03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
1. 創業10周年という原点
MB&Fは、2005年にマキシミリアン・ブッサーが立ち上げた独立系である。代表作は二つの系統に分かれる。立体的な機構を核とするホロロジカル・マシンと、円形の時計を再解釈したレガシー・マシンである。
HMXは、その創業10周年にあたる2015年の記念作として登場した。「X」はローマ数字の10を指す。SJXは、HMXをそれまでのホロロジカル・マシンのなかで格段に手の届きやすい一本と紹介し、ポルシェのボクスターやケイマンが旗艦の911の少し下に置かれるのになぞらえた。当初はロータス・ブラック、ブリティッシュ・レーシング・グリーン、フェラーリ・レッド、ブガッティ・ブルーの4色が各20本、計80本の限定で作られた。
2. HM5から継いだ光学表示の系譜
HMXの時刻表示は、2012年のHM5の延長線上にある。SJXによれば、HMXは本質的にHM5を大幅に簡略化した時計で、ランボルギーニ・ミウラに想を得たHM5と同じく自動車に着想を得ている。動き続ける分とジャンピングアワーという機能も、ムーブメントの上面に表示の円盤を置く構成も同じである。
一方で、HMXはHM5よりはるかに簡素に作られている。SJXは、MB&Fが初めて、ETAの廉価な互換機を作るセリタのベースムーブメントを使ったと書き、時刻表示の機構もある程度簡略化されたと指摘する。Monochromeも、脱進機、輪列、動力の蓄えについては簡素で信頼できるセリタの機械に頼っていると説明している。
3. 汎用ベースと独自の表示の組み合わせ
HMXのエンジンは、量産されるセリタの機械を動力源としつつ、個性の宿るジャンピングアワーの表示を上に重ねた構成である。動力源には実績ある汎用のベースを充て、意匠と機構の核となる上部の表示に力を注ぐ。HMXが記念作としてMB&Fのなかで手の届きやすい位置に置かれた背景には、この設計の判断がある。
4. ブラックバッジャーによる再解釈
2016年、MB&Fはスウェーデンを拠点とするブラックバッジャー・アドバンスト・コンポジッツの創業者ジェームズ・トンプソンと協業し、HMX ブラックバッジャーを発表した。トンプソンは、硬い樹脂に蓄光剤を混ぜたAGTウルトラという素材を得意とし、その素材がこの時計に組み込まれた。レーダー・グリーン、ファントム・ブルー、パープル・レインの3色が、各18本ずつ用意された。
04 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
HMXエンジンの土台は、セリタ製の自動巻きムーブメントである。Monochromeによれば、脱進機、輪列、動力の蓄えはこのベースが担う。振動数は28,800vph (4Hz)、パワーリザーブは42時間とされる。4Hzとは、テンプが1秒間に8回振れる速さを指す。
巻き上げは、MB&Fに通例の斧形のローターではなく、タービンのような形の金のローターが担う。Monochromeは22金の無垢のローターと書き、SJXはレッドゴールド製の「ミステリー・ローター」と紹介している。ローターには「創造的な大人とは、生き延びた子供である」というMB&Fの標語が刻まれ、裏面のサファイアクリスタル越しに見える。
この土台の上に、MB&Fが手がけた時刻表示が載る。ここがHMXの核心であり、ブランドの個性が集約された領域でもある。時と分を示す円盤は、ムーブメントの上面に水平に置かれ、時の円盤は双方向のジャンピングアワー、分の円盤はトレーリングミニッツを担う。円盤には鏡に映した形の数字が印刷されている。
そこで用いられるのが、2枚のサファイアのプリズムである。プリズムは光の進路を曲げる透明な光学部品で、一方が時、もう一方が分を受け持ち、水平に並ぶ数字を垂直方向へ反射して、前を向いた表示に立ち上げる。プリズムの前には凸面のサファイアクリスタルが置かれ、反射した数字を拡大して読みやすくする。
上面の意匠は、スーパーカーのエンジンを模している。サファイアのカバーの下に表示の円盤と大きな2枚の受けが見え、受けはストラップに合わせて青・赤・緑・黒のいずれかに色付けされる。頂部には光沢のある2つのオイル注入口の蓋が付く。SJXによれば、この蓋は装飾ではなく、外すと時計師が表示の円盤の石の軸受に注油できる実用の開口である。
ケースはグレード5チタンとステンレススチールを組み合わせ、寸法は46.8×44.3×20.7mmである。SJXは、これをホロロジカル・マシンとしては小ぶりなケースと書いている。2016年のHMX ブラックバッジャーでは、硬い樹脂に蓄光剤を混ぜたAGTウルトラを組み込んだ。SJXによれば、一般的な時計の夜光が塗料のスーパールミノバであるのに対し、この素材は光を受けて蓄えたエネルギーを放ち、暗所で光る塊として使われる。
土台に実績ある汎用機を選び、表現の核に手をかけるという配分が、HMXの機構全体を貫く考え方である。