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BRAND · CH · EST. 2005

MB&FMB&F

Country
CH
Founded
2005
Headquarters
スイス ジュネーヴ
Group
独立(マキシミリアン・ブッサー60%、セルジュ・クリクノフ15%、シャネル25%、2024年8月時点)
Founders
マキシミリアン・ブッサー
Web
www.mbandf.com ↗

独立時計師たちと「フレンズ」の名のもと共創を重ね、腕時計を三次元の動く彫刻へと作り変え続けるジュネーヴの概念工房

01 — 概要 / OVERVIEW

MB&F(Maximilian Büsser & Friends)は、2005年にマキシミリアン・ブッサーがスイス・ジュネーヴで設立した独立時計ブランドである。ブッサーがハリー・ウィンストン時代に確立した独立時計師との共創モデルを発展させ、外部のフレンズと呼ばれる協力者を対等な共同制作者として明示する点に最大の特徴がある。未来志向の彫刻的造形を追求するホロロジカル・マシン、19世紀的な構造美を現代に翻案するレガシー・マシン、そして2025年に立ち上がったスペシャル・プロジェクトの三系列を軸に、時計を機械芸術として再定義する試みを続ける。2024年にはシャネルが少数株主として参画した。

02 — Philosophy

設計思想

What this house values

MB&Fは時計を「時刻を告げる装置」ではなく「時刻を語る装置」と位置づけ、機械式時計を三次元の動く彫刻へと再構築することを掲げてきた。創業者ブッサーは「市場が何を求めているかに左右されずに作る」「価値観を共有する者とだけ働く」という二つの原則を起業時に定め、以来これを変えていないと公言している。

機構面では、複雑機構そのものよりも、機構をいかに見せ、どのような体験として提示するかに比重を置く。トゥールビヨンや永久カレンダーといった伝統的複雑機構を扱う際も、文字盤の上にテンプを浮かせる、機構の構造を逆転させる、機械式の「演算装置」として組み直すといった形で、機能の再定義が伴う。2015年のLM Perpetualで採用された「メカニカル・プロセッサー」方式は、その代表例である。

意匠面の特徴は、ホロロジカル・マシン(HM)に顕著な物体としての強さである。ジェット戦闘機、ブルドッグ、深海生物、未来建築といった発想源を出発点に、ケースそのものを彫刻として設計する。これに対しレガシー・マシン(LM)は、「もし自分が1867年に生まれていたら作ったであろう懐中時計」という思考実験から出発し、19世紀の構造美を現代の視点で再構成する。両系列はブランド内部の二つの極を形づくっている。

商業哲学において特異なのは、ブランドが「フレンズ」と呼ぶ外部の独立時計師・設計者・職人を、対等な共同制作者として公に明示する姿勢である。エリック・ジルー、ジャン=マルク・ヴィーデレヒト、ステファン・マクドネル、カリ・ヴゥティライネンといった協力者の名は、製品とともに公表される。

「規模の拡大を目的にしない」という原則も一貫しており、年間生産は数百本にとどまる。創業者ブッサーは「成長したくない」と公の場で繰り返し述べている。

03 — Story

物語

A narrative of the house

1. 一人の若い経営者が抱えた違和感

マキシミリアン・ブッサーは1967年、スイス人外交官の父とインド人(パールシー)の母のもとにイタリア・ミラノで生まれた。1971年、3歳のときに家族とともにスイス・ローザンヌに移り、青年期を同地で過ごす。ローザンヌ工科大学(EPFL)でマイクロテクノロジーを修め、1991年に同校を卒業。同年ジャガー・ルクルトに入社し、製品担当として7年間在籍した。当時CEOだったアンリ=ジョン・ベルモンの薫陶を受けたとブッサー本人は繰り返し語っている。

1998年、31歳のブッサーはハリー・ウィンストン・レア・タイムピースのCEOに招かれる。在任7年で部門の年商は800万ドルから8,000万ドルに伸び、2001年に始動した「オーパス」シリーズは、フランソワ=ポール・ジュルヌをはじめ毎年異なる独立時計師との共同制作という新しい型を業界に提示した。ブッサーはこの時期に、独立時計師の力を借りて時計を作る回路を身につけた。

2001年に父を失ったブッサーは、自身が「市場が売れると見込むものを作っていた」ことに直面したと語る。創業時に掲げた二つの原則 — 市場の声に従わない、価値観を共有する者とだけ働く — は、この内省を経て生まれたとされる。

2. 「マキシミリアン・ブッサー・アンド・フレンズ」の起点

2005年7月、ブッサーはMB&Fを設立した。社名は「Maximilian Büsser & Friends」の略であり、共同制作者を明示する意思表示でもある。創業時の資本は、未完成のスケッチ一枚と、製品を信じて代金の30%を前払いした少数の販売店だけが支えた。

