設計思想
機械式ムーンウォッチを補うという課題
1990年代半ば、NASAの宇宙飛行ではジェミニ計画以来の機械式スピードマスター・プロフェッショナルが使われ続けていた。一方で、ミッションの管理にはクオーツとデジタル表示が得意とする機能が求められつつあった。複数のタイムゾーン、カウントダウン、アラームといった機能である。
この課題に取り組んだ中心人物は、アポロ10号の元宇宙飛行士トーマス・スタッフォードとされる。当時オメガの取締役会に名を連ねていた人物である。ただしX-33は既存のムーンウォッチを置き換えるものではなかった。電池や液晶は真空や極低温に弱く、船外活動では機械式が引き続き優位だったためとされる。X-33は船内とコックピットのための補完的な計器として構想された。
パイロットと宇宙飛行士による共同設計
開発は机上ではなく現場で進められた。試作機は民間・軍のパイロットに渡され、実際の飛行環境で使われた。寄せられた要望は、液晶のコントラスト向上、液晶を遮らずに夜間も読める針、手袋のまま押せる大型プッシャーなどであったと伝わる。
開発初期の試作機は「フライトマスター」の名を冠していた。1969年にオメガが送り出したパイロット向けクロノグラフの名である。最終的な製品名「X-33」は、NASAが進めていた同名の再使用型宇宙往還機計画から借りた開発コードに由来するとされる。
「プロフェッショナル」を名乗ったクオーツ
3290.50.00の文字盤には「Speedmaster Professional」の銘が入る。ムーンウォッチと同じ名を、電池で動くクオーツ機に与えた判断である。発売当時、機械式を重んじる愛好家の間ではこの命名に異論もあったとされる。オメガはこのモデルを「マーズウォッチ」として訴求し、宇宙探査の次の段階を担う時計という像を打ち出した。
系譜の起点として
3290.50.00は、後に「第1世代」と呼ばれることになる。2001年に後継の3291.50.00が登場し、外装の細部が見直されたためである。X-33の系譜はその後も続く。2012年にはパイロット向けのスペースマスターZ-33(Ref. 325.92.43.79.01.001)、2014年にはスカイウォーカーX-33が登場した。いずれも多機能クオーツと計器としての性格を受け継いでいる。WatchBaseが両者を「X-33 / Z-33」の一系統にまとめるのも、この連続性ゆえである。本機はその出発点にあたる。
意匠分析
3290.50.00の外装は、チタンのケースとブレスで構成される。ケース径は42.25mmとされ、WatchBaseは42mmと記録している。チタンの艶を抑えた地肌は、コックピットや宇宙船内で光の反射を嫌う用途に適した素材として選ばれた。
一方で、ベゼルとプッシャーには研磨仕上げが施されている。ベゼルは回転式で、60分目盛のゼロ位置に赤いマーカーを置く。本機の防水性能は30mにとどまり、ベゼルは潜水用ではなく、短時間の経過時間を目で追う補助目盛として置かれたものである。後継の3291.50.00では、マーカーは夜光パールに、仕上げはサテンに改められた。研磨面の反射が飛行用途に向かないと判断されたとされる。本機の研磨ベゼルは、計器としての要件と時計としての伝統的な仕上げが同居していた段階を示している。
プッシャーは大きく平らな形状である。手袋をはめた指での操作を想定した、試作段階からの改良点とされる。竜頭には従来型のローレット刻みが入る。ただしX-33の竜頭は巻き上げを行わず、押し引きで操作する。刻みは機能より意匠上の継承と言える。第2世代では、この竜頭も同心円状の溝を持つ形状に変更された。
文字盤は中央に液晶を収め、その上をブロードアロー針が巡る。針の形状は、1957年の初代スピードマスターを想起させるものである。試作段階では羽根型やスペード型の針も検討されたと伝わる。液晶を遮らないことと、夜間の視認性を両立させる答えとして、この形に落ち着いた。分針は30秒ごとに段階的に進むとされ、機械式とは異なる運針のリズムを持つ。
裏蓋にはシーホースの意匠が入るのみで、「Flight-qualified by NASA for Space Missions」の刻印はない。この刻印は第2世代で加えられたもので、有無が両世代を見分ける手がかりとなる。
ムーブメントのCal.1666は、オメガ自社名義の多機能クオーツである。1986年のシーマスター・マルチファンクションに用いられたCal.1665の系譜に連なる。公式はGMT、アラーム、クロノグラフ、曜日・日付表示を主要機能に挙げる。アナログ針と液晶が機能を分担し、時刻を読む動作と計測する動作を1枚の文字盤上で切り分けている。
系譜と歴史
1995年末、オメガは後にX-33となる多機能クオーツの試作機をNASAへ納入した。試作機はスペースシャトルのSTS-75とSTS-79で試験に供されたとされる。その後も試作機は民間・軍のパイロットに渡り、改良と実地評価が短い周期で繰り返されたと伝わる。1997年の試作機にはすでに「Speedmaster Professional」の銘が文字盤に入っていた。
公式発表は1998年3月、テキサス州ヒューストンのNASAジョンソン宇宙センターで行われた。発表はロシアの宇宙ステーション・ミールとの衛星中継と併せて実施され、船内には市販前の個体がすでに持ち込まれていた。同年4月のスペースシャトル・コロンビアによるSTS-90でも、X-33の試作機を着用した宇宙飛行士の姿が記録されているとされる。
この市販モデルに与えられた製品番号が3290.50.00である。チタンケースにチタンブレスを組み合わせた仕様で、オメガは「マーズウォッチ」の名で訴求した。
WatchBaseの記録によれば、3290.50.00の生産期間は1998年から2001年である。2001年には後継の3291.50.00が登場し、ベゼル、プッシャー、竜頭、裏蓋刻印などの外装が改められた。ムーブメントのCal.1666と基本的な機能・操作は、両世代で共通とされる。後継の登場以降、本機は「第1世代」と呼ばれるようになった。
X-33としての一般向け販売は2006年に終了した。その後も宇宙機関や軍のパイロット向けには供給が続いたとされる。3290.50.00は現行品ではなく、オメガ公式サイトには販売終了モデルとして仕様のみが残されている。
出典
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