設計思想
1. ホワイトゴールドのサブマリーナという系譜
126619LBの出自をたどると、2008年の116619LBに行き着く。量産品として初めてホワイトゴールドを採用したサブマリーナで、青いセラクロムベゼルに鮮やかな青文字盤を合わせていた。コレクターからは「スマーフ」の通称で呼ばれ、生産は12年に及んだ。
宝飾仕様を除くと、前世代のサブマリーナ・デイトは7本で構成されていた。鋼は黒と緑、ロレゾールとイエローゴールドは黒と青の2色を持つなかで、ホワイトゴールドだけは青の1本に限られていた。この構図は2020年の世代交代でも変わらず、126619LBは新世代で唯一のホワイトゴールド製サブマリーナとして登場する。
2. 青から黒へ
2020年9月1日、ロレックスはサブマリーナを一斉に刷新した。41mmケースや新世代ムーブメントといった更新は全8本に共通するが、126619LBには固有の変更が1つ加わった。文字盤の色である。
前任の青文字盤は黒のラッカー仕上げに置き換えられ、青はベゼルだけに残った。同じ判断は緑ベゼルの126610LVにも下されている。前世代のサブマリーナ・デイトは、文字盤とベゼルの色を揃えるのが通例だった。2020年世代はその文法を、この2本に限って改めたことになる。
一方で、イエローゴールドの126618LBとロレゾールの126613LBは青文字盤を継続した。青文字盤はイエローゴールドを伴う2本に残り、ホワイトゴールドは黒文字盤へ移った。素材ごとに配色を描き分けた結果とも読めるが、ロレックスは意図を説明していない。
3. 目立たない貴金属
黒文字盤への変更は、この時計の性格を静かに変えた。ホワイトゴールドは鋼と色味が近く、黒文字盤と組み合わさると、遠目には鋼のサブマリーナと見分けにくい。発表当時のレビューでも、外観からは金無垢の重量感がすぐには伝わらない点が指摘されている。青一色で存在を示した前任に対し、本機は素材の価値を外観の奥に置いた。
コレクターの間では、青いベゼルと黒文字盤の配色から「クッキーモンスター」と呼ばれるようになった。ロレックス自身がこの名を用いたことはない。前任の通称と同じく、配色から生まれた愛称である。
4. 系譜の空白
2020年世代の8本のうち、最初にカタログを離れたのは本機だった。後継となるホワイトゴールドのRefは用意されていない。2008年から続いた「ホワイトゴールドに青いセラクロムベゼル」の系譜は、ここで途切れている。その18年のうち、本機が担ったのは最後の約5年半にすぎない。
退場の理由をロレックスは説明していない。同時期には、青を含む二色ベゼルのGMTマスターII「ペプシ」も外れた。これを青いセラクロムの生産配分と結びつける見方もあるが、推測の域を出ない。126619LBは、2世代からなる小さな系譜の現時点での終点に位置している。
意匠分析
126619LBのケースとブレスレットは、ともに18Kホワイトゴールドで作られる。41mmへの拡大と細く絞られたラグ、21mmへ広がったラグ幅は、2020年世代に共通する更新である。リューズガードの角度が強められた点も同様だ。本機ではそれが金無垢の造形として具現化された。鋼より比重の大きい素材だが、ラグの細身化によって視覚的な量感は抑えられている。
ブレスレットは3連のオイスターで、鋼モデルが全面サテン仕上げであるのに対し、中央リンクにポリッシュが施される。ロレックスが金無垢のスポーツモデルで踏襲してきた作法であり、前任116619LBから引き継がれた。クラスプはオイスターロック折畳式で、グライドロック機構により約2mm刻みで最大20mmの延長ができる。
文字盤は艶のある黒のラッカー仕上げである。インデックスと針は18Kホワイトゴールド製で、Chromalight夜光が充填され、暗所では青く発光する。三角・丸・棒を組み合わせたインデックスは、水中での誤読を防ぐためのサブマリーナの文法をそのまま守る。前任では青い文字盤の上に並んでいたホワイトゴールドの縁取りが、黒の上ではより硬質に浮かぶ。
ベゼルは逆回転防止式の60分目盛りで、インサートに青のセラクロムを用いる。凹彫りの目盛りと数字にはプラチナがコーティングされ、ホワイトゴールドのケースと色調が揃う。Ref末尾の「LB」は、フランス語のlunette bleue(青いベゼル)の略とされる。本機の識別の核がこのリングにあることを示す名である。
ムーブメントは自社製のCal.3235である。前任のCal.3135に代わり、Chronergyエスケープメントと青いパラクロム・ヒゲゼンマイを備える。パワーリザーブは約48時間から約70時間へ伸びた。精度はSuperlative Chronometer(高精度クロノメーター)として認定される。ケーシング後に日差±2秒以内を検査する、ロレックス独自の基準である。
系譜と歴史
2020年春の見本市はコロナ禍で相次いで中止・延期となり、ロレックスも新作発表の延期を余儀なくされた。最終的に同社は、2020年9月1日に公式サイトとSNSを通じて新作を公開する。この日発表されたサブマリーナ8本のうちの1本が126619LBである。前任116619LBは、2008年の発表から12年を経て、この世代交代とともにカタログを離れた。
黒文字盤と青ベゼルという発表時の構成は、その後も変わらなかった。約5年半のあいだ、文字盤の刷りやベゼル、ブレスレット、ムーブメントについて、公式に告知された仕様変更は確認できない。色違いや宝飾仕様といった派生も確認されておらず、126619LBは発表時の1仕様のまま生産が続いた。
2026年4月14日、Watches and Wonders 2026の開幕にあわせてロレックスは公式サイトを更新した。このとき126619LBはカタログから姿を消している。この年のロレックスはオイスターケース誕生100周年を掲げていた。GMTマスターIIの126710BLROと126719BLROも、同じ更新で外れている。同年の新作にサブマリーナの新しいRefは含まれず、ホワイトゴールドのサブマリーナはラインナップから消えたとされる。
生産期間は2020年から2026年までの約5年半である。ロレックスは生産数を公表していない。2026年9月現在、本機は生産終了モデルである。