設計思想
1. 2012年、最後に残った旧世代の顔
2010年にスチールのサブマリーナ デイトがセラミック世代へ移ったあとも、日付なしの14060Mは旧来の姿で作られ続けた。アルミ製のベゼル、細く絞られたラグ、5桁リファレンスの時代から続くケースである。前年の2011年にはエクスプローラーIIも216570へ刷新されていた。14060Mは、スポーツモデルで20世紀の設計を最後まで残した一本とも評された。
2012年の114060は、この空白を埋める役を負って現れた。求められたのは新しい性格ではなく、鋼のサブマリーナの外観を一つの世代にそろえることだった。セラクロムベゼル、大型化した文字盤、グライドロック付きのブレスレット。いずれも2008年以降の貴金属モデルと、2010年の116610LNがすでに備えていた要素である。本機はそれらを、日付を持たない最も簡素なサブマリーナへ移し替えた。
2. 外装から始めた近代化
114060で変わったのは、外から見える部分のほぼすべてである。ケース、ベゼル、文字盤、ブレスレットが一度に置き換えられた。一方で、40mmの径、日付のない文字盤、そしてムーブメントのCal.3130は前任から動かなかった。
機械を据え置く判断は、同世代の116610LNにも共通する。2010年のデイトもまた、前任と同じCal.3135を積んだまま外装だけを新しくした。セラミック世代のサブマリーナは、外装の刷新を機械の刷新より先に進めた世代だったといえる。日付なしの114060は、その方針が最も簡素な形で表れた一本である。
3. 評価の分かれた量感
新しいケースがもたらした量感は、愛好家の評価を二分した。5桁時代の細身の輪郭を好む層は距離を置き、傷や研磨に強い堅牢さを歓迎する層は支持した。日付窓とサイクロプスレンズを除けば116610LNとほぼ同じ構成であり、本機はこの世代の最も素の姿として受け止められた。
114060は、セラミック世代で唯一の日付なしサブマリーナとして8年余りを過ごした。色違いも貴金属仕様も作られず、黒の1本だけがその役を担い続けた。
4. 124060への橋渡し
2020年、後継の124060は径を41mmへ広げながらラグを細く絞り、ムーブメントを新しいCal.3230に替えた。114060が残した機械の刷新を果たし、あわせてその量感を和らげた形と読める。
日付なしのサブマリーナの近代化は、こうして二つのRefに分けて進められた。14060Mから114060への移行で外装が改まり、124060への移行で機械とプロポーションが改まった。本機はその前半を担ったRefである。
意匠分析
ケース径は前任14060Mと同じ40mmに据え置かれた。変わったのは輪郭である。14060Mのラグは先端へ向かって細く絞られ、面取りが施されていた。本機ではラグとリューズガードが幅広く厚くなり、ケースサイドの線が角張ったまま伸びる形に改められた。愛好家の間で「スーパーケース」や「マキシケース」と呼ばれる造形で、日付付きの116610LNと同じ設計言語に属する。上面はサテン、側面はポリッシュで仕上げられる。肉厚なラグには、研磨を重ねても形を保ちやすいという利点を指摘する見方もある。ラグ幅は20mmである。
ベゼルインサートは黒のセラクロムで、刻まれた目盛りと数字にはプラチナが施される。アルミ製だった前任のインサートと違い、色褪せや擦れが目立ちにくい。
文字盤は光沢のある黒で、インデックスは大型化された。ホワイトゴールドの縁取りの内側に、青く発光する自社の夜光塗料クロマライトを充填する。前任のスーパールミノヴァより発光の持続を長くした素材で、ベゼル0位置の夜光カプセルにも用いられる。針も幅を広げ、時針には三叉のメルセデス型を用いる。ただし分針は外周のミニッツトラックにわずかに届かず、この点は後継124060で改められた。日付がないため3時位置にもバーインデックスが置かれ、風防はサイクロプスレンズのない平らなサファイアとなる。6時位置の4行表記と、見返しに刻まれたROLEXの連続文字は、14060Mの後期に導入されたものを受け継いだ。
ブレスレットは中駒まで無垢のリンクをねじで留めるオイスターで、上面と側面の仕上げをケースに揃えた。クラスプは誤開放を防ぐオイスターロックで、グライドロック機構を内蔵する。工具を使わずに約2mm刻みで最大約20mmまで長さを調整できる。14060Mのフリップロック式延長リンクに代わる機構である。
ムーブメントは14060Mから引き継いだ自社製Cal.3130である。日付機構を持たない自動巻きで、毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブは約48時間。テンプを両側から支えるフルブリッジと、パラクロムヒゲゼンマイを備える。リューズは三重の防水構造を持つトリプロック式である。
系譜と歴史
114060が発表されたのは、2012年3月8日に開幕したBaselworld 2012である。Cal.3130を積む14060Mの後を受け、日付なしのサブマリーナとして初めてセラクロム(セラミック)ベゼルを備えた。セラミック世代のサブマリーナは、2008年の金無垢デイト116618LBと116619LBに始まる。2010年には鋼の116610LNと116610LVへ広がっていた。本機の登場により、鋼のサブマリーナ3本はすべて同じ世代の意匠にそろった。
仕様は生産の全期間を通じて1種類のみである。鋼のケースに光沢のある黒文字盤と黒のセラクロムベゼルを合わせ、色違いや貴金属の派生Refは設定されなかった。公式サイト上のモデル番号はm114060-0002であった。
2015年3月、ロレックスはデイデイト40の発表に合わせて新しい高精度クロノメーター基準を導入した。ケーシング後の完成品に、日差-2〜+2秒を求める基準である。この基準は2016年初めまでに全生産へ広げられたと報じられ、本機もその対象に入った。以後の個体には緑のシールと5年間の国際保証が付く。文字盤の表記は、この切り替えの前後で変わっていないとされる。それ以外に、外装やムーブメントの仕様変更を告げた公式発表は見当たらない。
2020年はBaselworldが開かれず、ロレックスは9月1日に自社サイトで新しいサブマリーナを発表した。日付なしの後継は41mmケースとCal.3230を備える124060で、114060はこの日をもってカタログから外れた。約8年半の生産を終えた本機は、40mm径で作られた最後のノンデイトとなった。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 専門メディア Rolex Movements Explained: Every Caliber Worth Knowing
- 02 専門メディア Rolex caliber 3130