設計思想
セラミック化で途切れた2色
GMTマスターは誕生以来、昼夜を色分けした2色ベゼルを象徴としてきた。先代16710にも、赤と青、赤と黒のアルミ製インサートが用意されていた。ところが2005年に始まるセラクロム世代では、ベゼルは黒一色に限られた。2007年に16710の後を継いだステンレスモデル116710LNも同様で、2色の伝統はここで途切れる。
アルミなら容易だった塗り分けが、硬く焼き固めるセラミックでは難題となったためである。当時のロレックス自身も、2色のセラクロムは実現できないとしていたと伝わる。
2013年の回答
2013年、ロレックスはこの課題に特許製法で答えた。116710BLNRは、一体成形の2色セラクロムを備えたロレックス初のモデルである。この種の部品としては世界初ともされる。
愛好家の間では赤と青の復活を望む声が多かったが、選ばれたのは青と黒であった。GMTマスターの系譜で、この配色が採られたのは初めてとされる。セラミックでは赤の発色がとりわけ難しく、先に実用化できたのが青と黒だったとの見方もある。末尾のBLNRはフランス語の「bleu noir(青・黒)」に由来する。その配色から、愛好家の間では「バットマン」の愛称でも呼ばれる。
116710LNとの連続性
本機は新しいケースも、新しいムーブメントも持たない。ケースとCal.3186、オイスターブレスは116710LNと共通で、差分は色に関わる部分に限られる。世代の途中で配色違いを加えること自体は、ロレックスでは珍しくない。ただし本機の場合、その色こそが素材技術の成果であった点で性格が異なる。外観の変化は小さくとも、116710LNが失っていたGMTマスター本来の顔を取り戻したモデルだったのである。
2色セラクロムの起点として
本機で確立された2色成形の技術は、その後の展開の起点となった。2014年にはホワイトゴールドの116719BLROで、赤と青の組み合わせが実現する。ステンレスでは2018年の126710BLRO登場まで、2色のセラクロムを持つのは本機だけであった。
2019年、ロレックスはGMTマスター IIのベゼルを原則として2色に統一する方針を示した。単色ベゼルの116710LNは後継を持たずに生産を終え、本機は126710BLNRへと引き継がれている。黒一色から始まったセラミック世代のGMTマスター IIは、本機を境に2色を標準とする時代へ移った。
意匠分析
本機の設計上の主題は、ベゼルインサートに集約される。素材はロレックス独自のセラミック「セラクロム」で、傷や紫外線による退色にきわめて強い。116710LNの単色インサートに対し、本機は一体成形のまま青と黒の2色を持つ。
製法は特許で保護されている。インサートは青いセラミックとして成形され、焼結前に半分だけ化学処理を施すことで黒へ転じるとされる。2色の境界はにじみなく、直線的に切り替わる。24時間目盛のうち6時から18時までを青、18時から翌6時までを黒とし、昼と夜を塗り分ける。刻まれた数字と目盛には薄いプラチナ被膜が施され、研磨されたセラミックの地から浮かび上がる。
文字盤は116710LNと共通の黒で、大型のインデックスを持つ「マキシダイアル」である。変更点は二つある。GMT針が緑から青に改められ、文字盤の「GMT-MASTER II」表記は緑から白に変わった。表記を青にしなかったのは、黒地での判読性を保ち、ベゼルと針の青を際立たせるためと考えられる。夜光には青く光るクロマライトを用い、針ごとに形状を変えて暗所での判別を助ける。
40mmのオイスターケースは116710LNと共通の設計で、先代16710より幅広のラグを持つ。その量感から、愛好家の間では「スーパーケース」とも呼ばれる。リューズには3重の防水構造を持つトリプロックを採用する。ブレスは3連のオイスターで、中央リンクを鏡面、両側をサテンに仕上げる。オイスターロック・クラスプは不意の開放を防ぎ、イージーリンクで工具なしに5mm延長できる。
ムーブメントは自社製のCal.3186である。常磁性合金製のブルー・パラクロム・ヒゲゼンマイを備え、磁気や温度変化、衝撃の影響を受けにくい。短針は1時間単位で前後に単独で送れ、日付も連動して切り替わる。その間もGMT針と分針は動き続けるため、渡航先での時刻合わせが基準時刻の表示を乱さない。
系譜と歴史
116710BLNRは、2013年4月に開幕したバーゼルワールド2013で発表された。基幹となる116710LNの登場から6年後のことである。製品コードは116710BLNR-0002で、黒文字盤とオイスターブレスの組み合わせだけで展開された。文字盤色やブレスの選択肢は、生産期間を通じて設けられていない。発表直後から注目を集め、供給が需要に追いつかない状態がしばらく続いたと伝わる。
2015年、ロレックスは高精度クロノメーター認定を再定義した。ケーシング後の精度を日差±2秒とし、国際保証も5年に延長している。生産の途中にあった本機も、この新基準のもとで出荷されるようになったとされる。
2018年のバーゼルワールドでは、新世代のCal.3285を積んだ126710BLROが登場した。結果として、本機の世代交代を予告する出来事となった。
2019年3月のバーゼルワールド2019で後継の126710BLNRが発表され、本機は生産を終えた。生産期間はおよそ6年で、ロレックスのプロフェッショナルモデルとしては比較的短い。後継機ではパワーリザーブが48時間から70時間に延び、ブレスは5連のジュビリーに改められた。オイスターブレスの設定が後継機に加わるのは、2021年のことである。
2026年には赤と青のベゼルがカタログから外れたが、126710BLNRの生産は続いている。本機が持ち込んだ青と黒の配色は、2013年以来途切れることなく現行ラインに残る。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 専門メディア Rolex Automatic Movements Reference Guide
- 02 専門メディア Rolex Movements & Calibers
- 03 ブログ Rolex GMT-Master II