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MB&F · SERIES

Horological Machines

ホロロジカル・マシン

一台ごとに姿も主題も変えながら、『時を告げる機械』という宣言だけは貫いてきた、立体造形時計の系譜

45 mm – 46.8 mm
01 — 概要 / SUMMARY

Horological Machines(HM)は、MB&Fが2007年のHM1で開始した立体造形時計の系譜である。文字盤と針で時を読ませる従来の発想を離れ、宇宙船や航空機、スーパーカー、深海生物、建築といった主題ごとに造形を一から構想し、その形に合わせて専用エンジンを組み上げる。創業者マキシミリアン・ブッサーはこれを「時を告げるための機械ではなく、時を告げる機械」と表現する。現行ラインにはドライバーズ系のHM8 Mark 2、建築を主題とするHM11 Architect / Art Decoなどが並ぶ。

02 — STORY · 物語

Horological Machines(ホロロジカル・マシン)、これまでの軌跡

The story of this series
01

「時を告げる機械」という宣言

MB&Fは2005年、マキシミリアン・ブッサーが独立して興した工房である。最初の製品が世に出たのは2007年、ホロロジカル・マシンの第一作HM1だった。砂時計を思わせる横長のケースは幅64mmに達し、中央に立てたトゥールビヨンを左右の逆行表示が挟む。文字盤を平面ととらえる常識から外れ、ケースそのものを立体彫刻として設計した最初の一台である。

ブッサーはこの系譜を「時を告げるための機械(machine to tell the time)ではなく、時を告げる機械(machine that tells the time)」と表現する。実用上の視認性は副次的で、機構と造形それ自体が主役になるという宣言だった。HM1のエンジンは4つの香箱を直列・並列に組み合わせ、7日間の動力を蓄える。設計はエリック・ジルー、ムーブメントはローラン・ベスとピーター・スピーク=マランが担い、最終組み立ては土壇場で降板した業者に代わりスティーブン・マクドネルが引き受けた、と伝わる。社名の「&F(と友人たち)」が、最初から製品の中身そのものだった。

02

造形言語の確立

翌2008年のHM2は、長方形のケースに二つの円形窓を並べ、計器盤のような顔つきを与えた。瞬間ジャンプの時表示、同心の逆行分、逆行日付、両半球のムーンフェイズを一台に収め、機構面でも野心的だった。設計協力にはアジュノーのジャン=マルク・ヴィーダーレヒトらが名を連ねる。

2009年のHM3は、二本の円錐(コーン)を立て、その斜面に時と分を表示した。2010年のHM4「Thunderbolt」は、米軍機A-10とブッサーの少年期のプラモデル体験から生まれた航空機型で、サファイアクリスタルの窓から左右の砲弾型ポッドを覗かせる。HM4はジュネーブ時計グランプリ(GPHG)で最優秀コンセプト&デザイン賞を受けた。ただし2008年前後はリーマン・ショックと重なり、奇抜なマシン群を市場が受け止めるには時間を要した。

03

ハンドルを握る時計

2011年のHM5「On the Road Again」で、MB&Fは新しい表示原理を持ち込んだ。回転ディスクの時刻を、サファイアのプリズムで90度折り曲げてケース側面に映し出す。ハンドルを握ったまま読めるよう、1970年代のアミダやジラール・ペルゴが手がけた「ドライバーズウォッチ」へのオマージュである。ケース上面には開閉式のルーバー(通気口)を備え、ランボルギーニ・ミウラを思わせる意匠をまとった。

この横読みの発想は、2015年の10周年記念モデルHMX、2016年のHM8「Can-Am」へと受け継がれる。HM8の主題は1966年から1987年まで続いた北米のレースシリーズ「Can-Am」で、ロールバーを模した造形をケースに鋲留めした。これらのエンジンはいずれも調達した自動巻きを基盤に、自社開発の表示モジュールを重ねている。横読みの系譜は現行のHM8 Mark 2へと続く。

04

球体と垂直構造

2014年のHM6「Space Pirate」は、ブッサーが少年期にテレビで見た日本のアニメ『キャプテン・フューチャー』(仏題 Capitaine Flam)の宇宙船コメット号を発想源とする、と本人が語る。生物的な曲面ケースの四隅に球体を置き、計10枚のサファイアクリスタルで覆った。中央にはブランド初のフライングトゥールビヨンが回り、自動巻きローターに連動する二基のタービンが回転速度を抑える。

2017年のHM7「Aquapod」は、クラゲを主題とする初の円形マシンである。中央のフライングトゥールビヨンを頂点に、巻き上げローターから表示までの全機構が同心円状に重なる垂直構造を採る。ベゼルはケースから浮かせて配置され、50m防水ながらダイバーズの形式を借りた。宇宙と深海という異なる主題が、垂直に積層するエンジンという共通の構造で結ばれている。

