設計思想
1. 日付を持たない、もう一つの本流
サブマリーナは本来、日付を持たない時計として生まれた。1969年に日付付きの系統が加わって以降、両者は並走してきた。公式名称でも本機は単に「Oyster Perpetual Submariner」であり、日付の有無を冠さない。ノンデイトという呼び名は、日付付きと区別するための通称にすぎない。
ただし近代のノンデイトは、世代交代のたびに後を追う立場にあった。セラクロムベゼルは2008年に金無垢のデイトで導入され、2010年に鋼の116610LNへ広がった。ノンデイトの114060に届いたのは、さらに2年後の2012年である。しかも114060のムーブメントは、先代14060MのCal.3130を引き継いだものだった。外装は新しくなっても、中身は前世代のままという移行である。
2. 2020年、同時刷新という例外
ロレックスは新しい意匠や機構を、貴金属、コンビ、鋼の順に段階的に広げることが多い。2020年はその例外だった。サブマリーナは日付付きを含む全リファレンスが一度に刷新され、鋼のノンデイトも最初の刷新対象に含まれた。
より大きな意味を持つのはムーブメントである。日付付きモデルが得たCal.3235は、2015年以降ロレックスの他の系列で使われてきた既存の機械だった。一方、本機のCal.3230はこの年に発表された新キャリバーである。ノンデイトは前世代の「遅れて引き継ぐ」立場から、新しい機械を最初に積むモデルの一つへと役回りを変えた。124060の意味は、まずこの転換にある。
3. 114060から何を変え、何を残したか
114060のマキシケースは、角張ったラグがもたらす力強さと引き換えに、5桁時代の軽快さを失ったとも評されてきた。124060は径を41mmへ広げながらラグを細く絞り、輪郭を14060に通じる流れのある方向へ戻している。
一方で、黒一色の文字盤とベゼル、300m防水という顔立ちには手を付けていない。ロレックスは発表資料で、本機をモデルの歴史的な美学に忠実な一本と説明した。変更は輪郭と中身に集中し、並べて見なければ気づかない層で刷新が進められている。
4. シリーズの基点として
本機は現行ラインで唯一のノンデイトである。ケースの造形とブレスレットは日付付きの鋼モデルと共有する。両者を分けるのは、日付表示とサイクロプスレンズ、そしてムーブメントである。本機で世に出たCal.3230は、翌2021年のエクスプローラー 124270など、ロレックスの3針モデルへ広がっていった。色ベゼルや貴金属の仕様が入れ替わっても、この黒の1本はシリーズの基点として置かれ続けている。
意匠分析
124060のケースは41mmのオイスタースチール製である。前任114060の「マキシケース」は、ケースサイドの線をそのまま延ばしたような太く角張ったラグを持っていた。本機ではラグが細くなり、先端へ向かって絞り込まれる形に改められた。リュウズガードの形状も見直されている。ラグ幅は20mmから21mmへ広がった一方、ケース厚は前任とほぼ変わらないと報じられる。上面はサテン、側面はポリッシュという仕上げの切り分けは公式資料にも明記され、側面の反射がケースの輪郭を際立たせる。
ブレスレットは3連の無垢コマによるオイスターブレスである。公式資料上の型番は、日付付きの126610LVと共通の97JB00となっている。ラグ幅の拡大に合わせて全長にわたり幅が約1mm増し、クラスプへ向かうすぼまりは穏やかになった。細身になったラグに対し、ブレスレットの量感で釣り合いを取る意図と読める。オイスターロック・クラスプはグライドロックを備え、工具を使わずに約2mm刻みで最大約20mm延長できる。
文字盤は黒のラッカー仕上げである。インデックスと針は18Kホワイトゴールド製で、青く発光する自社の夜光塗料クロマライトを充填する。日付窓がないため、3時位置にも6時・9時と同じバーインデックスが置かれ、文字盤は左右対称となる。風防はサイクロプスレンズを持たない平らなサファイアで、日付付きの兄弟機との外観上の分かれ目となる。インデックスと針の大きさは前世代を踏襲するが、分針はミニッツトラックに届く長さへ延ばされたと報じられる。6時位置の4行表記も維持された。表記上の変化は、SWISSとMADEの間に王冠マークが入った点にとどまる。この王冠は、新世代ムーブメントを積むロレックス各モデルに共通する識別とされる。
ベゼルは120クリックの逆回転防止式である。自社製セラミックであるセラクロムのインサートに目盛りと数字が刻まれ、そこにプラチナがコーティングされる。
ムーブメントは自社製のCal.3230である。脱進機には効率を高めた特許機構クロナジー・エスケープメントを採用する。磁気に強い青いパラクロムヒゲゼンマイと、パラフレックス耐震装置も備える。パワーリザーブは、前任Cal.3130の約48時間から約70時間へ伸びた。
系譜と歴史
124060が公開されたのは2020年9月1日である。2012年のBaselworldで披露された前任114060から、8年ぶりの世代交代だった。春のBaselworldが開催されなかったこの年、発表は見本市を介さずオンラインで行われた。同時に発表されたサブマリーナは、ノンデイトの本機1本とデイト7本の計8本である。114060は本機と入れ替わりにカタログから外れた。同日には新設のオイスター パーペチュアル 41(124300)も発表された。Cal.3230は本機と並んで、このモデルにも初めから搭載されている。
仕様は発表当初から、黒ラッカー文字盤と黒セラクロムベゼルの組み合わせ1種のみである。公式サイト上の型番はm124060-0001。生産期間中に文字盤の刷り、ベゼル、ブレスレット、ムーブメントの変更を告知した公式資料は確認されていない。
2023年にサブマリーナは誕生70周年を迎えたが、記念モデルや新リファレンスは追加されなかった。2026年春には、同世代のホワイトゴールド仕様126619LBがカタログから外れた。124060は2026年9月現在も、公式の仕様表記を発表時から変えないまま、現行モデルとしてカタログに掲載されている。
出典
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