している。「二つの時間帯を同時に読む」という単一の目的が、シリーズの形態をほぼ規定したと言ってよい。70年を経た今も視覚的な核がほとんど揺らがないのは、機能と意匠が分かちがたく結びついているためである。

中核を成すのは、24時間目盛を刻んだ双方向回転ベゼルと、文字盤を24時間で一周する専用針の組み合わせである。ベゼルの色分けは装飾ではない。上半分が夜間、下半分が日中を表す機能標識として配されており、赤青(Pepsi)、青黒(Batman)、緑黒(Sprite)、灰黒(Bruce Wayne)、茶黒(Root Beer)、赤黒(Coke)など、歴代の配色はいずれもこの「昼夜の弁別」を視覚化する形をとる。一見華やかなパレットの背後には、視認性の論理が一貫して貫かれている。

ケースは1959年のRef. 1675以来、40mmを基準とする。リューズガード、回転ベゼル、ジュビリーまたはオイスターブレスとの一体的な造形は、サブマリーナやエクスプローラーと共通するロレックス・スポーツのフォーマットに属する。だがGMT-Master固有のシルエットを成立させているのは、ベゼル目盛のレイアウトと、文字盤上の24時間針が描く独特のテンポである。時針が12時間で一周する一方、もう一本の針が同じ盤面を24時間でゆっくり巡る。この二重のリズムが、シリーズを他のスポーツモデルから峻別している。

機能の進化は、視覚的な不連続を生まないように慎重に行われてきた。1982年のGMT-Master II Ref. 16760で導入された独立調整可能な時針は、機構としては大きな転換である。だがダイヤル上の構成要素――時針、分針、秒針、24時間針、日付窓、サイクロップスレンズ――の配置は受け継がれている。素材も同様で、ベークライト、アルミニウム、セラクロム、そして2025年のセラミックダイヤルへと進化しながら、配色のルールは一貫している。

「変えないこと」のための「変えること」――これがGMT-Masterの設計姿勢である。1955年に商用航空の実務から生まれた論理は、現代の旅行者の手元でも、ほぼ同じ姿のまま機能している。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1955-1959
Cal. 1036
初代6542用、Bakeliteベゼル時代の自動巻機。
1959-1980
Cal. 1565 / 1575
1675長期生産期の主力、後期はハック秒搭載。
1980-1988
Cal. 3075 / 3085
クイックセット日付、3085はGMT II初代用。
1989-2007
Cal. 3185
16710用、独立調整可能な24時間針機構。
2007-2018
Cal. 3186
116710用、Parachrom搭載、セラクロム時代対応。
2018-現在
Cal. 3285
70時間PR、Chronergy脱進機、126710系用。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1955-1959

初代Pan-Am誕生

6542
Pan Am向け開発、Bakeliteベゼル、初の量産2タイムゾーン機。
1959-1980

1675黄金期

1675
Cal.1565→1575、Crown Guard追加、20年以上の長期生産機。
1980-1988

II分岐とサファイア化

16750 16760 16700
16750でCal.3075更新、16760 Fat LadyがGMT II初代機。
1989-2007

II長期生産期

16710
GMT II Cal.3185、18年の長期生産、Pepsi/Coke/黒の三色。
2007-2018

Cerachrom導入

116710LN BLNR
セラクロム導入のCal.3186、2013年BLNR Batman両色化。
2018-現在

Pepsi復活とCal.3285

126710BLRO GRNR
Pepsi量産126710BLRO、Cal.3285、2024年GRNRも投入。
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 6 モデル

6 references in archive