05

テンプ・動物・建築

2018年のHM9「Flow」は、ジェットエンジンや1950年代のコンセプトカーを思わせる流線形に、二基のテンプを収めた。両者の精度誤差を差動装置で平均し、一つの時刻として導く手巻き機構である。2020年のHM10「Bulldog」では、二つの半球が時と分を示し、開閉する「顎」が動力残量を表す。生物の所作を機構の表示へ翻訳する試みだった。

2023年のHM11「Architect」は、1960年代の前衛建築を主題に、丸い42mmのケースを四つの「部屋」に分けた。時刻、動力残量、温度計、そして空白の一室。ケース全体が回転し、それ自体が巨大なリューズとして主ぜんまいを巻く。中央には再びフライングトゥールビヨンが据えられた。設計は第一作から関わるエリック・ジルーである。

06

現在地

ホロロジカル・マシンは、単一のモデルが世代交代していく系譜ではない。一台ごとに主題も造形も入れ替わり、共通するのは「ケースが先にあり、機械がそれに従う」という設計の順序と、毎回名を変えて加わる協力者たちだけである。2025年にはHM11の意匠をアール・デコ様式で再構成したHM11 Art Decoが加わった。発表から18年を経てなお、HMは完成された定型を持たない。次の一台がどの主題へ向かうかは、ふたを開けるまで分からない。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

ホロロジカル・マシンを貫く設計思想は、通常の時計製作とは順序が逆である。多くの時計はムーブメントを決め、それを収めるケースを設計する。HMはまずケース——宇宙船、航空機、クラゲ、建築といった立体造形——を構想し、その内部空間に合わせてエンジンを一から組む。HM4の砲弾型ポッドもHM6の球体も、形が機構を規定している。「時を告げる機械」という標語は、この主従関係の宣言でもある。

主題は毎回入れ替わるが、いくつかの要素は系譜を通じて反復する。第一に、22金で作られた斧型(バトルアックス)の自動巻きローター。ブランドの紋章でもあり、多くのモデルで姿を見せる。第二に、構造材としてのサファイアクリスタル。単なる窓ではなく、ケースの一部を成す曲面パネルやドームとして用いられる。第三に、平面の文字盤と針を避け、回転するコーンやディスク、球体、光学プリズムで時刻を示す表示原理。視認性そのものよりも、時の移ろいを目に見える運動として提示することが優先される。

時刻表示の派手さに反して、各モデルの幕引きは抑制的である。HM2、HM3、HM4、HM6はいずれも、最後にステンレススチール製の「Final Edition」を出して生産を締めくくった。希少素材ではなく鋼を終幕に選ぶこの作法は、装飾の過剰へ向かわないという意思表示でもある。

同じく立体機構を追う独立系にユルヴェルクがあるが、両者の方向は異なる。ユルヴェルクが衛星式の時刻表示という一貫した原理を深めるのに対し、MB&Fは原理よりも主題——少年期に愛した乗り物や生き物——を起点に、毎回まったく別の機械を立ち上げる。HMの一貫性は、形ではなく、その作り方の順序にある。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
2007-2010
HM1〜HM4 専用エンジン
外部の時計師と共同開発した専用機。HM1は4香箱構成。
2011-2016
HM5 / HMX / HM8 系
調達した自動巻きを基盤に光学表示モジュールを追加。
2014-2017
HM6 / HM7 エンジン
垂直構造の自社開発機。HM6で初のフライングトゥールビヨン。
2018
HM9 エンジン
二基のテンプを差動装置で平均化する手巻き機。
2020-2023
HM10 / HM11 エンジン
自社開発。HM11は回転ケース巻き上げと中央トゥールビヨン。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
2007-2008

計器盤の時代

HM1 HM2
二眼配置の計器盤的な表示。逆行・ジャンピング機構でHMが出発した。
2009-2010

立体造形の確立

HM3 HM4
回転コーン(HM3)と航空機型(HM4)。立体造形の語彙が定着した。
2011-2016

ドライバーズ系

HM5 HMX HM8
光学プリズムで時刻を側面に映す横読み。スーパーカー由来の造形。
2014-2017

垂直構造世代

HM6 HM7
球体と円形の有機造形に、ブランド初のフライングトゥールビヨン。
2018

ツインテンプ

HM9
二基のテンプを差動装置で平均化。ジェット由来の流線形に収めた。
2020

動物モチーフ

HM10
二つの半球が時刻を、開閉する顎が動力残量を示す生物的な躯体。
2023-現在

建築モチーフ

HM11
回転ケース自体がリューズとなり巻き上げる。四室構成と中央トゥールビヨン。
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 2 モデル

2 references in archive