2年の試行を経て2007年に発表されたHM1は、4つの香箱を直列・並列の双方で接続する世界初の機構と、上部に配された中央トゥールビヨン、48要素から成る三次元ケースを特徴とした。北アイルランドの時計師ステファン・マクドネルがHM1の実現に深く関与しており、彼の名は後年の重要作品にも繰り返し現れる。

3. 拡張と試練の時代

2008年のHM2、2009年のHM3、2010年のHM4 サンダーボルトと、ブランドは独自の造形言語を急速に拡張した。一方、世界金融危機の時期はMB&Fを含む独立系全般にとって厳しい局面であり、業績の伸びは抑制された。ブッサーはのちに、創業初期に事業継続が危ぶまれる局面が何度かあったと振り返っている。

4. レガシー・マシンによる二つ目の極

2011年に発表されたLM1は、HMで築いた未来志向とは対照的に、19世紀的な懐中時計の構造美を出発点に据えた。「もし自分が1867年に生まれていたら、どのような腕時計を作るか」というブッサーの問いから生まれた円形・三次元構造である。文字盤上に浮かぶ大型テンプ、垂直のパワーリザーブ表示、二つの独立した時刻表示が特徴で、デザイナーのエリック・ジルーとの長期的協業もここから本格化した。LM1は2012年のGPHGで最優秀メンズウォッチと一般審査賞を同時受賞し、ブランドの読者層を一気に拡げた。同じ2011年、ジュネーヴに最初のM.A.D.(Mechanical Art Devices)ギャラリーが開設されている。

5. 構造の再発明 — LM PerpetualからLM Sequentialへ

2015年のLM Perpetualは、永久カレンダーという伝統機構を根底から再設計した作品である。マクドネルが「メカニカル・プロセッサー」と呼ぶ新方式は、月の日数を月側ではなく中央の演算機構に保持させ、誤操作時のギア損傷を回避する設計を採る。581部品からなる新キャリバーは、翌2016年のGPHGで最優秀カレンダーウォッチ賞を獲得した。

その延長線上に2022年のLM Sequential EVOがある。MB&F初のクロノグラフは、2系統の独立した計測系を単一エスケープメントに連結し、「ツインバーター」と呼ぶ切替機構で計測モードを瞬時に変える構造を備えた。同作はGPHG最高賞「金の針(Aiguille d'Or)」を受賞している。

6. 第三の柱と20年目

2021年、より手の届く価格帯を目指す姉妹ブランドM.A.D.Editionsから第1作M.A.D.1が発表された。創業以来温められてきた「親しい人々にも手の届く時計を」という構想が、ここで具体化したことになる。2024年8月、シャネルが25%の少数株主として参画し、ブッサー60%、長年のパートナーであるセルジュ・クリクノフ15%という新たな資本構成が成立した。経営権はブッサー側に保持され、独立性は維持される枠組みとされている。

2025年、設立20周年にあわせて、HMとLMに続く第三の系列「スペシャル・プロジェクト」が立ち上げられ、初作SP Oneを発表。直径38ミリの円形薄型ケースに、香箱・テンプ・傾斜文字盤の三つの円を浮かせる構成を採り、これまでの巨大な造形とは異なる路線を提示した。20年で20を超える自社キャリバーを世に出し、約60名の従業員と数百名のフレンズを擁する組織へと、MB&Fは静かに姿を変えつつある。

04 — History

歴史

A factual chronology

MB&Fの歩みは、創業者マキシミリアン・ブッサーがそれまでに築いた業界経験を、独立系の枠組みに移し替えた時点から始まる。1991年にEPFLを卒業したブッサーはジャガー・ルクルトに入社し、1998年から2005年までハリー・ウィンストン・レア・タイムピースのCEOを務めた。在任中の2001年に独立時計師フランソワ=ポール・ジュルヌとの協業で「オーパス」シリーズを立ち上げ、複数の独立時計師を毎年招く方式を業界に提示する。

2005年7月、ブッサーはジュネーヴでMB&Fを設立した。2年の準備期間を経て、2007年に最初の作品ホロロジカル・マシン No.1(HM1)を発表。中央配置のトゥールビヨンと4つの香箱、376部品からなる三次元ムーブメントを備えた構造は、それまでの腕時計の文法から大きく逸脱していた。続いて2008年にHM2、2009年にHM3、2010年にHM4 サンダーボルトとHM3 Frogが発表され、独自の造形言語が形成されていった。

2011年は二つの転機が訪れた年である。10月に発表されたレガシー・マシン No.1(LM1)は、文字盤上に大型テンプを浮かべる円形時計で、HMの未来志向とは対照的な19世紀的造形を提示した。同年、ジュネーヴに最初のM.A.D.ギャラリーが開設されている。LM1は2012年のジュネーヴ時計グランプリ(GPHG)で最優秀メンズウォッチと一般審査賞を同時受賞した。

