03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
機械を生き物に見立てる系譜
MB&Fは2005年、マキシミリアン・ブッサーが「Maximilian Büsser & Friends」の名で創設した独立時計ブランドである。製品を時計ではなく「ホロロジカル・マシン」と呼び、立体的な造形と運動を作品の核に据えてきた。SJXは、同社がこれまで一つ目の鶏、光るクラゲ、巨大な蜘蛛のような親しみにくい動物を題材にしてきたのに対し、HM10は身近なブルドッグを手本にしていると書いている。Monochromeも、HM3フロッグやHM7アクアポッドと同じく、技術的というより生き物らしい作風の一本と位置づける。
三つの源流
HM10エンジンは2020年に登場した。SJXは、その意匠がMB&Fの過去の機械から多くを借りていると指摘する。
回転ドームによる時刻表示は、HM3フロッグの「目」に由来する。表示を動かすエネルギーを抑えるため、ドームはアルミニウムを紙のように薄く削り出して作られ、そのおかげで通常の表示を持つLM1と同じ45時間のパワーリザーブを保っている。
背の高いドーム形のサファイアの下に吊り下げた大型のテンプは、レガシー・マシンのシリーズに見られる要素である。Monochromeは、本来はレガシー・マシンの特徴であるこのテンプがホロロジカル・マシンに現れたことを意外としつつ、HM10の生き物らしい性格には合っていると評した。そして、パワーリザーブを示す動く顎は、SJXによればLM1の縦型の残量表示を思わせる。
ブルドッグ、その変奏
HM10は2020年の発表時、グレード5のチタンと、レッドゴールドにチタンを組み合わせた2つの仕様で供給され、いずれも限定数は設けられなかった。ケースは54mm×45mm、厚さ24mmで、50m防水を備える。
同じ機構を使う特別な一本として、2021年のチャリティー・オークションOnly Watchに出品されたHM10パンダがある。ブルドッグのケースをパンダに見立てた一点物で、白と黒のラッカーを施すためにケースの上部をチタンからスチールに変えた。Monochromeによれば、ムーブメントは標準のHM10ブルドッグと同じである。2025年のブルガリとMB&Fによるセルペンティでは、HM10ブルドッグの機械に大きく手を加えたものが使われている。
04 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
HM10エンジンは、時刻表示の主要素をムーブメントの平面の上方へ立体的に持ち上げた、三次元構造の手巻きムーブメントである。単一香箱・34石で構成され、部品数は301に及ぶ。
時刻を示すのは、文字盤側に置かれた2つの回転ドームで、左のドームが時を、右のドームが分を示す。ドームはアルミニウム製の極薄の部品で、紙一枚ほどの厚みまで削り込まれている。この軽量化は単なる薄さの追求ではなく、回転体の慣性を抑え、表示を動かすためのエネルギーを減らすための要請であった。SJXによれば、これによって通常の表示を持つLM1と同じ45時間のパワーリザーブを確保している。
本エンジンの視覚的な中心は、ドームの上方に浮かぶ直径14mmの大型テンプである。テンプは丸みを帯びて磨かれたアーチ状の受けに支えられ、背の高いドーム形のサファイアの下で振動する。正面のサファイアからは、時刻を示す半球とともに、テンプと脱進機の動きも眺められる。脱進機とは、ぜんまいの力を一定間隔で解き放つ機構である。
テンプは毎時18,000振動 (2.5Hz) で時を刻む。現代の量産機が毎時28,800振動 (4Hz) を主流とするなか、HM10は低い振動数を採り、大きなテンプの緩やかな動きを見せる。
動力源は単一香箱で、満巻きから45時間を駆動する。ぜんまいの残量は、蝶番で開閉する「顎」で示される。満巻きに近いときは顎が開いて並んだ歯が見え、ぜんまいがほどけるにつれて閉じていき、口が完全に閉じれば巻き上げが必要という合図になる。Monochromeは、この大きな表示がエネルギーの消費を最小に抑えるよう設計・調整されていると説明している。
巻き上げと時刻合わせの系統は分けられ、ケースから突き出した2つのリューズのうち、一方で巻き上げ、もう一方で時刻を合わせる。
ケースの前後には、2枚の大きなドーム形のサファイアクリスタルが付く。SJXによれば、前面のドームがケースの容積の大半を生み、頂点で24mmに達するため、時計は手首の上で高く座る。裏面のサファイアからは、機械の多くの部分を眺められる。
エネルギーの配分
立体的な時刻表示、大型のテンプ、開閉する顎という三つの見せ場を抱えながら、HM10は単一の香箱で45時間を確保している。紙のように薄いアルミニウムのドームで表示の負担を抑え、顎の表示もエネルギーの消費を抑えるよう調整したことが、この両立を支えている。Monochromeは、この機械をMB&Fが自社で開発したものとしている。