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MB&F · SERIES

M.A.D. Editions

売るためでなく贈るために始まった、抽選で分かち合うMB&Fの機械仕掛けアート・ウォッチ

42 mm
01 — 概要 / SUMMARY

M.A.D. Editionsは、MB&F創業者マキシミリアン・ブッサーが2021年に立ち上げた、本流より大幅に手の届きやすい姉妹レーベルである。名はMechanical Art Devices(機械仕掛けの芸術装置)に由来し、同社のM.A.D.Galleryの世界観を腕時計へ落とし込む。反転搭載した機械の上で回転ローターが舞い、時刻は側面から読む——MB&Fのデザイン言語を凝縮した初代M.A.D.1に始まり、スイス機構へ刷新したM.A.D.1S、ターンテーブルを思わせるM.A.D.2へと枝分かれした。販売ではなく抽選による頒布を貫く点も、この系譜を特徴づける。

02 — STORY · 物語

M.A.D. Editions、これまでの軌跡

The story of this series
01

「ありがとう」から始まった企画

MB&Fの腕時計は、その複雑さと仕上げゆえに高額である。創業者マキシミリアン・ブッサーには、それを買えない友人や家族、そして製品を支える職人たちがいた。彼らに自分の作品を届けられないことへの、ある種の引っかかり。その思いが、手の届く価格の並行ブランドという構想を生む。

着想自体は2014年に遡るとされる。MB&F本体に注力するなかで一度は立ち消えになり、2020年から2021年にかけて設計が詰められた。数百本が用意されたが、それはMB&Fの名を冠さない。エンジニアリングも仕上げも本流と同列には置けないからこそ、別の看板を選んだ。名はM.A.D.Editions——同社のM.A.D.Galleryが扱う「機械仕掛けの芸術」の世界に連なる命名である。

02

2021年、売られなかった初号機

2021年6月、ジュネーブ・ウォッチ・デイズで初代M.A.D.1が披露された。ただし正式な発表はなく、対象はMB&Fを支える供給業者「Friends」と顧客「Tribe」のおよそ500名。市販品ではない、贈り物としての時計だった。

ところが街中でそれを巻いた当選者たちが歩けば、話題は一気に広がる。問い合わせが殺到し、企画は当初の想定を超えて動き出す。同年にはチャリティのための一点物M.A.D.1 Pink Dial Projectも登場し、推定を大きく上回る額で落札されたと伝えられる。

03

抽選という流儀

2022年3月、一般向けのM.A.D.1 Redが投入された。希望者の多くへ公平に行き渡らせる手段として選ばれたのが、抽選である。以後この方式はM.A.D.Editionsの代名詞となり、毎回数千人が登録する一種の「行事」へと育っていく。

派生も広がった。2022年末にはイタリアの販売店向けの特別仕様M.A.D.1 GMT Milano、2023年にはミントグリーンのM.A.D.1 Green。2024年にはフランスのデザイナー、ジャン=シャルル・ド・カステルバジャックを迎えた999本限定が登場し、外部クリエイターとの初の協業となった。所有者は数年でおよそ6,000人に達したと報じられている。

04

スイス機構への移行

2024年のジュネーブ・ウォッチ・デイズで、M.A.D.1Sが発表された。最大の変化は心臓部にある。初代が日本のミヨタ製キャリバーを採った理由は、コストだけではない。ローターを派手に回すには単方向巻き上げの機構が要るが、当時それを満たすスイス製が見つからなかったのである。

その後、ラ・ジュー・ペレがG101を世に出し、条件が揃った。M.A.D.1Sはこのスイス製機構へ換装され、2本あった時刻表示の筒は1本に整理。厚みは15mmへと約2割薄くなった。協業も続き、英国のデザイナー、インカ・イロリとの一作も生まれている。

05

二作目とクラブカルチャー

2025年、MB&Fの創業20周年に合わせて、まったく新しいM.A.D.2が登場した。手がけたのはMB&Fの最初の1本を設計した盟友エリック・ジロー。題材は彼が浸った1990年代ローザンヌのクラブシーンであり、レコードとDJのターンテーブルが意匠の核にある。

時刻はジャンピングアワーで飛び、丸い小石のようなケースは、ジローが1990年代に温めながら実現しなかった「Almond」の構想を引く。緑とオレンジの2種で始まり、2026年には赤と黒のR&B、そして4回以上落選し続けた忠実なファンだけに直接届けられるREDemptionが加わった。

06

現在地

「ありがとう」の一企画は、いつしか持続するブランドになった。各回の抽選には数千の応募が集まり、新作の頒布そのものが一つの出来事として受け止められている。価格を抑える、機械の動きを見せる、そして買うより当てる——出発点の流儀は、いまも変わっていない。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

M.A.D.Editionsには、サブマリーナのように70年不変の「顔」があるわけではない。むしろこの系譜を貫くのは、視覚的な定型ではなく一つの姿勢である。機械の動きを見せること、価格を抑えること、そして仕立ての出自に正直であること。

機構の見せ方に、その思想が最も濃く出る。初代M.A.D.1はムーブメントを上下反転して搭載し、トップのサファイアごしに3枚羽根のローターが舞う。これはMB&Fが初代Horological Machineから用いてきた、漫画的な「バトルアックス」ローターを3枚羽根に翻案したもので、各羽根にはスーパールミノバの帯が引かれる。時刻を側面から読ませる横読み表示も、HMシリーズで試みられた発想の延長にある。一方のM.A.D.2は、回転ローターという飛び道具を手放し、レコード盤を思わせる円盤とジャンピングアワーで「回る」感覚を別の形に翻訳した。

意匠の語彙は機種ごとに違っても、土台にある選択は共通する。基幹ムーブメントはミヨタ、のちにラ・ジュー・ペレと、いずれも既製の汎用機である。それを隠さず、別レーベルとして送り出す。高級時計の仕上げを競うのではなく、構想と見せ方に価値を置くという割り切りがそこにある。

ケースもまた抑制的だ。防水は一貫して30m、径は42mmに据え置かれ、世代を追うごとに厚みだけが18.8mmから15mm、12.3mmへと薄くなった。派手な素材や複雑な装飾には踏み込まない。あくまで日常の腕の上で、ふとした拍子に機械が動いて見える——その一瞬のために設計が組まれている。MB&F本流のHorological Machineが空想の機械を志向するのに対し、M.A.D.Editionsは身近な驚きへ焦点を絞った姉妹版といえる。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
2021-2024
Miyota Cal. 821A
汎用自動巻を反転搭載。単方向巻上で回転ローターが回る。
2024-現在
La Joux-Perret Cal. G101
スイス製の単方向巻上機。後にジャンピングアワー機構を追加。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
2021-2024

横読み表示の初代M.A.D.1

M.A.D.1
Miyota基盤を反転搭載、横読み表示と回転ローター。抽選で頒布開始。
2024-現在

スイス機構のM.A.D.1S

M.A.D.1 S
ラ・ジュー・ペレ製へ換装、単筒表示化。厚さ15mmへ薄型化。
2025-現在

ターンテーブルのM.A.D.2

M.A.D.2
エリック・ジロー設計、ターンテーブル意匠とジャンピングアワー。
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 1 モデル

1 references in archive