2013年にはLM2、2014年にブランド初の自社開発ムーブメントを搭載したLM101が登場。2015年のLM Perpetualはステファン・マクドネルとの共同開発で、永久カレンダー機構を「メカニカル・プロセッサー」と呼ぶ新方式で再設計し、翌年GPHG最優秀カレンダーウォッチ賞を受賞した。2017年にLM Split Escapement、2019年にブランド初の女性向け作品LM FlyingTを発表。2020年にはHM10 ブルドッグが登場した。

2021年6月、姉妹ブランドM.A.D.Editionsの第1作M.A.D.1が発表され、より手の届く価格帯への展開が始まる。2022年のLM Sequential EVOは2系統のクロノグラフを統合した構造でGPHG最高賞「金の針」を受賞。2023年にはHM11 Architectが、2024年にはLM Sequential Flyback(プラチナ)が発表された。

経営面では、2024年8月にシャネルが25%の少数株主として参画。ブッサー60%、セルジュ・クリクノフ15%、シャネル25%の構成となった。2025年、設立20周年にあわせ第3の系列「スペシャル・プロジェクト」が立ち上げられ、初作SP Oneと、M.A.D.Editionsの第2作M.A.D.2(エリック・ジルー設計)が発表されている。

05 — Series overview

シリーズ概観

How the series relate

MB&Fの製品は、現在4つの系列に整理できる。

ホロロジカル・マシン(HM)は2007年のHM1を起点とする、未来志向の彫刻的な系列である。ジェット戦闘機(HM4)、カエル(HM3 Frog)、ブルドッグ(HM10)、未来建築(HM11 Architect)など多様な発想源から造形が組まれ、文字盤と機械の関係そのものが再構築されている。各作品は専用の三次元ムーブメントを必要とするため、機構と意匠が不可分の関係にある。

レガシー・マシン(LM)は2011年のLM1で始まる円形・伝統指向の系列である。「もし1867年に生まれていたら」というブッサーの思考実験を出発点に、19世紀的な構造美を現代の解釈で組み直す。LM101がブランド初の自社開発ムーブメントを搭載した実用作とすれば、LM Perpetualは永久カレンダーを根底から作り直した複雑機構の到達点であり、LM Sequentialは2系統のクロノグラフを統合したGPHG最高賞受賞作となっている。2019年のLM FlyingTはブランド初の女性向け作品として位置づけられる。

スペシャル・プロジェクト(SP)は2025年に立ち上がった三つ目の系列である。初作SP Oneは直径38ミリ・厚さ12ミリの円形ケースに、香箱・テンプ・傾斜文字盤の三円を浮かせる構成を採り、薄型ドレスウォッチに位置づけられる。HMの巨大さもLMの懐中時計的造形も持たない、第三の語彙を担う。

M.A.D.Editionsは2021年から展開する姉妹ブランドで、本体MB&Fとは別の名のもとに、より手の届く価格帯の作品を出している。第1作M.A.D.1は数千スイスフランと、HMやLMから一桁以上低い価格帯を実現した。2025年の第2作M.A.D.2はエリック・ジルーが主導しており、本体側の「フレンズ」モデルを姉妹側で別個に展開する構図が見えはじめている。

これらに加え、ブルガリやH.モーザー&シー、彫金家エディ・ジャケなどとの協業作品が「パフォーマンス・アート」のカテゴリーで継続的に発表されている。

06 — Series

代表シリーズ

Lineages of one house
シリーズ一覧 →
07 — Calibers

主要キャリバー

Movements of the house
キャリバー一覧 →
08 — Cultural

文化との接点

Where this house meets the wider world

MB&Fが意識的に文化と結ぶ接点は、有名人とのスポンサー契約ではなく、機械芸術(Mechanical Art)という枠組みである。2011年にジュネーヴで開設されたM.A.D.ギャラリーは、自社の時計を独立した他の機械芸術作品とともに展示する空間として構想された。現在ではジュネーヴに加え、ドバイ、台北、香港にも展開している。

作品単位での文化的参照も顕著である。HM4 サンダーボルトは第二次世界大戦期の戦闘機を、HM10 ブルドッグは犬の咬合機構を、HM11 アーキテクトはハンガリーの建築家アンティ・ロヴァグの「ハビトロジー」を、それぞれ造形の出発点としている。HM6には日本のアニメに登場する宇宙船から着想を得たとブッサー自身が公言する作品もあり、特定の時代・地域のサブカルチャーが取り入れられてきた。

2024年にはフランスのアーティスト、ジャン=シャルル・ド・カステルバジャックがM.A.D.Editionsに外部クリエイターとして初めて参加した。彫金家エディ・ジャケとの協業作品はGPHGの芸術技能(Artistic Crafts)部門で受賞しており、伝統工芸との接続も保たれている。