設計思想
1. 50周年に選ばれた「色」という回答
1953年に始まるサブマリーナは、2003年に誕生から50年を迎えた。ロレックスがこの節目に用意したのは、刻印入りの限定版でも新設計のケースでもなかった。通常生産のサブマリーナ デイトのベゼルを、緑に替えるという選択である。
ステンレスのサブマリーナは、それまで黒ベゼルを基本としてきた。そこに持ち込まれた緑は、ロレックスが時計を収める箱にも用いてきたハウスカラーである。型番末尾のLVは、フランス語で緑のベゼルを意味する「Lunette Verte」に由来する。当時のEuropa Star誌は、この緑が実質的な改変なしにサブマリーナの印象を一変させたと評したとされる。
2. 変えなかったものと、変えたもの
16610LVの骨格は、1980年代末から続く16610そのものである。ケース、ムーブメント、ブレスレットは、黒ベゼルの16610LNと共有する。記念モデルでありながら、機能を示す数字には一切手を触れていない。
一方で、文字盤には明確な差がつけられた。インデックスと針を大型化したマキシダイヤルの採用である。ベゼル色だけの変更なら、黒ベゼル仕様との違いはベゼルに限られたはずだ。文字盤の顔つきまで変えたことで、16610LVは色違い以上の独立したRefとして成立した。
大ぶりなインデックスは、続くセラクロムベゼル世代のサブマリーナにも採用される。16610LVはアルミニウムベゼル時代の終盤に属しながら、結果として次世代の文字盤を先取りしていた。
3. MK1という区分が示すもの
MK1はロレックスの公式呼称ではない。16610LVは約7年の生産期間に、文字盤の刷りとベゼル書体の小変更を重ねた。コレクターはその違いを「マーク」と呼んで整理してきた。
MK1とされるのは、発表年の2003年から2004年にかけての最初期ロットである。記念の年に発表された姿を最も直接に伝える点で、MK1は16610LVの原点を示す仕様といえる。
ただし分類法は一つではない。文字盤とベゼルの組み合わせで数える体系と、文字盤だけで数える体系が並存し、同じ個体でも呼び名が変わりうる。
4. 緑ベゼルの系譜へ
16610LVは2010年に生産を終えた。同年に登場した後継の116610LVは、ベゼルをセラクロムに改め、文字盤まで緑に染めた。黒文字盤に緑ベゼルという組み合わせは、ここで一度途切れる。それが戻ってくるのは、41mmケースとCal.3235を得た2020年の126610LVである。その出発点にあたるのが、16610LVの最初期に位置するMK1である。
意匠分析
16610LVのケースは、同時代の黒ベゼル16610LNと共通の40mm径である。素材は904Lステンレススチールで、ラグ幅20mm、300m防水も変わらない。
ラグにはベルト交換用の貫通穴がない。2000年代前半に16610系全体へ広がった仕様で、ラグの側面はすっきりとした一枚の面になった。
最大の意匠的変更は文字盤にある。インデックスは16610LNより一回り大きく、時針と分針も幅を増した。コレクターはこの構成をマキシダイヤルと呼ぶ。夜光塗料の面積も広がり、スーパールミノバが暗所で緑色に光る。
MK1を識別する手がかりは、文字盤の刷りの細部にある。「ROLEX」のOはやや横長の楕円形をしている。「OYSTER」のRは、上段にある「ROLEX」のRの2本の脚のちょうど中間に位置する。6時位置の「SWISS MADE」は字幅が広く、短く刷られた5本の分目盛りの上にまたがる。後のマークでは、Oが真円に近づき、SWISS MADEの字幅も詰められていく。
ベゼルは逆回転防止式で、インサートはアルミニウム製である。MK1のインサートでは、40分位置の「4」の頭が平らに刷られている。この書体は後に、先端の尖った「4」へ改められる。わずかな字形の差だが、文字盤の刷りと並んで最初期の個体を見分ける手がかりとなる。
ブレスレットはリファレンス93250のオイスターブレスで、ソリッドエンドリンクとフリップロック式クラスプを備える。これも16610LNと共通の部品である。
ムーブメントも16610LNと同じ自社製Cal.3135を積む。毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブ約48時間のCOSC認定クロノメーターである。日付はサファイアクリスタル上のサイクロップレンズで拡大される。文字盤の変更は、この機械の上に載る表示部だけで完結している。
系譜と歴史
16610LVは、2003年4月に開かれたバーゼルワールド2003で発表された。サブマリーナ誕生50周年に合わせたモデルである。発表時の公式写真ではラグに貫通穴が見えるが、市販品は穴のないケースで出荷されたとされる。
最初期の個体のシリアルは「Y」で始まり、2003年の終盤には「F」シリアルへ移った。2004年も同じ仕様で生産が続いた。Yシリアルと初期のFシリアルの個体は、第1世代の文字盤と平らな「4」のベゼルインサートを組み合わせる。この仕様が、コレクターの間でMK1と呼ばれる。
発売当初の売れ行きは期待を下回り、店頭に数か月とどまる個体もあったとされる。そのため、保証書の販売日がシリアルの示す年より後になる個体も珍しくないという。
2004年の後半、ベゼルの「4」は先端の尖った書体へ切り替わる。移行期には、MK1と同じ文字盤に尖った「4」のインサートを組み合わせた個体も存在する。平らな「4」を伴うMK1の生産は、2004年の秋から年末にかけて終わったと見るのが一般的である。
以後の16610LVは、文字盤の刷りやベゼル書体の小変更を重ねた。コレクターの分類では、7種から9種のマークに分けられる。後期の個体には、見返し(リホー)に刻印を施したケースも用いられた。
16610LVは2010年に生産を終え、最終期の個体にはランダムシリアルが与えられた。2003年の発表から約7年の生産期間のうち、MK1が占めるのは最初の2年足らずである。
出典
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